Deep Dive: Future of Work
「働く」の未来図
[qz-japan-author usernames=”tfernholz”]
COVID-19が世界のビジネス環境を激変させるなか、打撃を受けたもののひとつがスモールビジネスです(米国での定義では「最大従業員数500人の企業」)。同時に、パンデミックを経た世界では、スモールビジネスにこそ明るい未来があるという声も聞かれます。
いわゆる中小企業は、大企業に比べると従業員の給与が低い傾向にあります。福利厚生が手厚いわけではなく、昇進の機会も少なければ、生産性も高くありません(いわゆる「スケールメリット」というやつです)。しかも、ほとんどの中小企業が、長続きするわけではありません。
大企業ほどワーカーに給料を払わず、物を安価に生産できない「スモールビジネス」に、それではなぜ肩入れしようというのでしょうか。
一般的な回答として挙げられるのは、米国では中小企業が最も多くの雇用を生み出している、というものです。もっとも、これはちょっとした統計上のトリックで、実際に雇用創出に貢献しているのは「歴史の浅い企業」であって、従業員100人未満の企業による雇用は、米国の全雇用の約3分の1を占める程度です。
にもかかわらず、人びとはスモールビジネスへの愛着を語ります。試みに「理想のダウンタウン」にあって欲しい店を尋ねれば、挙がってくるのはナショナルチェーンではなく、個人経営の地元企業でしょう。米国のダウンタウンの格付け調査でも、個人経営の企業が多く挙げられます。人は、小さな企業がよりよいサービスを提供してくれると信じているのです。
「スモールビジネス」といわれる企業の価値は、経済的なものだけでなく、社会的なものであるともいえます。ニューヨーク在住の精神科医ミンディ・フリラヴ(Mindy Fullilove)は、都市のメインストリートの活気と公衆衛生との関係を長年にわたって調査してきました。
彼女によると、パンデミックで失われてしまったワシントンハイツのレストラン「Coogan’s」は、地元民を雇用するだけでなく、慈善活動やコミュニティプロジェクトに人を集めていたことを例に挙げ、個人経営のビジネスは人と人を結びつける重要な役割を果たしていると主張しています。
「医師としての視点から言えば、これこそが人間の健康を生み出す方法であり、協力的な社会を生み出す方法であり、問題解決のための社会的条件を生み出す方法なのです」と、フリラヴは語ります。
They aren’t profit maximizers
利益の最大化…?
研究によると、中小企業の経営者はいわゆる起業家然とした人たち──斬新なアイデアをもっていて、それをビジネスとして成長させたいと考えている人たちではありません。むしろ、一般的なサービス(PDF)を提供しながら、自身をもって自らの上司として柔軟に仕事をしたいと考えている人たちです。彼らが提供しているサービスはユニークなものもありますが、多くはコミュニティ内の身近な“ニッチ”を満たすものです。
スケールメリットを求めるベンチャーキャピタルなどの投資家が新規投資先を探す際、サステイナブルな中小企業をスルーしがちなのは、こうした現実があるからでしょう。また、ローカル企業が長期的に存続しようとすれば、地域社会に貢献しなければならないという動機にもつながります。
Institute for Local Self-Relianceの研究員、ケネディ・スミス(Kennedy Smith)は次のように語ります。
「わたしたちが研究の対象としているのは、オーナーが大きく成長させようと経営している事業ではなく、生活費を稼ぎ、意義のある仕事を提供し、地域社会に貢献しようとしている事業です。わたしたちの国・文化は、そうしたビジネスを尊重し称賛することから遠ざかってきました」
あるいは今回のパンデミックが、この状況を変えるきっかけになるかもしれません。
Prioritizing community development
優先させるもの
中小企業に対する補助金・支援を、大企業に対するそれと比較してみると、参考になることが多々あります。米ウィスコンシン州のFoxConnの例を見てもわかるように、米国の市・州は多国籍企業に数百万ドルの補助金を出そうと躍起になっていますが、そうしたプロジェクトは往々にして頓挫してしまいます。経済開発の専門家のなかには、その資金をローカル経営のさまざまな中小企業に投じた方が、地域経済に付加価値を与えることができると言う人もいます。
「市長、知事、政策立案者は、“次のアマゾン本社”を誘致するためにすべての資金を費やすべきではない」と語るのは、カウフマン財団で中小企業の資金調達を担当するフィリップ・ガスキン(Phillip Gaskin)です。彼は「あなたの街には、支援できる素晴らしい起業家がいるはずです」と言います。
中小企業の経営者が、当初自分たちが「Fortune 100」に名を連ねる企業にしようと思いもしなかったとしても、そこにはセレンディピティが起きる場合もあります。例えばウォルマートも、巨大なグローバル企業になる前は家族経営の小売業者でした。
また、中小企業が地域経済の回復力を高めることも見逃すべきではありません。パンデミックで明らかになったように、グローバルなサプライチェーンが脆くも壊れてしまった場合、そのギャップを埋めるのは、ローカルな“代替業者”です。軽工業に投資することは、経済の(生活の)レジリエンスを高めるのに有効な方法のひとつです。労働者を雇用し、空き店舗を埋め、活気あるダウンタウンをつくるための開発戦略でもあります。
小規模製造業を支援している経済開発コンサルタントのイラナ・プレアス(Ilana Preuss)は、「なぜ人びとがあなたの住む町に立ち寄ろうとするのか、考えてみてください」と、問いかけます。「ユニークなものは、経済的な長寿命をもたらすのです」
スモールビジネスは、必ずしも「経済成長の原動力」とは言えません。しかし、それよりももっと素晴らしいもの──安定した地域経済の基盤を生み出す可能性があるのです。
Column: What to watch for
漠たる不安
世界31カ国、3万人以上を対象としたマイクロソフトの調査「Work Trend Index」では、回答者の40%以上が今年中に会社を辞めることを検討していると答えています。プルデンシャルが行った調査「Pulse of the American Worker」は、米国の従業員の25%が「パンデミックによる脅威が減じたら、新しい雇用主を探す」と予想。さらに、トロントに拠点を置くソフトウェア会社アチーバーズは、北米の労働者の52%が2021年に新しい職を探す予定であることを指摘しています(参考までに、福利厚生コンサルティング会社マーサーによると、パンデミック以前の米国における平均的な自発的離職率は約15%)。
ウォートン大学の組織心理学者アダム・グラント(Adam Grant)は『The New York Times』への寄稿文で、パンデミックとそれに伴う制約によって「より多くの人が“気だるさ”を感じている」と指摘しています。「それによって人はやる気や集中力を失い、まるで曇ったフロントガラス越しに自分の人生を見ているかのような気分に陥っている」というのです。
プルデンシャルの調査によると、転職を計画していると答えた回答者の80%が自分のキャリアの成長に不安を感じていることもわかります。同副会長のロブ・ファルゾン(Rob Falzon)は、ワーカーたちがいま抱える不安は「自分のスキルを最前線の状態に保つためにはモバイルでいる必要があり、今日やっていることでは明日の市場に対応できない」と考えていることにあると語っています。
(翻訳・編集:年吉聡太)
🎧 Podcastもぜひチェックを。 Apple|Spotify
👀 Twitter、Facebookでも最新ニュースをお届け。
👇 のボタンから、このニュースレターをTwitter、Facebookでシェアできます。ニュースレターの転送もご自由に(転送された方へ! 登録はこちらからどうぞ)。