Deep Dive: New Cool
これからのクール
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パンデミックによって社会から孤立した心を癒やしてくれるのは、「一方的な思い入れから生まれる絆」なのかもしれません。「パラソーシャル関係」は人びとのライフスタイルだけでなく、実は政治にも影響を及ぼしています。英語版はこちら(参考)。
パンデミックがもたらした「孤立」。それは、わたしたちが日々を過ごすのにどれだけ人間関係に依存しているかを教えてくれました。
ヴィデオミィーティングだけの世界に閉じ込められていると、「現実」と「仮想」の境界線はますますあいまいになります。有名人や架空のキャラクターとの一方的なつながりばかりが増え、結果、あたかも相互に関係性があるように信じてしまう、いわゆる「パラソーシャル関係」(parasocial relationship)の領域に足を踏み入れてしまうのです(スクリーンに映る『フレンズ』の仲間たちが実際の友人と同じように思えても大丈夫。あなただけに起きていることではありません)。
パラソーシャル関係は、1956年、社会科学者のドナルド・ホートン(Donald Horton)とリチャード・ウォル(Richard Wohl)によって提唱されました。最近の研究では、パラソーシャル関係はわたしたちが何を買うか、誰に投票するかといったことから日々の気持ちの持ちようまで、あらゆることの形成に関与していることが明らかになっています。
BY THE DIGITS
数字で見る
2,500ドル:セレブからヴィデオメッセージが届くサービス「カメオ」(Cameo)で、ケイトリン・ジェンナーからのメッセージを受け取るための対価(2020年現在)
1億3,010万人:Twitterでバラク・オバマ元米大統領をフォローしている人数(Twitterで最もフォロワー数の多いアカウント。2021年5月19日現在)
81%:2016年から2020年までの5年間で、米国議員が発信したツイート平均数の増加率
43万5,000人:米下院議員アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)が、Twitchデビューしたときの最高視聴者数(Twitch初登場時の最高視聴者数記録のひとつ)
90%:若年層のうち、有名人に「強く」惹かれたことがあると答えた割合
ORIGIN STORY
「関係」の誕生
パラソーシャル関係に世界で初めて言及されたのは、先述した通り1956年のことでした。ホートンとウォルはマスコミ研究の一環として、興味深い現象を指摘した発表。それが「パラソーシャルインタラクション」、つまり視聴者が「出演者と顔を合わせているような錯覚になる」現象です。
ラジオやテレビ、本、映画のいずれにおいてもこの「離れた場所に生まれる密接な関係」はつくられるとされていますが、ホートンとウォルは「特定のパーソナルな演者」の存在が大きいと指摘しました。
例として挙げられているのが「The Lonesome Gal」。これは、「名前も過去もない」女性が「恋人(リスナー)」に対して「不明瞭なかすれ声」で語りかけるラジオ番組です。曰く、「『The Lonesome Gal 』には、結婚を申し込む何千通もの手紙が殺到した。リスナーは、彼女が自分たちが生涯をかけて探し求めていた女性であると敬意をもって伝えた」。
With a little help from my friends
友人の助けを借りる
パラソーシャル関係と無縁の人はいないとされていますが、その影響の受け方は、人によって、また人生の節目によって異なります。
幼少期であれば、パラソーシャル関係はメディアを通じた学習シーンで重要な役割を果たします。例えば、エルモと心を通わせた子どもは、他のどんなキャラクターよりもこのパペットから多くのことを学ぶとする研究結果があります。
大人になってからは、その絆が社会的孤立からの「緩衝材」となります。有名人に対して一方的に抱いた恋心は、双方向の恋愛関係よりもはるかに簡単に維持することができますし、ある意味では満足感があります。
残念ながら、架空のキャラクターに抱いた深い愛着が、本当の悲しみを引き起こすことがあります。調査によると、10年近く続いた『ゲーム・オブ・スローンズ』のような、いわゆる「ストーリー性のあるもの」が終了すると、ファンの中には深い喪失感を覚える人がいるようです。
parasocial politics and democracy
政治を揺さぶる
パラソーシャル関係ということばは、エンタテインメントに関する研究分野で生まれました。しかし、いまや政治にもあてはまります。バッファロー大学の心理学者たちは、米国で長年にわたって放送されたリアリティ番組『アプレンティス』によって形成されたドナルド・トランプとのパラソーシャルな絆が、2016年の選挙で「見込みのない有権者」に影響を与えたことを示しました。
『Vox』は、収入や教育、政治的信条などを加味してみたとしても、このパラソーシャルな絆があったからこそ彼らはトランプの約束を信じ、不人気な発言を無視し、彼をより肯定的に見る傾向が強かったとする研究結果を紹介しています。
パラソーシャル関係が政治・行政の未来にとってどのような意味をもつのかは不明です。AOCが左派的なアジェンダを推進する上で最大の成功を収めたのは、議場ではなくデジタルメディア上でのことでした。
しかし、こうした結びつきは、トランプのような熱狂的なファンを刺激し、共通の利益よりも自分のお気に入りを優先させる可能性もあるようです。英イースト・アングリア大学の政治学者でありポップカルチャー研究者であるジョン・ストリート(John Street)は、『Vox』に「どうやってその力を手に入れるかが重要であり、手に入れたあとに何をすべきかは重要ではない」と語っています。
Para-social media
ファンとつながる
マスコミ業界の最新技術は、パラソーシャル関係から「パラ」の要素を取り除きつつあります。TwitterやInstagram、CameoやOnlyFansなどのプラットフォームでは、セレブリティがオーディエンスと直接交流できるようになり、「離れた場所で起こる密接な関係」が「双方向の関係」に変化しています。
例えば、アーティストのテイラー・スウィフトほど、この「ゲーム」を上手にこなしている米国人セレブはいないでしょう。
スウィフトは、ソーシャルメディアでの交流だけでなく、ファンのTumblrに直接コメントしたり、何百人ものファンを自宅に招いてリスニングパーティーを開いたり、ときにはクリスマスプレゼントを送ったりすることで知られています。
これらは、ファンにとっては人生を変えるような瞬間です。しかし、スウィフトにとっては、これは単なるビジネスです。米・カリフォルニア州立大学サクラメント校でコミュニケーション学を専攻しているサラ・ホワイト(Sarah White)は、卒業論文で「(自分の音楽やファンダムに関する)オンラインでの会話をディレクション、そして管理するために」パラソーシャル・メディアを利用していると述べています。
to form a parasocial bond
関係を築きたい方へ
パラソーシャル関係を築きたい! 絆が欲しい!と思っている人におすすめしたいのが、ライブストリーミングサービスのTwitchです。
Twitch上では、ゲーム(あるいはタロット占い、アライグマの食事風景など)が流れるタイムラインに合わせて、ファンがリアルタイムでチャットをしたり、ストリーマーがコメント欄に直接参加したりします。そこでは、ストリーマーとファン、ストリーマーのファンのあいだにコミュニティ意識が築き上げられていきます。
WATCH THIS
最後にこの動画を
2017年、ビデオエッセイを制作しているシャノン・ストラッチ(Shannon Strucci)は、ヴィデオエッセイ『Fake Friends』の公開を始めました。2時間以上の長さで、人間とロボットのインタラクションから、アニメキャラクターに恋したペンギンのグレープくんまで、さまざまなパラソーシャル関係に関連する事例を紹介しています。
『Hyperallergic』誌は、「テクノロジーが人間の関わり方を変えていく様子を描いた、わたしが見たなかで最高の作品のひとつです」と称賛しています。
COLUMN: What to watch for
スマホが手放せない
ニューヨーク大学教授(マーケティング学)で、『Irresistible: The Rise of Addictive Technology and the Business of Keeping Us Hooked』の著者であるアダム・オルターは、『VICE』に次のように述べています。「ほとんどの人は、自分のスマホの使用時間を過小評価している。わたしの場合、1日90分と予想をしていましたが、実際には1日3〜4時間をスマホに費やしていた」
スマホを眺める時間を減らそうと、人は特定のウェブサイトをブロックしたり、スマホの使用時間を制限したりする「生産性向上アプリ」や、よく使うアプリをスワイプしにくい場所に移動したりするものの、そうした努力もなかなかうまくいきません。
もっとも、スマホを見てばかりいることが悪いことではないという人もいます。『BuzzFeed News』のテックレポーター、ケイティ・ノトポロスは、「スマホを通じて社会的な体験をすることは、自分の気持ちを豊かにしてくれるもの」と、『VICE』に話します。「わたしたちは社会的なつながりを求めている。オンラインでの社会的なつながりは、親友との1時間の電話ほど深いものではないとしても、意味のあるものであることに変わらないし、その利便性を否定することはできない。多くの人にとって『外を散歩するか、インスタを見るか』ではなく、『壁をじっと見るか、インスタを見るか』という選択肢になっている」
(翻訳・編集:福津くるみ)
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