Borders: コロナ対策を「企業文化」が邪魔をする

Taiwan is facing a looming lockdown.

Deep Dive: Crossing the borders

グローバル経済の地政学

[qz-japan-author usernames=”Janelilinjin911″]

COVID-19感染の拡大が深刻化する台湾。世界的に評価されてきたこの国が次の一手を有効に打てずにいるのは、根強い「企業文化」が影響しているようです(英語版はこちら)。

You don’t need to be in the spotlight in order to build a network.
You don’t need to be in the spotlight in order to build a network.
Image: REUTERS/Nicky Loh

「念のために言っておくが、在宅勤務とは家で休むことを意味しない」。台湾で働くコミュニケーションストラテジストのキャサリン・G(Katherine G)はそんな全社員宛のメールを受け取りましたが、不安は解消されないままです。

今週月曜(現地時間)、台湾では1日の感染者数が335人を記録しましたが、彼女が勤める年商数百万ドル規模のテック企業では、完全リモートで働きたいという社員の希望を叶えるにはまだ至っていません

335人という感染者数は、他の国に比べればまだ少ない数だといえるでしょう。しかし、先週金曜時点では29件を数えるのみだったこの国ではいま、パニックによる買いだめが起き、厳格な規制も敷かれ始めています。初めてのロックダウン実施の可能性も囁かれています。

台湾には、医療制度の不備や政府の管理の甘さはありません。ただ一点、感染拡大を抑えるための妨げとなるとすれば、それは、この国に旧態依然として残る「顔を合わせて話をすることを重んじる労働文化」でしょう。台湾に限らず、アジアの多くの地域では、従業員は(実際にそこにいる必要性があるかないかにかかわらず)、極力、物理的にその場にいることが求められます。台湾が他のアジア諸国と違う点があるとすれば、台湾では昨年、政府がウイルスを早期に抑え込みに成功したがために、在宅勤務について学ぶ必要がなかったことが挙げられます。

corporate inflexibility

根強い「企業文化」

そうした企業風土は、政府の方針にも反映されているようです。

政府の命令により、5月19日から5月28日まで、すべての学校はオンラインに移行することになっています。図書館や公民館などの公共施設は閉鎖され、エッセンシャルな店舗を除いて営業停止となります。一方で、オフィス内で働く従業員が500人以下の企業であれば、営業が許されています。そこで、台湾の大手企業では完全なリモートワークを採用せず、出社と在宅勤務を日ごと週ごとで交代するローテーション方式を採用しています。

また、政府は企業に対し、幼い子どもをもつ社員に対して「疾病予防」のための特別休暇を与えることを義務づけていますが、その休暇を有給にするか無給にするかは企業の判断に委ねられています。

家でじっとしていたいという強い希望があるにもかかわらず、地下鉄や道路は出勤せざるをえない通勤者であふれています

Image for article titled Borders: コロナ対策を「企業文化」が邪魔をする
Image: VIA TWITTER

(Twitterより)週末とは打って変わって、今日は街に出ている人の数が多くてがっかり。これは、パンデミック対策が多くの雇用主の柔軟性のなさによって妨げられていることの表れだ。

台湾の陳時中(Chen Shih-chung)衛生相は、企業の規模や事業体によって大きな違いがあるとして一貫した方針を出せずにいます。企業には、台湾CDC(台湾疾病管制局)の指導に基づき独自の対策を講じよう求めています。日曜日の記者会見では、「従業員が体調を崩した場合、企業は従業員が困難なく休暇を申請できるように」との注意点を述べました。

この1年間、台湾のCOVID-19への取り組みは世界的に高い評価を得てきました。他の国が急なロックダウンを実施したり、病院の対応に追われたりしている一方で、早期に大量のマスクを運用し、接触歴の追跡も実施してきました。しかし、ゴールが間近に迫ったいま、この稀有な“サクセスストーリー”にも陰りが見え始めています。従業員の声を聞けば、彼らは企業の柔軟性のなさが台湾のCOVID-19対策の妨げになると口々に語ります。

iPhoneメーカーのFoxconnやTaiwan Semiconductor Manufacturing Company (TSMC)などの大企業では、社員食堂など人が集まる共有スペースを封鎖したり、外部からの訪問者を禁止したり、あるいはソーシャルディスタンシングの徹底を始めています。また、従業員には敷地内で常にマスクを着用するよう義務づけられています(これらの企業は、Quartzのコメント要請に応じていません。)。

台湾企業には、“じかに会う”文化のほか、残業文化も依然として根強く残っています。

例えば台湾のあるホテルマンは、以前働いていたホテルのマネジャーが、自宅療養中の子どもの世話をするために自宅で仕事をする場合には従業員に給料を支払わないと発表したと元同僚から聞いたといいます。

「この国の上司や管理職は、従業員がパソコンの前に座っている姿を見たがる。そのとき、その従業員が実際に働いているかどうかは関係ない」と、彼は語っています。

A factory employee wears a face mask with a Taiwanese flag design, as protection due to the coronavirus disease (COVID-19) outbreak, at a factory for non woven filter fabric used to make surgical face masks, in Taoyuan, Taiwan, March 30, 2020.
Taiwan is facing a looming lockdown.
Image: Reuters/Ann Wang

(翻訳・編集:年吉聡太)


🌏 次回ウェビナー第7回は5月27日(木)12:00〜の開催。コロナ禍で立ち上がるインドのスタートアップを特集します。詳細はこちらから。お申込みはこちらのリンクからどうぞ。


🎧 Podcastは月2回、新エピソードを配信。最新回では『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』著者の田中絵里菜さんをゲストにお迎えしています。AppleSpotify

👀 TwitterFacebookでも最新ニュースをお届け。

👇 のボタンから、このニュースレターをTwitter、Facebookでシェアできます。ニュースレターの転送もご自由に(転送された方へ! 登録はこちらからどうぞ)。