Deep Dive: Impact Economy
気候テックの衝撃
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激動する世界の気候変動ビジネス。毎週火曜は、その現状を伝えるインサイトを紹介しています。今日は、カーボンオフセットをめぐる疑義について(英語版はこちら)。
地球温暖化防止に取り組む企業が増えるなかで、世界のカーボンオフセット・クレジット市場は活況を呈しています。しかし、「オフセット」の計算方法には根本的な欠陥が指摘されており、企業の気候変動対策にとって重要であるにもかかわらず、「砂上の楼閣」になっているのが現状です。
そもそもカーボンオフセットは、企業活動によって発生するCO2(=カーボン)を、省エネ設備の導入などによって埋め合わせる(=オフセット)もの。とくに石油会社や航空会社など、排出量の多い分野の企業は、技術的な解決をはじめとする対応が追いつくまでの間に気候変動対策を進める手段として、オフセットの購入(=クレジット)を進めてきました。
注目を浴び、努力もなされていますが、いまのところこの分野はまだ未開拓と言わざるをえません。
オフセットブローカーCompensateは、フィンランドに拠点を置く非営利団体。同団体のサステナビリティ部門責任者、ニクラス・カスケアラ(Niklas Kaskeala)は次のように述べています。「市場の成長には大きな期待が寄せられています。しかし、ハードルを上げなければ、この成長も気候変動問題の解決にとって無意味なものになるのではないかと危惧しています」
The booming carbon offset market
盛り上がる市場…
世界の企業はオフセットを切望しています。そして、実際に、企業が利用可能なものも増えています。
Ecosystem Marketplaceによると、2021年の第1四半期には、全世界で3,860万トンのオフセットが購入されており、記録を更新し続けています。
この「3,860万トンのオフセット」は、石炭火力発電所10基分の年間排出量に相当します。昨年同時期と比較すると、その成長は実に81%の急激な伸びとなりました。
一方で、2020年に世界で新たに「発行」されたオフセット(何らかのかたちで認証され、販売可能となったもの)の量は前年比76%にも急増し、2021年にはさらに記録を更新する勢いです。アナリストは、オフセットの購入量は2030年までに石炭発電所500基分に達し、市場規模は15倍の500億ドル以上に拡大すると予測しています。
a major credibility problem
その信頼性に、赤信号
しかし、カーボンオフセットが脚光を浴びるようになったいま、その信頼性はこれまで以上に問われています。
この数カ月の間に、ジャーナリスト、環境保護団体、格付け機関、さらにはオフセットを仲介する企業自身による調査が次々と行われ、オフセット市場におけるさまざまな疑惑──故意による虚偽表示や組織的な会計上の誤謬──が明らかになりました。
こうした問題の多くは、カーボンオフセットの会計処理について、公式な国際基準が存在しないことに起因しています(それに代わるものとして、Gold Standard、Verra、American Carbon Registryなどの民間団体がさまざまな方法でオフセットの集計、認証、仲介を行っています)。
先月には、スタンダードチャータード銀行CEOのビル・ウィンタース(Bill Winters)が議長を務める国際タスクフォースが、カーボンオフセット市場の新しい自主的ガイドラインを発表しました。このガイドラインは、無秩序なシステムに秩序を与えることで、企業が誤ったオフセットに多くのキャッシュを費やすことを避けることを目的としています(大手銀行はオフセットの主要な顧客でもあります)。
タスクフォースの提言には、法的拘束力はありません。しかし、世界のオフセット・ブローカーにとっては避けられないものとなるでしょう。もっとも、タスクフォースのメンバーには、石油メジャーや航空会社など、秩序のない現状において利益を得ている企業群も名を連ねていることには注意が必要です。
冒頭に紹介したCompensateのブローカー・カスケアラは、次のように語ります。
「ここ数年、大きな失望が続きました。新しいものを生み出すとき、既存のシステムが十分ではないことはわかっているのですが、タスクフォースが問題すべてを認識しているのか疑問視しています」
カスケアラたちは、今年4月にリサーチ結果を発表。Gold Standardやその他の団体が認証した100件のオフセットを分析したところ、森林保護や直接大気を取り込む技術などの「排出量削減プロジェクト」から得られたオフセットのうち、実に90%が、謳っているほどのオフセットが実現できていなかったり、永続的でなかったり、あるいは地域社会や生態系に有害な副作用があったりしていることがわかったといいます。
Fixing the global market
解決に向けて
Gold Standardの広報担当者であるサラ・ロイガース(Sarah Leugers)は、Gold Standardが認証を与えていない排出量削減プロジェクトとして、次のようなケースを挙げてくれました。
まず、国連による森林保全プログラム「REDD+」。同プロジェクトによるカーボンオフセットは、世界の森林カーボンオフセットの実に8割を占めています。Gold Standardがそれを認証していないのは「ベースラインの会計処理に問題があるから」としています。
持続可能性コンサルティングのスタートアップ・Sweepが提供しているプロジェクトでは、子ども向けの持続可能性教育プログラムからオフセットを得ていることになっていますが、これも認証されていません。そのプログラムを通して子どもたちがより気候変動に配慮した生活習慣を身につけるようになるというのがSweepの提唱するオフセットの根拠ですが、その計算式はあいまいと言わざるをえません。
かたや、テクノロジーを使えば、解決策が見出せそうです。例えば、AIスタートアップ・Pachamaは、衛星画像を使って森林カーボンオフセットの対象となる森林が実際に保全されているかどうかを確認し、その炭素吸収能力をより正確に推定しています。
もっとも、とくに森林カーボンオフセットについての問題すべてを解決するのは難しいというのが、ロイガースの意見です。彼女は森林カーボンオフセットではなく、農場におけるメタン回収や直接炭素を回収するテクノロジーなど、より検証可能なオフセットに目を向ける必要があると考えています。
ロイガースは、オフセットが実際の排出量削減に代わるものではないことを強調しています。世界資源研究所が主導する「Science-Based Targets Initiative」でも、オフセットをネット・ゼロ・エミッション達成に向けた企業の進捗状況に算入することは認められていません。
しかし、脱炭素化しようにも有効かつ実現可能な代替手段をもたない企業にとっては、信頼できるオフセットに価値はあると、前出のカスケアラは言います。
時間は刻々と過ぎています。需要と供給の差は急速に縮まっており、信頼できるオフセットの価格は上昇し、買い手がジャンク品を手にする可能性も高くなっています。
「一部のバイヤーには高品質のクレジットが提供されるでしょう。同時に安価なクレジットが市場にあふれ、自分がいったい何を買っているのかわからないバイヤーすら出てくるかもしれません」と、カスケアラは語っています。
(翻訳・編集:年吉聡太)
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