Future of Work:アップル社員の「出社拒否」

Will there be a second take?

Deep Dive: Future of Work

「働く」の未来図

Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週木曜午後のニュースレターでは、「働くこと」のこれからについてアイデアや出来事を、世界のニュースから選りすぐってお届けしています。

Apple CEO Tim Cook gives crowds the peace sign
Will there be a second take?
Image: Reuters/Eduardo Munoz

2017年にアップルが175エーカー(約70万平方メートル)の新キャンパス「Apple Park」(アップルパーク)を公開したとき、そのエレガントでミニマルな建築とエコフレンドリーな機能は大いに称賛されました。

イスやエレベーターのボタンは特注で、カフェテリアにはビル3階分の高さのスライド式ガラスドアヨガスタジオのこだわり抜かれた石材から、巨大な宇宙船のようなリング状の社屋まで……。先進的なデザインで名声を築いてきた同社を思えば、それらすべてに納得がいくものでした。

ただ、何かがおかしかったのです。

当時Quartzでテックエディターを務めていたMike Murphyは現地を取材したのち、次のように記しています。「アップルの新社屋では、道も地面も、目に入るすべてのものが追究されている。素材もこだわり抜かれている」

しかし、と彼は言います。「シリコンバレーのど真ん中の“ガラスの大聖堂”を何時間もかけて歩き回ってみたが、それでも『なぜ、そうする必要があるのか』だけがわからない」

Not even splashy campuses

どんな豪華なオフィスも

彼が抱いた違和感は、「ここは社員が楽しく働ける場所なのだろうか?」という点に尽きるでしょう。

アップルの伝説的創業者、スティーブ・ジョブズが発案したという50億ドル規模の本社は「アップルの長期的な未来」を物語るはずのものでした。しかし、どうやら「働くひとたちの21世紀初頭のニーズ」に応えられるものですらなかったようです。ある従業員がガラスの壁にぶつかってケガをしたというウワサもありますが、ある評論家は、キャンパスにデイケア施設がないことを指摘し、エンジニアたちにとって「オープンプラン」なオフィスは好ましいものではなかったようです。

A photo of Apple Park as seen from the Steve Jobs theater
Futuristic, not the future.
Image: Quartz/Mike Murphy

そして社屋開設から4年が過ぎ、パンデミックを経たいま、アップルの従業員は、自分たちをオフィスに呼び戻そうという新しいポリシーに対して反乱を起こしています。

テック企業のオフィスにつきものの無料ランチもクライミングウォールも、自宅で生産的に仕事ができることが証明されたいまでは、意味をなさないものに変わりました。しかし、従業員がオフィスに対して“ほんとうに”何を求めているかを無視するアップルの姿勢だけは変わっていないようです。

6月2日、アップルCEOのティム・クックは「9月上旬に社員全員がオフィスに戻ってくることになる」と発表。従業員は月、火、木の週3日はオフィスで仕事をすることになるというのです。アップルはパンデミック以前からリモートワーク非推奨だったので、ある種“進化”ともいえますが、一部の社員の目には、不十分な対応に映ったようです。

発表から2日後、一部の従業員グループから不満の声が上がったことを『Verge』が伝えています。彼らは、上層部に方針の再考を求める書簡を送りました (『Verge』によると、Slackチャンネル上でリモートワーク支持派2,800人以上が活動を始め、書簡自体は社員約80人の手によって執筆・編集されたとのこと)。

What Apple got right and wrong

アップルの正解/不正解

いまや何千もの企業がアップル同様の「ハイブリッドモデル」でのオフィス再開を計画しているなか、アップル社員からあがった苦情の声は、参考にすべきものだともいえるでしょう。

まず、「週3日の出勤」について。複数の調査によると、この日数そのものは、多くのワーカーにとって最適なスケジュールだといえるようです。彼らは、自宅で仕事に集中し、必要に応じてミーティングや社内交流の場に参加することを望んでいます。アップルが間違えたとすればそれは、オフィスに出勤する曜日を会社が決めたことにあります。もうひとつ、明らかなミスを挙げるなら、リーダーたちが従業員の要望を理解していると思い込んでいることにもあるようです。書簡から一部を抜粋しましょう。

「この1年、毎日通勤したりオフィスで共同作業したりするという制限がないことで、人生で初めて最高の仕事ができたと感じています」

「この1年、わたしたちの声に耳を傾けてもらえないだけでなく、意識的に無視されているすら感じてきました。あなた方は、いま改めてオフィスでわたしたちと直接会い、話をしたいと思っているのでしょう」

「わたしたち従業員は、すでに世界中の同僚とつながっていることを感じています。毎日オフィスにいなくとも、いまのように仕事ができることを楽しみにしています」

true flexibility

多様性と公平性のなかで 

書簡の著者らは、アップルがすでに世界中にオフィスをもつ分散型企業であること、そして、フルタイムのリモートワークが許されれば、オフィス近辺に住めない人も雇用できる点を指摘しています。これにはハーバード・ビジネス・スクール教授で、リモートワークの専門家であるTsedal Neeleyも同意しています。これこそがリモートワークやハイブリッドワークの最大の利点で、すでに企業の雇用方法を劇的に変えつつあると語っているほどです。

確かに、あまりにも多くの人が在宅勤務を選択し、なおかつそれが社会的弱者であった場合、その昇進や昇給に悪影響を及ぼしたり、将来のリーダーシップチームの多様性が失われたりすることを懸念する専門家もいます。

一方で、在宅勤務のメリットは補ってあまりあるほど大きなものです。有色人種からすれば、同僚からの偏見の目に晒されることなく一日を過ごすことができます。障がい者からすれば、毎日の通勤や、肉体的・精神的に移動が困難なオフィス空間を避けられます。これらはすべて、そうしたワーカーが満足に貢献できるかどうかに関わることで、その雇用を維持できるかどうかの要因にもなります。

リンクトインは最近、LGBTQ+の従業員の職場での経験に関するレポートを発表しています。それによると、LGBTQ+の従業員の多くが、自分のアイデンティティを隠す必要性を感じていることが明らかになっています。

リンクトインのグローバルダイバーシティ・インクルージョン担当のRosanna Durruthyは、いま企業に求められているのは、「個人が人生で直面する問題を解決しながら、同時に生産性を高めて組織に貢献できるような心理的安全性をつくり出すこと」だと言います。そしてそのためには、「人それぞれがもつユニークな経験をサポートする環境を構築する」ことで「その決定に彼らを参加させる」必要があると言います。

for hybrid work policies

ウィッシュリスト

今回の書簡で社員がアップルに対して突きつけた要望は非常に具体的で、他の企業がオフィスのハイブリッド化へのロードマップとして採用できるほど。その一部を紹介しましょう。

  • リモートワークをはじめ場所を選ばずに仕事をできることを、チームが自律的に決められるようにすること
  • 明確で透明性の高いコミュニケーション/フィードバックプロセスを備えた、全社レベル、組織レベル、チームレベルでの簡単で定期的なアンケート
  • 退社時の面接に、リモートワークによる従業員の離職についての質問を追加すること
  • オンサイト、オフサイト、リモート、ハイブリッドなど、場所を選ばない働き方で障害者を受け入れるための、透明で明確な行動計画
  • オンサイトでの対面業務に戻ることによる環境への影響と、永続的なリモートおよびロケーション・フレキシビリティがその影響をどのように相殺するかについての洞察

COLUMN: What to watch for

「医学部」熱、高まる

A person wearing white latex gloves holds a syringe against a yellow wall.
Healthcare is becoming an increasingly popular career choice.
Image: Reuters/Karoly Arvai

9.11以降、世界の大学では中東やアラビア語、国土安全保障に関する研究への関心が高まりました。そしていま、COVID-19の危機を経た学生たちの関心は、医学に集まっているようです。英国の教育出版社ピアソンは2021年4月28日〜5月12日にかけて、ブラジル、中国、英国、米国の11〜17歳の子どもをもつ親4,000人および大学生2,000人を対象に実施。同調査によると、パンデミックの結果として56%の大学生が進路を再考しており、45%が医療や科学の分野でのキャリアを考えているとのことです。実際、米国では医学部への出願数が過去最高に。米国医科大学協会によると、過去20年間、医学部への総出願数の年平均増加率は2.5%でしたが、2021年の出願数は18%に急増しました。

失業率の高い時期には、見通しが明るくて高賃金につながる専攻を選ぶという調査結果もあります。ジョージタウン大学のCenter on Education and the Workforceによると、米国の大学卒の新入社員のうち、いわゆるSTEMを専攻した学生の年収は約4万3,000ドル、保健学を専攻した学生の年収は4万1,000ドルである一方、芸術、人文科学、リベラルアーツを専攻した学生の年収は約2万9,000ドル。特に低所得の学生は、不確実性の高い分野に進み多額の学生ローンを抱えることに抵抗を感じているようです。

(翻訳・編集:年吉聡太)


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