Deep Dive: Crossing the borders
グローバル経済の地政学
[qz-japan-author usernames=”amerelliqz”]
新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるために必要な、もうひとつの「水際」についての研究が発表されました。毎週水曜は、世界の経済を動かす最新ニュースをお伝えしています(英語版はこちら)。
米国のCOVID-19感染者数は、人口比でみれば世界最大級。米国人の約10%が感染しており、この数字は世界平均の2.2%を大きく上回っています。
そんななか、刑務所ではその割合は実に4倍近くを記録しており、4月1日までの数字によると、米国の収容者の少なくとも39%が感染していたとされています。さらに収容者は感染リスクが5.5倍、死亡リスクは3倍になっていました。
5月25日に『米国科学アカデミー紀要』に掲載されたある研究は、ここに米国のCOVID-19患者を取り巻く大きな人種格差の問題があるとしています。また、米国疾病管理予防センター(CCD)のデータによると、米国民のうち、ヒスパニック系/黒人系は白人に比べて、COVID-19が原因で入院する可能性が約3倍、死亡する可能性が約2倍であることを明らかにしています。
From the jail to the community
拘置所から地域社会へ
拘置所におけるCOVID-19発生率が一般人口よりも非常に高いこと自体は、さして驚くべきことではありません。米国は世界で最も多くの収監者を抱えており(約220万人)、人口に対する刑務所や拘置所に収容される人の割合は、ほかのどの先進国と比べても高いのです。各矯正施設は過密状態にあり、結核、インフルエンザ、HIVなどの伝染病の温床となってきました。
そのうえで、ノースウェスタン大学の医師で人類学者、世界銀行のリサーチャーでもあるエリック・ラインハート(Eric Reinhart)の指摘は非常に興味深いものだといえるでしょう。彼によると、刑務所内での管理だけでなく、受刑者や刑務所に関連する広範なコミュニティを含む「監獄」システムそのものが感染症を引き起こすいち要因となっていることがCOVID-19によって明確になったというのです。
米国では常時、裁判を待つ約60万人が地方刑務所で数日間留置されています。ラインハートは、「拘置所は、監禁された人を地域社会から切り離す場所ではなく、地域社会と常に関わり合っている。そこでの人口は、毎週平均で55%が入れ替わり、1年間で約1,100万回の入退所サイクルがある」と言います。
その数字に施設で働き帰宅する刑務官などの人員数を加えれば、刑務所が単にCOVID-19の温床になった以上に、ウイルスが周囲のコミュニティに広がる媒介となったことは容易に理解できるでしょう。「これは個人の責任ではない」ともラインハートは言います。「責任があるとすれば、それは“大切な人”を“危険にさらす存在”に強制的に変えてしまうシステムにある」
Quantifying the impact
その影響を数値化する
ラインハートは、研究の共著者である仏トゥールーズ経済大学教授のダニエル・チェンとともに、シカゴのクック郡刑務所から得たデータをもとに、COVID-19感染拡大に対する刑務所制度の影響を数値化しています。
それによると、3月に刑務所を出た人が、同じ年の8月までの期間で、住んでいる同じ郵便番号の地域で5人の感染者を出すことがわかりました。3月にクック郡刑務所を出た人が、シカゴ内のCOVID-19全症例の13%に関連している可能性があるというのです。
さらに、この影響は、刑務所や拘置所に収容されている多くの黒人やヒスパニック系コミュニティではより高くなります。シカゴの刑務所の人口の約90%は黒人/ヒスパニック系なのです。
as a public health hazard
これは公衆衛生上の問題
COVID-19感染拡大において刑務所が与えた影響を理解することは、刑務所制度が公衆衛生に対して与える影響に光を当てることになります。それは、これまで考慮されてこなかった観点です。
「これまでわたしたちは、投獄された人とその健康と、地域社会の健康とを、それぞれ別のものであるかのように研究してきた。しかし、施設と地域社会の間を行き来する人の数が非常に多い現行のシステムにおいて、地域社会の健康と施設内の健康という2つの要素は決して切り離せない」と、ラインハートは言います。
刑務所に収容される人の数を減らすことを、囚人の権利への配慮だけではなく、公衆衛生の観点からも考慮すべきだというのが、彼の意見です。いずれ来る次の“緊急事態”において、刑務所が致命的な役割を果たさないようにすること。それが、パンデミックの教訓のひとつだというのです。
「とくに米国のシステムは、感染症拡大のリスクをもたらしている。この根本に対処しなければ、次にパンデミックに直面したときに同じことが繰り返されることになるだろう」と、ラインハートは警告しています。
お詫びと訂正・本日(6月16日)朝配信のDaily Briefで、英国とオーストラリアの貿易協定合意について「英国にとって、ブレグジット後で初となる自由貿易協定(FTA)合意」とお伝えしましたが、正しくは「英国にとって、ブレグジット後で最新となる合意」でした。訂正してお詫びいたします。
COLUMN: What to watch for
G7、ワクチンの誓い
13日(現地時間)、主要7カ国首脳会議(G7サミット)は共同声明を発表。今後12カ月間で10億本のワクチンを購入して低所得国に寄付すること、今年末までに少なくとも7億本を配布する方針を明らかにしています。これは歴史的な取り組みといえますが、世界のニーズには遠く及ばないことも注目しておくべきでしょう。
現在、世界人口の約21%が少なくとも1回のワクチンの接種を受けています。もっとも、その分布は非常に偏っており、貧困国ではその人口の1%以下しか接種を受けられていません。仮に年末までに10億回分のワクチンが配布されたとしても、貧困国でワクチンを待っている人口の約4分の1しかカバーできず、それも1回分しか接種できないことになります。世界保健機関(WHO)の推計によると、70%のワクチン接種率と集団免疫を達成するためには、すべての国に公平に配分されたとして、110億回の接種が必要とされています。
ちなみに、発表によると、今回の寄付金の大部分は米国からのもので(米国は5億回の寄付を約束)、英国が続きます(1億回分)。ワクチンの大部分はCOVAXを通じて提供されますが、その一部は二国間協定に基づいて提供されます(寄付をした国がワクチンを外交の手段として活用する権限をもつ)。
(翻訳・編集:年吉聡太)
🐦 Quartz JapanのニュースレターをTwitterでシェアいただいた方を対象に、ステッカーとご友人招待用クーポンをプレゼント! 対象の方のうち、ご希望の方はこちらのフォームにご記入ください。
🎧 Podcastを月2回配信しています。Apple|Spotify
👀 Twitter、Facebookでも最新ニュースをお届け。
👇 のボタンから、このニュースレターをTwitter、Facebookでシェアできます。ニュースレターの転送もご自由に(転送された方へ! 登録はこちらからどうぞ)。