Deep Dive: Impact Economy
気候テックの衝撃
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激動する世界の気候変動ビジネス。毎週火曜は、その現状を伝えるインサイトを紹介しています。今日はボルボが取り組もうとしている、生産過程のカーボンゼロへの取り組みを紹介します(英語版はこちら)。
いま、電気自動車業界は活況そのもの。『Bloomberg』が6月10日に発表した予測によると、2030年までに世界で販売される新車の少なくとも34%がゼロカーボン車になるようです。しかも、これはゼロカーボン移行を促進する新たな政策がなくても達成される数字で、各国政府がより積極的に支援すれば、普及率は少なくとも58%にも上るとされています。ちなみにこの数字、2020年時点ではわずか4%でした。
仮にすべての自動車がソーラーパネルや風力タービンで発電された電気で動くようになったとしましょう。しかしながら、実のところ、それでも大量の二酸化炭素を排出することには変わりません。自動車メーカーは、炭素消費量の多いことで知られる鉄鋼業に依存しているからです。
その点で、ボルボが6月16日に発表した、スウェーデンに建設される最先端の低炭素鋼工場の主要顧客になるという事実には、相応のインパクトを期待できそうです。
steel has a large carbon footprint
「低炭素」テクノロジー
鉄鋼の製造には大量の石炭が必要です。過去1,000年にわたり、鉄鋼の製造工程で必要な鉄の溶解作業に十分な高温を生み出す唯一の方法は、石炭によるものでした。
鉄鋼業は、クリーンな代替手段の開発が遅れており、現在も、温室効果ガス排出量の7〜9%を占めています。そして、一般的な自動車の製造・組立に伴う排出量のうち、鉄鋼の生産は実に約3分の1を占めています。
ボルボは、スウェーデン鉄鋼大手のスウェーデンスティール(SSAB)の実験的な工場「HYBRIT」で製造された鉄鋼を購入することになります。HYBRITは、炉の燃料に石炭ではなく水素を使用する世界初の工場で、水素は風力発電所や水力発電所からのゼロカーボン電力を利用して製造されると謳われています。
ボルボの調達責任者によると、この計画はまだ始まったばかり。HYBRITが本格的に稼働するのは2025年になってからで、ボルボは同年までにHYBRITの新たな鋼を使ったクルマを試験的に導入し、その性能を確認することになるようです。また、それまでの期間は、ボルボの新車には従来の鉄鋼が使われることになります。
still early days for green steel
グリーン・スチール
産業用グリーン水素の分野はまだ始まったばかりの段階で、解決すべき技術的な問題もあれば、投資家に自分たちの実力を証明する必要もあります。今回ボルボがHYBRITの最初の大口顧客になることが発表され、産業用グリーン水素の機運は高まるでしょう。
世界資源研究所ビジネスセンターのシニアアソシエイト、ネイト・アデン(Nate Aden)は、ボルボとSSABの取引が「この技術を商業的に実証するために不可欠なものになる」と語っています。「産業用グリーン水素の現実性と拡張性を実証する意味で、非常に大きな意味をもつはずだ」と、彼は述べています。
中国の宝武鋼鉄集団(Baowu Steel Group)を含む世界の鉄鋼メーカー上位6社のうち5社は、2050年までに炭素排出量をネットゼロにすると約束しています。この目標を達成するための選択肢は限られています。既存の鉄鋼のリサイクル率を上げること、工場の効率を上げること、煙突からの排出物を回収すること、そして今回のケースのようにバイオマスやグリーン水素などの代替燃料の規模を拡大すること……アデンはさまざまな選択肢を挙げていますが、排出量の削減という点では最後の手段が最も有望だとしています。
アデンは、同時に、いくつかの大きなハードルがあるとも語っています。
ハードルのひとつが、膨大な量の電力が必要になるということ。HYBRIT工場が実現できたのは、スウェーデンに比較的豊富な水力と風力があるからこそです。
2021年第1四半期には、再生可能エネルギーが潤沢なヨーロッパ諸国の鉄鋼メーカー数社も、生産ラインでの水素導入を検討する計画を発表しています。しかし、先のボルボの調達責任者によると、同社の世界規模の生産ラインを完全に「ゼロカーボン」にするには、アジアならびにアメリカが自然エネルギーの分野でヨーロッパに追いつく必要があるといいます。
膨大な電力を必要とする“グリーン・スチール”は、石炭が安価な地域では従来の鉄鋼よりも高価になる可能性もあります。非営利のエネルギー・シンクタンクRocky Mountain Instituteが発表した報告書によると、2020年時点で太陽光発電や風力発電のコストが急落し、米国を含む一部の市場ではすでにコスト競争に入っているようです。中国もコスト競争力を高めつつあります。しかし、ヨーロッパでは電力コストが比較的高く、グリーン・スチールのコスト競争力が高まるのは2030年代半ばになるかもしれないと、エネルギー調査会社Wood Mackenzieのシニアリサーチアナリスト、フロルシア・デ・ラ・クルス(Flor Lucia de la Cruz)は説明しています。
デ・ラ・クルスによると、業界全体でネット・ゼロ・エミッションを達成するために必要な生産量に達するためには、世界のグリーン・スチール生産量を「ケタ違いに拡大」する必要があるようです。Bloombergによると、現在アンモニアプラントや石油精製所などで使用されるグリーン水素の生産量はわずか2メガトンですが、2050年には鉄鋼生産だけで122メガトンが必要になるとされています。
‘Lighting a fire’ under Tesla
テスラに火をつけて
今年11月には、英グラスゴーで気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開催されます。そこでは、EUや米国などの各国政府がグリーン水素に対する新たなインセンティブを発表するとされています。大手鉄鋼メーカーの賛同が得られれば、競合他社への圧力が高まり、業界のスケールアップも加速するでしょう。
「HYBRITが実現したことは素晴らしいことですが、鉄鋼生産の排出量に大きな影響を与えるにはまだ数十年かかるだろう」と、前出のアデンは語っています。「しかし、これが実現すれば、テスラをはじめ、『環境対応車をつくっている』と謳う自動車メーカーに火をつけることになる」
Cloumn: What to watch for
アフリカ初の森林保護
90%の森林率(国土面積に占める森林面積の割合)を誇る中部アフリカ・ガボン共和国。同国は先週、熱帯雨林保護のために1,700万ドルを投じることを発表しました。アフリカの熱帯雨林が吸収する二酸化炭素量は、英国の二酸化炭素排出量の3倍以上に相当します。そして、その熱帯雨林の12%がガボンにあります。
今回費やされることになるのは、1,700万ドル。国連が主導する「中央アフリカ森林イニシアチブ」(CAFI)のスキームに基づき1億5,000万ドルがノルウェー政府から支払われる予定ですが、1,700万ドルはその一部にあたります。
アフリカは、温室効果ガスの排出量が最も少ない大陸ですが、気候変動の影響を最も大きく受けています。それゆえアフリカはクリーンエネルギー適応において最先端を走っています。例えばケニアでは、週末の電力の95%が自然エネルギーで賄われています。
(翻訳・編集:年吉聡太)
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