Culture:フランスに浸透する「輸入文化」

Culture:フランスに浸透する「輸入文化」

Deep Dive: New Cool

これからのクール

[qz-japan-author usernames=”ayana-nishikawa”]

自国の伝統文化を大切に守り続けてきたフランス。しかし近年、若者を中心に、フランス人の日常への「外国文化の浸透」が顕著になっています。

Image for article titled Culture:フランスに浸透する「輸入文化」
Image: REUTERS/Charles Platiau

パリを歩くと、美しい街並みに伝統的なカフェやビストロが立ち並び、映画館や老舗の書店には人が集うなど、フランス映画で描かれるような風情のある光景が広がっています。

しかし注意して街を見渡すと、パリらしい街並みをつくるオスマン様式の建物に設置されたマクドナルドスターバックス、メトロではスマホでネトフリを見る人びと、書店に入ると漫画コーナーで立ち読みをする若者の姿をよく見かけるようになりました(ちなみにスタバは2004年1月にパリにオープンフレーバーコーヒーの概念がなくカフェ文化を大切にするフランス人のなかでは大きな話題になりました)。

こうした輸入文化が若者の日常に根付くことで、今後フランス社会はどのような影響を受けるのでしょうか。

PREFER FAST FOOD?

ジャンクフード大国

数々のスターシェフを生み出し、歴史を重ねて食文化を芸術に昇華させてきた美食の国、フランス。一方で、近年フランスの飲食業界で著しく勢力を伸ばしている分野は、ファストフードのようです。目立つのはマクドナルドの人気で、いまやフランスはマクドナルドにとって、米国に次ぐ「世界第2の市場」となりました。国内にある1,490の店舗では、1日190万食が提供されています。また、客単価も世界で最も高いようです(1人当たり9ユーロ)。

フランスの飲食業界全体においてマクドナルドは13%のシェアを占め、『Le Figaro』は「マクドナルドはフランスで1番のレストランのようだ」と述べています。

ルーブル美術館の近くに店舗を構えるマクドナルド。ランチの時間には、行列ができる。筆者撮影。
ルーブル美術館の近くに店舗を構えるマクドナルド。ランチの時間には、行列ができる。筆者撮影。

週に4回はマクドナルドで昼食をとるという20代のマキシムは、「街角のビストロでランチを食べると、約15ユーロ(約2,000円)はかかります。でも、マクドナルドに行けば10ユーロ(約1,300円)足らずでお腹がいっぱいになるんです。それに注文後すぐに食べることができて美味しいので、つい毎日通ってしまいます」と、話します。

マクドナルドはフランスで最も成功している例ですが、ファストフード分野全体が成長しているようです。この分野の売上高はフランスで540億ユーロ(約7.1兆円)に上り、フランスの伝統的レストランの数字を上回るようになりました。

こうしたファストフードの台頭は、ランチ時間の短さ(平均31分)や、ファーストフードを提供する「Uber Eats」などのプラットフォームなどが浸透したことが挙げられます。

THE FOOD REVOLUTION

フランス風輸入文化

街中のビストロやカフェ、高級ホテル内の飲食施設でも、こうした輸入食の人気に対応をしているようです。その例が、ハンバーガーの「グルメ化」です。

Image for article titled Culture:フランスに浸透する「輸入文化」

コンサルティング会社Giraの代表であるベルナール・ブットブール(Bernard Boutboul)は、フランスでは2010年までは99%のハンバーガーがマクドナルドなどのファストフード店で販売されていましたが、「今日、伝統的なレストランでの売り上げが拡大している」と、『Le Figaro』に語ります。

「14万5,000店のレストラン(ファーストフード店を除く)の80%は、ハンバーガーをメニューに取り入れている」といい、そのうちの80%のレストランにとって、ハンバーガーは売上高が1位だといいます。「従来、レストランではステーキとフライドポテトが人気でしたが、今日ではハンバーガーになりました」と、ベルナールはコメントしています。

一方で、米国からの輸入文化の流行を受け入れられない例も見られます。これまで、フランス人にとってマクドナルドは愛されると同時に、一部の人びとからは「美食の国へジャンクフードを輸出する敵」と見なされてきました。

例えば、フランスの大西洋岸に位置するオレロン島では、マクドナルドは現在もデモなどで「反資本主義」の標的となっているようです。また、宮殿が位置するヴェルサイユ市では、ケンタッキー・フライドチキン(KFC)の同市での開店にあたり、裁判沙汰にまで発展しました。

MANGA BOOM

若者に浸透する漫画

また、輸入文化の勢いは食に留まりません。フランス人の若者の日常は、外国文化で囲まれています。特に近年人気が顕著なのが漫画。フランスは日本に次ぎ、米国と同様に世界第2の市場でもあります。

調査会社Statistaによると、2020年には、フランス人の男性(13~15歳)の40%以上が漫画を読んでいると回答。女性でも3分の1以上の人が読んでいると回答しています

また、リサーチ会社GfKによると、2020年の漫画市場は販売部数5,310万部、売上高5億9,100万ユーロとなり、上昇傾向に。売上増加は2016年から一定しており、フランスで購入される書籍の5冊に1冊占めているといいます

そうしたフランスでの漫画人気に、今年5月、追い風が吹く出来事が起こりました。今年、フランス政府は18歳に「文化パス」と呼ばれる300ユーロ(約39,000円)分の商品券を提供しました。これは、文化の復活を後押しする意図により導入され、書籍・観劇・文化財サービスなどの購入に利用ができます。しかし、この商品券の導入により、「漫画の爆売れ現象」が起こったのです。

Le Monde』によると、このパスは書店の店員の間で「漫画パス」と別名までつき、大型書店として人気の仏小売りチェーン「Fnac」でも、漫画の棚はこれまで見たことがないほどガラガラになった、と報じています。

パリ、オペラ座の近くに位置する「パリ・ジュンク堂書店」マネジャーのサミュエル・リシャルド(Samuel Richardot)も、「フランス語に翻訳される漫画が増え、当店でも取り扱う漫画の種類が多様になりました。漫画コーナーは、パリ・ジュンク堂でも非常に賑わっています」と述べています。

若者でひしめきあう同店の漫画コーナーで、新しい漫画を探していたメラニーは「漫画との出会いは、まだ幼かったころです。日本の漫画は、わかりやすくてストーリーに没頭しやすい。『聖闘士星矢』や『ハイキュー‼』など、大好きなシリーズは全巻コレクションしているんです」と話してくれました。

漫画が大好きというメラニー(左)と友人。筆者撮影。
漫画が大好きというメラニー(左)と友人。筆者撮影。

NETFLIX LANDED

ネトフリの影響

さらに、ネットフリックスも若者の日常に欠かせない文化となっています。

調査・データ分析会社YouGovの世論調査(2019年)によると、18~34歳の40%が毎日ネットフリックスを視聴しているといいます。フランス人の若者にとって、従来のテレビ番組よりも、ネットフリックスへアクセスをする機会のほうが多いようです。

Image for article titled Culture:フランスに浸透する「輸入文化」

ネットフリックスは昨年にはフランス支社も立ち上げ、ローカルの作品も制作していますが、視聴者が外国の映画作品へ多くアクセスできるのは事実です。映画は登場人物への憧れなどを与える性質がありますが、こうしたネットフリックスのフランスでの人気は社会に影響を与えるのでしょうか。

Marianne』は、「ネットフリックスは同社のシリーズを通じて、社会問題に関する進歩的な時代の空気を拡散しています」と述べます。また、ジュネーブ大学で世界史を教えるルードヴィック・トゥルネ(Ludovic Tournès)は、「音楽や映画のストリーミング・SNSは、確かにフランスでの米国の文化的影響を強調しました。また、同時に他のさまざまな国の影響ももたらしています」

SOCIAL MATTERS

米国化する社会

フランスでは、同国の政治が米国化していると言われていたり、近年の米国の社会問題も影響をもたらしていると言われています。特に2020年に米ミネソタ州で警官に黒人男性ジョージ・フロイドが殺害された事件は、人種に関する話題がタブーだったフランスで議論が展開されていると、『The New York Times』では述べられています。

実際に、2020年にはジョージ・フロイド事件に触発されたかのように、フランスでも人種差別を訴えるデモが起こりました。これは、2016年にフランスで黒人男性が警官に拘束され死亡した事件に抗議するものです。

フランスはこれまで「普遍主義」を貫き、民族・宗教・人種関係なく、法の下で個人は平等だと謳ってきました。すべての市民のアイデンテティは「フランス人」として統一されてきた普遍主義のもと、「奴隷貿易、植民地の長い歴史は薄められてきた」と『The New York Times』は述べています

Image for article titled Culture:フランスに浸透する「輸入文化」
Image: REUTERS/Stephane Mahe

一方で同紙は、今日このような普遍主義に対する問題に、米国のポップカルチャーなどに影響を受けたアフリカ系フランス人が最も熱心に取り組んでいると指摘。また、これに対し反対意見を訴える人々は、こうしたフランスの普遍主義への挑戦が「米国化」の一部であり、フランスを分断してしまう危険性があると非難しています。

グローバル化の影響を受けた現代のフランス社会では、さまざまな議論が飛び交っています。フランスの政治が米国化していることに関しては、批判的な意見も見受けられます。しかし、今後も米国をはじめとする、外国の文化・思考に刺激を受ける若者が増えることで、フランス社会の文化・アイデンテティまでもが影響を受けていくのかもしれません。


COLUMN: What to watch for

突然の閉鎖

Image for article titled Culture:フランスに浸透する「輸入文化」

インターネット空間の言論統制が、ますます厳しくなる中国。今度は、LGBTQコミュニティに影響力のあるソーシャルメディアのアカウントが閉鎖されたことで、ネット上で怒りの声が上がり、同性愛者の活動に対する取り締まりが強化されるのではないかと懸念されています。

『VICE』によると、フォロワー数が少なくとも数万人いるLGBTQアカウントの多くが中国の有名大学(清華大学、北京大学、人民大学などを含む)の学生によって運営されていましたが、7月6日(火)の夜、ソーシャルアプリ「WeChat」によって突然閉鎖されました。これらのアカウントは、ジェンダー問題やメンタルヘルス、職場での差別問題などを議論する場であり、学生だけでなく、広くLGBTQコミュニティにも情報を提供していたといいます。


🎧 Podcastは月2回、新エピソードを配信中。AppleSpotify

👀 TwitterFacebookでも最新ニュースをお届け。

👇 のボタンから、このニュースレターをTwitter、Facebookでシェアできます。ニュースレターの転送もご自由に(転送された方へ! 登録はこちらからどうぞ)。