Impact:インド富豪の「再エネ」頂上決戦

Impact:インド富豪の「再エネ」頂上決戦

Deep Dive: Impact Economy

気候テックの衝撃

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激動する世界の気候変動ビジネス。毎週火曜は、その現状を伝えるインサイトを紹介しています。インドの再生可能エネルギー分野は、インドに君臨するビリオネア同士の戦いの場となりそうです。

Recreating success.
Recreating success.
Image: REUTERS/Adnan Abidi

6月24日、インドの大富豪ムケシュ・アンバニが大胆なクリーンエネルギー事業を発表したとき、多くの人がアンバニに次ぐインド第2位の富豪、ゴータム・アダニに想いをめぐらせたことでしょう。

アダニは、インド国内の再生可能エネルギー分野において長年にわたり大きな存在感を示してきた人物。2030年までにインド最大のクリーンエネルギー企業になるという野望に向けた彼の「次の一手」には、誰もが注目していました。

アダニ・グループで自然エネルギー事業を担うAdani Green Energyの株価はこの1年間で約850%上昇していました。が、上記のアンバニの発表を受けて株価は下落。同社の今後の成長が圧迫されるのではないかという懸念が働いたものとみられます。

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業界の専門家は、アンバニ率いるリライアンス・インダストリーズRIL)が、短期間でインドの再生エネルギー産業のエースプレーヤーになったとしても驚かないと語っています。また、アダニはアンバニとの直接対決のみならず、RILの影で繁栄する企業との競争にも対処しなければならないという意見も。どういうことでしょうか?

米国に拠点を置くエネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)のエネルギーエコノミスト、Vibhuti Gargは、次のように説明します。

「リライアンスは、太陽電池セル、モジュール、バッテリー・ストレージなどの国内製造の基盤を拡大しています。これにより、インド企業の輸入依存度が下がるだけでなく、他の企業にとって国産品をより安価で入手できるというメリットがあります」

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Adani’s renewable business

アダニの選択

アダニ・グループには5つの主要企業があります。Adani Enterprises(持株会社)、Adani Gas(ガス)、Adani Ports and SEZ(港湾)、Adani Power(電力)、そしてAdani Green Energy(再エネ)です。

Adani Green Energy の設立は、2015年。再生可能エネルギー1万5,390メガワット(MW)のポートフォリオをもち、インド11州で事業を展開しています。現在、同社は稼働能力3,023MWの太陽光発電施設と497MWの風力発電事業を展開し、建設中のハイブリッド発電事業の発電能力は2,290MWといわれています。

専門家のなかには、アダニ・グループにはアンバニの新事業に対抗しうる先行者利益があると考える人もいます。また、Adani Green Energyは大きな国際パートナーシップを結んでもいます。例えば今年5月にはSBエナジー(ソフトバンクグループ)との間で、インドにおける35億ドルの再生可能エネルギー事業を買収することに合意。これにより、Adani Green Energyは2025年までに25ギガワット(GW)の再生可能エネルギー発電容量をもつことになりました。

昨年6月、アダニ・グループは60億ドル相当の太陽光発電プロジェクトで落札。すでに世界最大の太陽光発電事業者となっています。ここ数年では、アダニ・グループはランコ・インフラテック、GMRグループ、アバンサ・グループ、AESコーポレーションなどのプロジェクトを買収し、インド最大の火力発電会社へと成長しました。

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India’s renewable energy sector

デュオポリーの時代

盤石にも思えるアダニの野望ですが、それでもアンバニの新事業が妨げになると懸念が消せないのは、通信分野においてRILが為してきた成功があるからでしょう。

2016年、ムシュケ・アンバニがRIL傘下のリライアンス・ジオ(Reliance Jio)で通信事業に乗り出すと発表したとき、「業界のいちプレーヤーにすぎない」としか認識されていませんでした。しかし、同社は設立5年目にして、加入者4億人という顧客基盤をつくりあげ、この分野の最大手をなぎ倒したのです。

リライアンス・ジオが、端末代や通話料の無料提供を武器にライバルの収益に深刻な打撃を与えたのは、サービス開始からわずか1年後のことでした。バーティ・エアテル(Bharti Airtel)など通信大手はまだどうにか競争に耐えていたものの、Idea  CellularとVodafone indiaは生き残りのため合併という道を選ばざるをえませんでした。

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その一方で、ビリオネア2人の存在が際立つことで、破壊しがたいデュオポリー(複占)時代が始まるのではないかという懸念も高まっています。

「これには注意が必要です」と、ベンガルールに拠点を置く気候研究グループ・Climate Risk HorizonsのCEO、Ashish Fernandesは言います。「インドにおけるエネルギー転換が経済に最大限の利益をもたらすためには、より多くのプレーヤー間でのオープンで透明性の高い競争が不可欠です。業界が数社の巨大企業に集約されることは、長期的に見て健全ではないのです」

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Image: GAUTAM ADANI, REUTERS/AMIT DAVE

Cloumn: What to watch for

掘りたくても掘れない

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昨年のパンデミック期、40ドル前後をさまよった原油価格が、著しい回復をみせています。今月2日には、2018年10月以来の最高価格である1バレルあたり75ドル程度まで上昇しました。原油価格が高くなれば、原油の掘削活動も活発になるのが常ですが、米国での石油・ガス掘削装置の稼働数はさほど増加していないようです。

その原因は、パンデミックで石油会社が次々と倒産していくなかで、なんとか生き残った企業の多くが資金繰りに追われていることにあります。ヒューストン大学のエネルギー・エコノミストであるEd Hirsの説明によると、「企業は、昨年、完全に資金が尽きてしまった。彼らは、いま生み出せるキャッシュフローを心の支えにしており、外に出て掘削しようとはしないのだ」


【火曜の夜は…】

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今日から1カ月間、火曜の夜には、1週間分のアフリカ最新ニュースをまとめたニュースレターを特別配信します。COVID-19から急速に立ち上がりつつあるアフリカの現在と未来をみれば、世界の向かう先が見えてくる──そんな手応えを感じられる情報をお届けします。本日、日本時間の21時(前後)をどうぞお楽しみに!

(翻訳・編集:年吉聡太)


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