Space:#2 衛星が救える人たち

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Quartz Japan読者のみなさん、こんばんは。地球外生命体の経済的可能性を伝える週刊ニュースレターへようこそ! 今週も、宇宙ビジネスについてのエッセイと最新ニュースをお届けします。

🚀 Space Business Insight

彼らが起業したわけ

2018年、アフリカや中東から何千もの移民が過密状態の小さな船でヨーロッパを目指し、命がけで地中海を渡りました。ショッキングな画像とともに報じられたこのニュースは多くの人の感情に訴えかけるものでしたが、この人道的危機を独自の視点から見ていた人たちがいます。当時、スペインの沿岸警備隊の救難機に乗っていたファン・ペーニャ・イバニェス(Juan Peña Ibáñez)とパブロ・ベンジュメダ・ヘレロス(Pablo Benjumeda Herreros)は、1日30隻ものペースで押し寄せる難民船に第一線で対応していました。

「わたしたちの飛行機からは15マイル、20マイル、30マイルの地点しか見えませんが、何百マイル先まで監視しなければならないのです」とベンジュメダ。「当時は対応しきれなくて、とても悔しい思いをしました。難民が力尽きるたびに、何かもっとよい方法があるはずだと思うのです」

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Image: 06/10/2018, REUTERS/JON NAZCA

自問自答の末、彼らはひとつの答えにたどり着きます。それは大学に戻って衛星リモートセンシングの修士を取得し、衛星データを利用して世界中の海のあらゆる活動をより効率的に監視するための会社、オービタルEOS(Orbital EOS)を立ち上げることでした。

ペーニャによると、以前はパトロールに「ハイテク航空機で4時間」かかっていた範囲が、衛星を使うと30秒に短縮されます。

オービタルEOSは、軌道上のレーダ衛星が収集したデータを分析します。レーダ衛星は、地表にある物体の電波を跳ね返し、その反射光を測定します。このデータは、表面張力の違いを認識する機械学習ソフトを通じ、流出した石油や化学物質のように水に浮かんだ物質を識別できるほど精密なもので、この画期的な機能を武器に最初のサービスをリリースさせました。

オービタルEOSの技術力を知らしめたのが、今年5月20日にスリランカ近海で起きた海難事故です。コロンボ沖で有害物質を運んでいたコンテナ船「エクスプレス・パール」(MV X-Press Pearl)で大火災が発生し、積み荷から化学物質やマイクロプラスチックが海に流出しました。海の生き物に壊滅的な影響を与え、その被害はスリランカ史上最悪とも言われています。

船主とスリランカ政府は、船から石油は流出していないと発表していましたが、オービタルEOSのデータは異なる結果を示しました。解析された画像は、船から数百トンもの石油が流出したことを意味しています(下画像・灰色の部分)。

A screenshot of satellite data analyzed by Orbital EOS, showing an oil spill near Sri Lanka.
Image: Orbital EOS

ベンジュメダは、これは流出の規模としては他に比べて大きなものではないそうですが、「海岸からわずか7キロの沖合に沈没船があり、非常に短時間で海岸に油が到達してしまうことが問題」と指摘します。

こういったデータは、緊急時の対応に役立つだけでなく、災害の結果に対して誰が責任を負うのかという裁判の証拠としても役立つ可能性があります。

そこで活躍が期待されるのが最新の小型衛星です。小型衛星は従来の衛星よりもこまめに、地球上の特定の場所の情報を収集することができるうえ、従来よりもコストを抑えられます。オービタルEOSは、合成開口レーダー(SAR)衛星のコンステレーション構築と地球観測画像の提供を手掛ける企業、カペラスペース(Capella Space)が収集したデータをもとに、世界中で絶え間なく起きる出来事を追跡しており、その確かな技術を持ってリアルタイムでの監視を可能にすることで、より価値を増しています。

スリランカ近海での流出事故は国際的に注目されましたが、他の多くのケースは大して注目されません。とはいえ、流出した油の量がほんの少しだとしても、環境には深刻なダメージを与える可能性があります。

オービタルEOSは今後、有害物質の流出を早期に発見して海洋汚染を防ぐこと、そして政府による汚染規制の強化などをサポートしたいと考えています。現在、同社は資金調達を行って事業規模を拡大し、送電線の監視など、自社の技術が役立つ新しいサービスを開発しようとしています。これも、宇宙開発に関する技術が地上の問題解決に使われるようになった一例です。

ペーニャとベンジュメダは言います。「わたしたちは、沿岸警備隊にいたときは、最前線で実際にソリューションを使うエンドユーザーだったので、技術と現場とのギャップを見極めるのは簡単でした」。ソリューションの設計は「自分自身が油流出に対処しなければならないとしたら……というユーザーの視点に立つことから始まったのです」


🛰 SPACE DEBRIS

宇宙ビジネスのいま

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Image: REUTERS/BRENDAN MCDERMID
  • ワンウェブの資金調達。昨年、一時は破産申請に追い込まれたワンウェブ(OneWeb)は、窮地を救ってくれたインドのコングロマリットであるバーティ・​グローバル(Bharti Global)から5億ドル(約553億円)を追加調達したことを発表しました。衛星インターネット接続サービスの提供を開始するにあたって必要となる宇宙船を打ち上げるための資金を確保し、調達総額は24億ドル(約2,654億円)に。スペースXのスターリンクネットワークに対抗すべく、7月1日、さらに36機の通信衛星が打ち上げられました。一方、イーロン・マスクは先週、スターリンクネットワークが2022年内に50万人のユーザーにサービスを提供することを期待していると発言しました。
  • トータリーチューブラー。7月1日、ヴァージングループ会長のリチャード・ブランソンが支援する企業、トータリーチューブラー(Totally Tubular)は2回目のミッションを成功させました。改造を施したボーイング機から切り離した空中発射型の小型ロケット「ローンチャーワン」に衛星を搭載しています。このミッションは、「ヴァージン・レコードと契約した最初のバンドの初アルバムのオープニング・トラック」にちなんで「チューブラー・ベルズ」と名付けられ、オランダ初の軍事衛星を含む7つの超小型人工衛星「キューブサット」を飛ばしました。ヴァージンは、今年1月にもNASAの支援を受けたミッションで10個のキューブサットを軌道に乗せることに成功しています。来年は、さらに打ち上げの回数を増やす計画です。
  • シェアは思いやり。スペースXの最新の小型衛星専用ミッションは7月1日に無事に打ち上げられました。当初は前日に打ち上げが予定されていましたが、直前に飛行機が発射場周辺に侵入したため見送られ、イーロン・マスクは不満を漏らしました。彼が政府に文句を言うのはいつものこととはいえ、バイデン政権下で商業目的での宇宙活動規制の修正作業が停滞していることは事実です。
  • モメンタスは間違っていない。今年、ナスダックに「SPAC」(特別買収目的会社)方式で上場した宇宙輸送スタートアップのモメンタス(Momentus Space)の動きは私たちも非常に気になって追っています。先週、モメンタスが提出した米証券取引委員会(SEC)への報告によると、企業価値がほぼ半減。昨年の12億ドル(約1,330億円)から現在は5億5,600万ドル(約615億円)に評価額を下げています。今年1月に創業者兼CEOのロシア人起業家ミハイル・ココリチ(Mikhail Kokorich)氏が米国の安全保障に関わる疑惑で辞任に追い込まれるなど、懸念が多い同社の技術に対し、米政府はまだ承認していません。
  • 欧州、宇宙ビジョンを決定。6月23日、欧州宇宙機関(ESA)の今後5年間の予算計画とそれに伴う制度改革が正式に始まりました。EUを離脱した英国も加盟しています。総額148億ユーロ(1兆9,300億円)を投じ、ブレグジットに絡む複雑な状況に対応しながら、米中の宇宙投資のマッチングに注力します。
  • 多惑星文明の実現。なぜ地球を離れるのか──。その答えのひとつは、大気圏外への探査が良くも悪くも、文明にとって不可避だから、と、英国の宇宙アナリスト、ジョン・シェルドン(John Sheldon)は書いています。

(翻訳:鳥山愛恵)


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