Borders: キューバのデモとインターネット

Protesters are chanting “patria y vida” (homeland and life) a play on the Cuban regime’s slogan “patria o muerte” (homeland or death). The protest slogan was popularized by a viral music video released in February.
Protesters are chanting “patria y vida” (homeland and life) a play on the Cuban regime’s slogan “patria o muerte” (homeland or death). The protest slogan was popularized by a viral music video released in February.
Image: REUTERS/Alexandre Meneghin

Deep Dive: Crossing the borders

グローバル経済の地政学

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デモ参加者の死亡も発表されたキューバの反政府デモ。つい数年前までインターネットと隔絶されていたこの国で、何が起きているのでしょうか。毎週水曜は、世界の経済を動かす最新ニュースをお伝えしています。

Cuban protesters walk with their fists raised past the colorful and crumbling facades of buildings in Havana.
Protesters are chanting “patria y vida” (homeland and life) a play on the Cuban regime’s slogan “patria o muerte” (homeland or death). The protest slogan was popularized by a viral music video released in February.
Image: REUTERS/Alexandre Meneghin

11日(現地時間)、キューバの数十の都市では数千人の抗議者が街頭に立ち、崩壊しつつある医療制度や食糧不足、停電、政治的抑圧に対する怒りを訴えました。

これは、この数十年で最大の反政府デモ。さらに「#SOSCuba」というハッシュタグで画像や動画がソーシャルメディア上で拡散され、異論を許さぬ権威主義的な政権の62年の歴史において、最も注目を集めた抗議活動となっています。

この抗議活動は、2018年以降、何百万人ものキューバ人がモバイル機器経由でインターネットにアクセスできるようになった3Gネットワークがなければ実現しなかったでしょう。厳重な制限下ではあるものの、このモバイルネットワークのおかげで、キューバの活動家たちは「Telegram」などの暗号化メッセージングアプリでデモを組織し、「Facebook」や「Twitter」などのソーシャルネットワークで抗議活動をライブストリーミングし、ディアスポラコミュニティの支援者と連絡を取り合って国際的な支援を呼びかけることに成功しています。

キューバの共産党政権の思惑は、インターネットアクセスを拡大することで、国の経済状況を改善し、不平等なウェブアクセスに対する国民の不満を解消し、地球上で最もインターネット利用率の低い国のひとつであるという国際的な屈辱から逃れることにありました。それはある程度成功したといえますが、コロナウイルスのパンデミックによって旧ソ連崩壊以来の最悪の危機に陥ろうとしているまさにいま、意図とはまったく逆方向への扉を開いてしまったともいえます。

Why are Cubans protesting?

なにに抗議している?

 パンデミックはこの国の共産主義体制を支える2つの柱──外国人観光客公的医療制度──を、根底から覆しました。まず、世界がロックダウンされたことで旅行者は旅行計画をキャンセルし、キューバ経済の主要なエンジンが停止しました。一方、病院ではCOVID-19に直面するなか、キューバ政権の誇りとその正当性を裏打ちしてきた医療システムの限界が露呈することになりました。

キューバ人は家族や友人の病気のために必死になって医薬品を探し、なかには救急車がやってきても病院に搬送される前に自宅で死亡した人もいました。キューバ人の怒りは爆発し、その怒りはサンアントニオ・デ・ロス・バニョスを皮切りに、ハバナ、サンチアゴ・デ・キューバと島全体に広がっていったのです。

Cuba embraces the internet

短いキューバのネット史

 キューバ政府がインターネット網を拡げ始めたのは2013年のことでした。最初は入会困難な「サイバーサロン」というべきもので、4ドル50セント(月給の4分の1程度)を払ってやっと1時間インターネットを利用できるようなものでした。2015年には、公共の公園や広場に無線LANのホットスポットが設置され、ルーターの範囲内では無料でインターネットにアクセスできるようになりました。本当の意味で普及したといえるのは2018年12月のことで、このとき当局は全国的な3Gネットワークの展開を発表。キューバ人は初めて、どこからでもインターネットにアクセスできるようになりました。

この2年で、400万人の市民(人口の約3分の1)がモバイルインターネット接続を確保できるようになったと、キューバ政府は推定しています。キューバのインターネットは、検閲の対象となっているものの、TwitterFacebookといった米国のソーシャルメディアを遮断する中国式の「グレート・ファイアウォール」は導入されていないのが特徴です。実際、大統領のミゲル・ディアス=カネルはTwitterを積極的に活用しており、不満を訴えるツイートと衝突することもあります。

近年、キューバの政権は、インターネットを「脅威」ととらえるのではなく、「資産」ととらえるようになってきています。ディアス=カネル大統領は、今回の抗議活動中にも、ソーシャルメディアに精通した権威主義的な指導者たち(米国のドナルド・トランプやブラジル大統領のジャイル・ボルソナロ、インド首相のナレンドラ・モディ……)の「戦術」を用いて支持者への訴えを続けました。インタビューや全国放送を駆使して(その内容を切り取りTwitterやFacebook、Instagramで拡散して)デモ参加者は米国が派遣した傭兵であるというデマを流し、国民に街頭に出て暴力的に抵抗するよう呼びかけたのです。

#SOSCuba

ハッシュタグ#SOSCuba

モバイルインターネットへのアクセスは、キューバ市民が街中を行進するデモ参加者の様子を撮影し、動画を共有することを可能にしました(これは前例のないことです)。今回のデモが1994年のマレコナソ蜂起(約3万5千人の難民が米国に亡命)よりも大規模なものとなったかどうかは、まだはっきりしません。しかし、この抗議活動が、当時よりも多くの人びとの目に届いたのは確かです。活動を伝える動画がこの島を飛び出し、これほど早く広まることなどかつてなかったからです。

ハッシュタグ「#SOSCuba」は、キューバのレゲトンアーティストEl Unikoのようなミュージシャンから、Los Pichy BoysMister Redのようなニッチなキューバ系アメリカ人コメディのインフルエンサーまで、ディアスポラコミュニティに瞬く間に広がっていきました。さらに、フロリダ州選出の上院議員マルコ・ルビオや、ポルノ女優ミア・カリファなど、さまざまな国の著名人からもメッセージが届いています。

キューバ当局は、抗議活動を鎮圧するべく各都市でのインターネット接続を遮断し始めたため、ハッシュタグ#SOSCubaは、キューバ国内外に情報を広める手段となりました。一部のキューバ人デモ参加者はVPNを通じてインターネットにアクセスし、ソーシャルメディアにメッセージを投稿し、キューバ国外のフォロワーに対し、ディアスポラコミュニティへの情報拡散を依頼したのです。彼らは、メッセージを見た人が電話を手に取り、キューバ国内の親戚に最新のニュースや抗議活動の計画について連絡してくれることを期待したのです。インターネットはほとんど使えなくなっても、電話回線はまだ機能していたようです。


COLUMN: What to watch for

世界の5G普及格差

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今後5年間で5G携帯電話技術の導入率が最も低い地域は、サブサハラン・アフリカ(サハラ以南のアフリカ)であると予測するレポートが発表されました。これはスウェーデンのエリクソンによるレポートで、サブサハラン・アフリカでの携帯電話接続のうち、5Gを利用しているのは、現在のところ1%未満。2026年には7%に達する可能性が高いとされています。その主な理由は2点。5G技術の導入コストが高いことと、5G携帯電話の価格が高いことにあるようです。エリクソンによると、世界の160社以上の通信サービス事業者が5Gサービスを開始し、300機種以上の5Gスマートフォンが発表または市販されています。今年末までに、5Gのユーザー数は世界で5億人を超えるだろうと付け加えています。

(翻訳・編集:年吉聡太)


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