Quartz Japan読者のみなさん、こんばんは。地球外生命体の経済的可能性を伝える週刊ニュースレターへようこそ! 今週も、宇宙ビジネスのいまをお届けします。
🚀 Space Business Insight
いまがチャンス
3Dプリンタでロケットを製造するリレイティビティ・スペース(Relativity Space、以下リレイティビティ)の創業者ティム・エリス(Tim Ellis)は、投資家との話し方をよく心得ています。2015年に同社を立ち上げたときには、億万長者の起業家マーク・キューバン(Mark Cuban)をコールドメールで説得し、投資の約束を取り付けました。そんな彼が、この10カ月で11億5,000万ドル(約1,270億円)を調達。直近の6月のシリーズEラウンドでは6億5,000万ドル(約715億円)を調達し、ポストマネーベースの評価額は昨年11月時点の23億ドルから膨れ上がって42億ドルになると、Quartzでも伝えていました。
エリスによれば、レイティビティはロケットの打ち上げ実績がないにもかかわらずすでに多くのロケットを販売し、民間と政府関係から9件の契約を獲得するなど、事業は好調のようです。フィデリティ(Fidelity)やタイガー・グローバル(Tiger Global)といった大手の投資家たちは、年末に予定されている「Terran 1」ロケットの進捗報告に感銘を受けていたといいます。
そしていま、レイティビティは今回の新たな資金調達によってさらに大型のロケット「Terran R」(全長65.8メートル、低軌道までの最大ペイロード容量は2万ポンド)の開発に着手します。なお、3DプリントでTerran Rを1機つくるのに約60日かかるそうです。※スペースX「ファルコン9」は約70メートル。
資本を求めるロケットメーカーにとって、いまは好機と言えます。リレイティビティの上場への期待は高まりながら、他にも小型ロケット打ち上げのロケット・ラブ(Rocket Lab)とアストラ(Astra)はSPAC合併によって株式を公開することが決まっています。この上場は数億ドルの資金をもたらし、事業の拡大を加速させます。ファイアフライ・スペース・システムズ(Firefly Aerospace)は5月に7,500万ドル(約82億円)の新規資金を獲得し、2017年に創業したランチャー(Launcher)は6月に1,100万ドル(約12億円)を調達しました。
なお、スペースXは今年初めに8億5,000万ドル(約936億円)の資金調達を行い、740億ドル(約8兆1,440億円)という驚異的な評価額を記録しています。
ヨーロッパやアジアの競合他社、アマゾンのジェフ・ベゾス率いるブルーオリジン、そしてボーイングとロッキード・マーチンの合弁会社であるユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)については触れませんが、この打ち上げ市場を観察していると、すべてのロケットメーカーが成功するには、打ち上げられる衛星の数が足りないという意見が多いように感じます。しかし、衛星運用者は、軌道に到達するためのより多くの安価な選択肢を求めており、新しい宇宙船製造の承認は急増しています。
また、宇宙関連のスタートアップについて言及したいのは、彼らが単にロケットを提供するだけではないことをアピールしている点です。レイティビティの3Dプリンティング技術は、航空宇宙分野にも影響を与える可能性があるし、アストラとロケット・ラブは新しい衛星開発のためのプラットフォームを開発中。スペースXはいまや世界最大の商業衛星コンステレーション事業者となっています。
民間投資家も一般の投資家も、ロケットと宇宙関連ビジネスは投資に値する価値をもつ、という考えに惹きつけられています。だからこそ、ボーイングとロッキードが過去10年間に行ったULAに関する決定は、第三者の目にはとても奇妙なものに映ります。ボーイングとロッキードの年次報告書によると、ULAの価値は2020年に下落しています。ULAは完全には分解されていないが、この “老舗企業”の価値は2020年末の時点で約15億ドル(約1,650億円)と、前年から1億ドルほど落ちました。
10年前までULAは米国の主要なロケットメーカーでしたが、現在は存在感が薄まりつつあります。同社の最新ロケット「ヴァルカン」に使用されるエンジンのうち、最も技術的が必要とされる部分の製造をブルーオリジンに任せています。
とはいえ、ULAからボーイングとロッキードが受ける恩恵はなお多く、2020年には約2億8,400万ドル(約313億円)と、かなりの利益を得ています。
要するにULAは“革新的な企業”になることが目的ではなく、ボーイングとロッキードという米国において重要な2社を守りながら、米軍と宇宙との繋がりを維持するためのまやかしだったのです。
しかしながら、ULAがこの数百万ドルの資金を、宇宙経済への投資に充てていたらどうなっていただろうと思わずにはいられません。“老舗企業”にとって障害となる請負業者の文化から抜け出せなかった可能性もありますが、ULAは今日、ずっと競争力のある企業になっていたかもしれません。
一方でリレイティビティ、ロケット・ラブ、アストラといった新しいロケットメーカーは、米軍のご贔屓企業の3倍の価値があると個人投資家の間で言われているのだから、なんとも奇妙な世界です。
🌘 IMAGERY INTERLUDE
写真でひとネタ
元NASAジェット推進研究所の科学者であるデニス・ティト(Dennis Tito)は、宇宙探査機の設計に使われたのと同じ高度な数学を駆使して投資マネジャーとして成功しました。2001年にロシアのソユーズソユーズTM-32で飛び立った彼は、国際宇宙ステーション(ISS)を訪れるために、自腹で2,000万ドル(約22億円)を支払ったと言われています。
2011年にスペースシャトル計画が終了して宇宙飛行士を飛ばすことができなくなってから、ティトー以外にも6人が宇宙旅行者としてお金を払ってISSを訪れました。しかし、スペースXドラゴンの登場で、宇宙旅行が復活しました。現在予定されているミッションでは、この先2年間で少なくとも11人が“観光旅行”に出掛けます。
🛰 SPACE DEBRIS
宇宙ビジネスのいま
今週の「宇宙ビジネス最新ニュース」は、担当のTimがバケーション休暇のため、お休みです。また来週、お会いしましょう!
(翻訳:鳥山愛恵)
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