Deep Dive: New Cool
これからのクール
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音楽プロデューサーのドクター・ドレーとジミー・アイオヴィンが、2022年秋、起業家を目指す生徒の育成などを目的とした高校を、LAに開校すると発表。米国で一番クールな高校になることはできるのでしょうか(英語版はこちら)。
音楽プロデューサーのドクター・ドレー(Dr. Dre)とジミー・アイオヴィン(Jimmy Iovine)は、ロサンゼルスに、起業家を目指す生徒の育成などを目的とした高校を開校する計画を発表しました。
ロサンゼルス統一学区に属するこの公立学校は、2022年秋に生徒124人を受け入れて開校し、最終的には250人の生徒が入校できるようになる予定です。
今日のニュースレターでは、2人のヒップホップ研究者と1人のキャリア/実業教育研究者が、この学校が米国にどのような意味をもたらすかを訊ねました。
#1 much like hip-hop itself
垣根のない学びの場
──エドモンド・アジャポン(Edmund Adjapong、シートン・ホール大学STEM教育学科助教授)
ドレーとアイオヴィンが提示する学校は、場所と方法論がそれぞれ特徴的です。
全米で2番目に大きな学区であるロサンゼルス統一学区での開校を予定していますが、この学区はラテン系住民が74%、黒人が10%を占めています。
設立予定地であるレイマート・パークは、ロサンゼルスの黒人文化の中心地です。レイマート・パークは、人口の72%がアフリカ系米国人、約16%がラテン系米国人で構成される、黒人が多く住む地域です。レイマーク・パークでの開校は、すべての生徒、とくに黒人やラテン系の若者に革新的な教育機会と経験を与える必要性を表しているでしょう。
また、ロサンゼルス統一学校区での開校は、教育の場で疎外されてきたグループを支援するというコミットメントを示しているといえます。統計によると、現在、同地区に住む生徒の80%が貧困線以下での生活を余儀なくされています。つまり、この学校は、その社会的地位ゆえに質の高い学校生活を送れない生徒たちを受け入れることができるのです。
多くの学校では、教科を個別に教える傾向があります。しかし、この方法では、生徒がさまざまな分野のあいだに存在する「つながり」を知ることができません。この学校は、ヒップホップがそうであるように学際的なものと言えるでしょう。
ヒップホップとは5つの異なるクリエイティブな要素(MC、ブレイクダンス、グラフィティアート、DJ、自己に関する知識)からなります。そのなかに若者が参加し、問い、体験し、実生活に応用できる文化を生み出しています。
例えば、音楽制作においては、科学や数学を応用できるでしょう。音楽を録音する際の音の振幅や周波数の原理を学び、これらの要素を変えることでサウンド全体がどのように変化するかを知るのは立派な研究です。そこに起業家精神が加わることで、学生が音楽に対する理解と経験に基づいて生計を立てることもできるでしょう。
学際的な教育には、バイアス(思い込み)を認識する能力、批判的に考える能力、曖昧さを容認する能力、倫理的な問題を認識し評価する能力の向上が含まれます。
この学校では、生徒たちが、自分たちの地域社会やグローバルコミュニティを発展させるために、革新的な解決法を生み出すスキルと知識をもった起業家になることを考える機会を与えることを想定しています。イノベーションと批判的思考が不可欠なグローバル経済において、ドレとアイオヴィンの提案する学校は、米国内の他の高校の模範となる可能性があると思います。
#2 direct connections to industries
地域の産業と結びつく
──ショーン・ドハーティ(Shaun Dougherty、ヴァンダービルト大学公共政策・教育学准教授)
高校で実生活に応用できることを学び、実行することで、生徒は学校に興味をもち続け、卒業しやすくなります。また、仕事のスキルを身につけることで、やりがいのある仕事に就き、高い給料を得られる可能性も高まります。
この学校の優れた点は、ビジネスやデザインなど、いくつかの応用学習の分野に焦点を当て、エンタテインメント関連のマルチメディアデザインやビジネスなど、ロサンゼルスで存在感のある産業と直接結びついていることです。
ドレーとアイオヴィンは、教育分野に初めて進出したわけではありません。2013年には、7,000万ドル(約7.66億円)を寄付して、南カリフォルニア大学に「USC Jimmy Iovine and Andre Young Academy」を設立しています。このアカデミーの名前は、ドレーの法律上の名前がアンドレ・ヤング(Andre Young)であることに由来しています。新たな高校は、現在の計画をみたところ、USCアカデミーと同様にアートとデザイン、エンジニアリングとコンピュータサイエンス、ビジネスとベンチャーマネジメント、コミュニケーションに重点を置いた高校になる予定です。
この学校では、ITやコーディング、コミュニケーションに重点を置くことで、他の生徒が得られないようなものを習得することができます。
理想的なのは、地元の産業界のリーダーが学校と提携して、ジョブシャドウイング(職場体験)や、単位取得のための有給インターンシップなど、仕事をベースにした充実した学習体験を提供することです。このようなパートナーシップは、生徒が仕事や大学の単位取得に役立つスキルを身につけるのに役立つだけでなく、大学の選択肢や、どのような仕事に就くことができるかについての認識を広げるのにも役立ちます。
#3 to foster entrepreneurialism
隠れた才能に気づく
──ノーラン・ジョーンズ(Nolan Jones、ミルズ・カレッジ准教授)
ドレーとアイオヴィンが提案した高校は、ヒップホップ文化の2つの要素とされる「知識」と「起業家精神」を体現しているように見えます。
この学校では、多分野にわたる教育を行うことが決まっています。このやり方が成功すれば、学生が経験や正式な教育を通じて、自分の可能性や隠れた才能を発見することができるようになります。また、実社会で応用可能な教育を提供できる可能性もあります。
また、創立者の一人がヒップホップのアイコンであり、ヒップホップが大衆娯楽や若者文化の中で支配的な力をもち続けていることから、わたしはこの学校を起業家精神を育むための手段としても考えています。
起業家精神は、ヒップホップの創造性や発明性を引き出すものです。また、自営業や自己啓発、ビジネスマネジメントを奨励し、制作した作品に対して正当な対価を受け取るなど、公正な取引を実践しています。
2人が提案する学校の性質からして、将来性のある「クリエイティブなヒップホップ」に対する興味を引くものになるでしょう。
COLUMN: What to watch for
次はアリアナが参戦
アリアナ・グランデ(Ariana Grande)が、ビデオゲーム「フォートナイト」(Fortnite)とコラボレーション。8月6日から8月8日(現地時間)まで開催されるバーチャルライブ「リフトツアー」(Rift Tour)のヘッドライナーを務めます。エピックゲームズ(Epic Games)によると、リフトツアーは世界中のファンが視聴できるように、3日間で5つのショーが開催されるといいます。
バーチャル音楽イベントを行うアーティストは、アリアナが初めてではありません。2019年、DJのマシュメロ(Marshmello)が史上初のフォートナイトでコンサートを開催し、2020年にはトラヴィス・スコット(Travis Scott)やJ・バルヴィン(J Balvin)といったアーティストがこれに続きました(トラビスのイベント「Astronomical」には、4,500万人以上の視聴者だったと言われています)。完全なコンサートではありませんが、BTSも昨年の夏、フォートナイトの「パーティロイヤル」ステージを使って、ヒットシングル「Dynamite」の振り付け版のMVを初公開しました。
パンデミックの影響もあり増加した「バーチャルの音楽体験」は、若者のカルチャーに根付く「ゲーム」と「音楽」という2つの要素がうまく融合して成功しただけでなく、アーティストにとっても新たな「ツアー会場」のひとつとして追加されていくでしょう。
(翻訳・編集:福津くるみ)
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