Deep Dive: Crossing the borders
グローバル経済の地政学
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コロナ禍のインド。とある後発コンドームメーカーが、セックスがタブーの国で勝利を収めた背景とは。毎週水曜は、世界の経済を動かす最新ニュースをお伝えしています。
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製薬会社Mankind Pharmaの傘下の「Manforce」がインド最大の販売数を誇るコンドームブランドになったウラには、独自のマーケティング手法がありました。
「既存ブランドも政府もキャンペーンを打っていて『避妊具を使えば安全なセックスができる』という事実はすでに確立されています。ただ、それだけでいいのでしょうか?」。同社常務取締役兼副会長のRajeev Junejaは語ります。「わたしたちは、コンドームを使用することでいかに快感を高めることができるかを消費者に伝えたのです」
米国のデータ会社ニールセンによると、現在、Manforceのインド市場におけるシェアは32%以上。ライバルである「Durex」や「Kamasutra」に大きな差をつけています。
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しかし、その成功への道のりは容易なものではありませんでした。2007年に発売されたManforceは、多くの苦労に直面しました。「夢に描いた目標を達成できるかどうか、何度も希望を失ったものです」と、Junejaは振り返ります。
The story of Manforce Condoms
多言語インドの広告効果
コンドームをつくろうと決めた製造元のMankind Pharmaは、まず、事前調査からスタートしました。同社はすでに勃起不全治療薬の販売を手がけていたので、バイアグラ錠剤と一緒にコンドームの無料サンプルを配り始めたのです。
当初は無料サンプルの配布も簡単ではなかったようです。「避妊具に対する意識は低く、地元の薬局を説得するのに苦労しました」(Juneja)
とはいえこの無料キャンペーンが徐々に浸透し、製品発売に踏み切ったMankind Pharma。しかし、実際に製品を販売してみると、積極的な広告を行ったにもかかわらず、なかなか普及はしませんでした。
「誰もがいろんな言い訳をしてコンドームを買おうとはしなかったのです。それこそパッケージのせいにしたり、性感染症にかかるのを恐れたり。もっとも多かったのはコンドームの『漏れ』を指摘するものでしたが、同じくらい多かったのが『性的快感が損なわれる』というものです」
Mankind Pharmaが打開策として考えたのは、潜在的な顧客とよりパーソナルな関係を築くことでした。世間の注目を集める話題をモチーフにした奇抜なキャンペーンで注目を集める一方で、2015年に始めたのは、現地の言語での地域広告でした。
この戦略が功を奏し、コンドームブランドManforceの人気に火がつきました(ただし、一方では論争も巻き起こしています)。
「インドでは、100マイルごとに人口動態が変わります。デリーやムンバイでは、ヒンディー語を使った通常の広告の効果が期待できます。一方で、グジャラート州や西ベンガル州、オディシャ州などでは、マーケティングキャンペーンを切り替えた瞬間に高い売上を記録しました」
その後、同ブランドのビジネスは順調に成長しています。しかし、COVID-19の大流行は、インドのコンドーム業界全体にこの国ならではの課題を投げかけました。
The impact of Covid-19
近所の薬局に行けない
2020年に発生したロックダウンは、Manforceの売上に想定外の大打撃を与えました。
もっとも、この傾向は同ブランドに限ったことではありません。市場全体の売上が減少しています。
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Junejaは、売上低迷の原因はインド人の多くが近所の薬局ではコンドームを買わないこと、そして、ロックダウンによって遠出ができなくなったことにあると考えています。彼によると、ロックダウン以前、ほとんどのインド人は自宅から遠く離れた場所やオフィス周辺の店舗でコンドームを購入していたと言うのです。
インドでは、薬局がコンドーム調達の最大の要となっています。インドのコンドームメーカー組合Condom Allianceが最近発表したレポートによると、「近所の薬局」がインドにおけるコンドームの総売上の約78%を占めているのです。
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この課題を克服するために、Manforceはデジタル空間における存在感を高めようとしています。「最近まで、オンラインでの販売にはあまり積極的ではありませんでした。オンラインチャネルでの販売に本格的に取り組み始めたのは、2020年の第一波の到来後でした。まだ(ロックダウンの)全損失は埋まっていませんが、着実にコロナ以前の数字に近づいています」(Juneja)
売上の回復は、彼らに新製品を発売する自信をも与えたようです。Manforceは、女性のセクシュアリティに関するスティグマに対処すべく、女性用コンドームの発売に向けて準備を進めているといいます。
a strong future
デザイン、香り…
Junejaは、市場における優位性を担保するのはコンドームの「デザイン」と「フレーバー」のイノベイションにあると考えています。現在、Manforceは16種類のコンドームを提供していますが、それらは「守られる悦び」をより高めているのだと言います。
「パーン(インドの噛みタバコ)、ヘーゼルナッツ、ストロベリーなど、あらゆるフレーバーのコンドームを提供しています。一番売れているのは、チョコレート、ライチ、イチゴのフレーバーです」(Juneja)
「特に若者にとって、性的快楽の究極の目的は、オーガズムを感じることにあります。消費者がそれを達成できるように、わたしたちはコンドームのデザインの実験を続けてきました」と言うJunejaは、「極薄のコンドームからドット柄のコンドームまで、できる限りのものを提供しようとしています」と付け足しています。
COLUMN: What to watch for
五輪選手の亡命史
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2日、東京五輪のベラルーシ陸上代表クリスツィナ・ツィマノウスカヤ選手に対し、ポーランド外務次官は人道ビザを発給したことを明らかにしています。一部のアスリートにとって、オリンピックは、母国の抑圧された状況から逃れ、アクセスが困難な欧米諸国へのビザを取得するための一生に一度のチャンスです。
2012年のロンドン五輪では、カメルーン、スーダン、エチオピアなどアフリカ諸国から出場した15人の選手が行方不明になり、そのうち数人がのちに英国への亡命を希望しました。2018年、オーストラリアで開催されたコモンウェルス大会では、200人以上のアフリカの選手や関係者が亡命を申請しました。さらに遡ること1956年、メルボルン五輪の際の「メルボルンの流血戦」は近代五輪史でよく知られた出来事です。同大会は脱ソ連を進めたハンガリーをソ連が武力弾圧した(ハンガリー動乱)直後に開催されましたが、大会後、ハンガリー選手団100人のうち45人が亡命を果たしています。
(翻訳・編集:年吉聡太)
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