Borders:東南アジアの「グローバル」ユニコーン

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Deep Dive: Crossing the borders

グローバル経済の地政学

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Quartz Japan読者の皆さん、こんばんは。グローバル経済のいまを読み解く毎週木曜のニュースレター、今週は、先日開催したウェビナーシリーズ「Next Startup Guide」第8回のダイジェスト版をお届けします。

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Image: REUTERS/WILLY KURNIAWAN

Quartz Japanのウェビナーシリーズ「Next Startup Guide」は、世界の第一線で活躍するベンチャーキャピタリストをゲストに迎えて毎月開催しています。

今日のニュースレターでは、月曜夕方に月2回のペースでお届けしている「Next Startup」のナビゲーター久保田雅也さんとともにお届けしたウェビナーの内容を、読者の皆さんと共有します。

今回お届けするのは、6月に開催した第8回の内容です。Genesia Venturesの鈴木隆宏さんをゲストに迎え、東南アジアのスタートアップシーンを語り尽くしていただきました。

ウェビナー開催に先立つ5月、インドネシアの2大スタートアップGojekとTokopediaの事業統合が世界でも大きく報じられました。当日は、鈴木さんが注目する「次なるスタートアップ」も挙げていただきましたが、本ニュースレターではこの事業統合の背景にフォーカスし、内容に編集を加えています。

ウェビナーで使用したスライドは、PowerPoint版PDF版をそれぞれダウンロードしていただけますので、鈴木さんが注目しているスタートアップ3社の詳細はそちらでぜひチェックしてみてください。

それでは、以下、鈴木さんと久保田さんが繰り広げたトークのエッセンスを、どうぞお楽しみください。

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鈴木隆宏(すずき・たかひろ) 早稲田大学スポーツ科学部卒業。2007年、サイバーエージェント入社。11年よりサイバーエージェント・ベンチャーズ(現:サイバーエージェント・キャピタル)へ入社し、日本におけるベンチャーキャピタリスト業務を経て、インドネシア事務所代表に就任すると共に、東南アジアにおける投資事業全般を管轄。2018年、株式会社ジェネシア・ベンチャーズに参画。Twitterアカウントは@takabos

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、2014年、WiL設立の際にパートナーとして参画。QUARTZ JAPANのニュースレター連載「Next Startup」では、毎回世界の注目スタートアップを取り上げているNewspicksプロピッカー。Twitterアカウントは @kubotamas

Reorganizing the power map

勢力地図の再編成

鈴木(以下S) インドネシアのEコマース市場といえば、4つの主要プレイヤーの名前が挙げられます。

まず、Seaグループの「Shopee」(ショッピー)。Seaグループは中国系資本が強い会社で、その株式の30パーセント前後をテンセントが所有しています。続いて大きいのが「Tokopedia」(トコペディア)。メインインベスターはアリババとソフトバンクです。最初期は日本のVCも支えていましたが、気づけばいまや中国が主要なシェアホルダーになっています。

3つ目は「Lazada」(ラザダ)。元々ドイツのRocket Internetが創業した“東南アジア版アマゾン”のような企業でした。インドネシアでも年間4,500億円前後の流通総額を誇る規模に育っていますが、約4年前、アリババに2,000億円強で買収されています。最後に「bukalapak」(ブカラパク)。インドネシアの財閥に加え、アントグループのアントファイナンスが投資しています。

つまり、いま、インドネシアのECのメジャープレイヤーは、そのメジャー株主が中国系なんです。

久保田(以下K) そのTokopediaとライドシェア大手のGojekとの統合は、日本でも注目されました。鈴木さんはどう見ていましたか?

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Image: REUTERS/BEAWIHARTA BEAWIHARTA

S 東南アジアのEC業界において、長年Tokopediaが首位を走ってきたなか、この2〜3年でShopeeが台頭してきました。その背景には、SeaがNYSEに上場して多額の調達を可能にしたことと、オンラインゲーム/スマートフォンゲームのパブリッシングで圧倒的首位の座を獲得したことがあります。彼らはゲームで生んだ数千億ドル単位の利益ををすべてShopeeのグロースに投資しているんですね。送料を無料にしたり常にディスカウントしたりすることでShopeeは大きく成長し、Tokopediaに迫っている状況です。戦いが激化するなかで経営統合という判断が生まれたということでしょう。

K EC(Tokopedia)とライドシェア(Gojek)の両者の相性はどうでしょう? 「決済」というレイヤーでの相性のよさがあるようにも思いますが。

S ええ。中国で特徴的な「スーパーアプリ」の動きは、インドネシア含め東南アジア全体でも目立ってきています。スーパーアプリというモデルが本当に成功するのか、個人的にはわからない部分もありますが、オンラインのプレイヤーが決済を担おうとするとき、同時にオフラインも抑えないと規模を出せないのは、中国での事例でも顕著ですね。

そのための要となる「E-ウォレット」のライセンスが、インドネシアでは2009年前後から新規発行できなくなっている点は重要です。新たに参入しようにもライセンスをもっている大手通信企業の買収もできずジレンマとなっていたなか、選択肢として出てくるのがGojekです。実はGojek は約5年前、ライセンスをもった企業を買収しています。Tokopediaは、Gojekと組むことでライセンスを取得できたわけです。

From Asia to World

アジアから世界へ

K Shopeeに攻め込まれているTokopediaの一手……Gojek側にもTokopediaと事業統合をしたい事情があったのでしょうか?

S むしろ、Gojek側の方が事業統合の必要性が高かったように思います。東南アジアのライドシェアといえば、Gojekとマレーシア発のGrab(グラブ)が二強といわれてきました。Gojekはバイクの配車からスタートして、フードデリバリーやバイク便だけでなくエンタテインメント事業やフィンテックソリューションなど、あらゆるサービスを提供しています。

一方のGrabは配車アプリからスタートして、マレーシアやシンガポールなどに進出しました。GrabもGojekと同じくスーパーアプリへ舵を切りたかっただろうと思うのですが、Grabは東南アジアでUberと争っていて、スーパーアプリをやる余裕がない状況でした。で、確か正確な年数ちょっと忘れました。2018年、GrabはUberの東南アジア部門と合併してインドネシア以外の東南アジアでは“敵なし”な状況になって、ようやくスーパーアプリ化に取り組めるようになりました。

そこからGrabの資金調達が始まるんですが、Grabは(インドネシア以外の)東南アジアの主要5カ国での優位を背景に、投資資金をインドネシアに回し始めたんですね。

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Image: GRAB'S CEO ANTHONY TAN EDGAR SU

K 直近での新型コロナの影響はどうでしたか?

S 2020年、GojekもGrabも資金調達においてCOVID-19の影響を大きく受けました。事業自体はフードデリバリーなどが伸びたことでそこまで影響は大きくはなかったのですが。また両者の間には何度も合併の話が出ていましたが(実は創業者同士がハーバード大学経営大学院の学友です)、インドネシアで強いGojekとそれ以外の国に強いGrabで合併比率などで折り合いづらかったのではなかったかと思われます。

K なるほど。

S かたやShopeeとの戦いに備える必要に迫られているTokopediaがいて、彼らはGojekが弱みとするオンラインに長けていたわけです。Gojekからすると、Tokopediaと組めば、自分たちが提供しているE-ウォレットの事業の幅を広げられる可能性もある。結果、Toakopediaと組むのが最適だと判断したという流れだろうと思っています。

K 調達額が日本のそれとはケタが違いすぎて、“頂上決戦”感がありますね。インドネシアは島国ですから、地域や島ごとにGojekとGrabの勢力が分散した二強状態でもおかしくないと思っていましたが、それを許さないぐらいの札束の殴り合いをやっていたんですね。

S 特に後発のGrabとShopeeは、札束の殴り合いで一気に参入した印象ですね。久保田さんがおっしゃる通りで、当初は──シリーズA/Bくらいまでは──、一定数の地域性が出るのではないかとされていました。それこそ「都心部に強いTokopedia/田舎部に強いbukalapak」という棲み分けだったんですが、フタを開けてみると、結局のところ一番伸びている会社に資金が集まり始めるんですよね。結果的に、地域性は関係なかったという結論に至っています。

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Image: REUTERS/EDGAR SU

K ベトナム、インドネシア、フィリピン、タイ、マレーシア……それぞれ違う国だといういままでの考え方はもはやなく、すべてに跨がるひとつの“帝国”が生まれている。

S そうですね。それもビジネスによるのかもしれません。ライドシェアのように模倣しやすいビジネスモデルだと、海外展開もしやすいですから。

一方でマーケットプレイス/ECはどうかというと、TokopediaとShopeeでそれぞれ戦い方が異なります。Tokopediaは、まさに「楽天市場」のように1万人を超える出店者を相手にしています。かたやShopeeは札束でもって、サプライヤーサイドをダイレクトにつかみにいく戦い方で商品数を増やしています。Tokopediaに出店している売り手をお金で吸収するような戦いをしていますね。

K 東南アジアだけでもこれだけのスケールを出せるわけですが、彼ら東南アジアのユニコーンは、次のステージとしてグローバルを見据えているのでしょうか。4月にはGrabがSPAC合併で米国で上場する予定であることを公表していますが。

S 選択肢が米国しかなかったのと同時に、Seaグループが15兆円規模まで評価を上げたのは大きいですね。Seaグループは上場時点で7,000億円前後でしたから。

K 確かに。Seaが切り開いた“メジャーへの道”にGrabが続いたと思うと、野茂秀雄がメジャーリーグに飛び出して大活躍した話となぞらえると、これから東南アジアのスタートアップにもたらされるポジティブな影響は大きいですね。

S その流れには、GojekとTokopediaが合併して生まれたGoToグループが間違いなく続くでしょうね。 

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Image: FOUNDER AND CEO OF TOKOPEDIA, WILLIAM TANUWIJAYA REUTERS/WILLY KURNIAWAN

What Japanese companies can do

日本企業にできること

K 鈴木さんは東南アジアのスタートアップと事業会社との連携にも関わっていらっしゃると思うのですが、そのとき大事にしておくべきことはありますか? 事業会社として東南アジアマーケットに進出しようとスタートアップと組む際に、どこに気を付けて進めるといいのでしょうか。

S 正直なところ、ほんの5年前までは、東南アジアのスタートアップ側に日系企業と組む理由は資金以外になかったんです。それが明確に変わってきたのは、スタートアップのなかでもフィンテックやロジスティクスのマッチングプレイヤー──B2B領域のプレイヤーが大きくなってきたから。例えば、東南アジアに工場をもっている日系企業は多くありますが、物流トラックのマッチングを手がけるスタートアップであれば、そうした一定のボリュームをもつ日系企業と組む理由が生まれます。特に日系企業はトラックをはじめメインテナンスに求める要求が高いので、なにより信頼につながります。

K なるほど。

S ただ、一方の日系企業サイドは、いきなり投資を考え始めてしまうんですね。投資となるとリスクが取り沙汰されたりして結局流れてしまうことも往々にしてあります。「まずは投資から」って、ある種「まず結婚から」って発想に近いと思うんですが(笑)。

K わかります。

S いきなりプロポーズするのではなく、いま手がけている事業と並行して動かせる感覚を共有して、そこにシナジーがあるかどうかを1〜2年単位で検証してみる。そうすれば、そこから始まる投資もスムーズにいくと思います。

K なるほど。

S 「東南アジアが来る」と言われ続けてきましたが、SeaグループしかりTokopediaしかり、いまや流通総額だけみても日本の企業を大きく上回る成長をしていることがわかります。市場自体はあるわけで、これから必要になるのは、その市場へのアクセスをどうつくるかという点です。日本企業が自社プロダクトをディストリビューションするという意味で考えると、いまはまさに、日系企業としてのラストフロンティアを東南アジアに求める重要なタイミングになっていると感じています。


COLUMN: What to watch for

アフリカの金融ハブ

Buildings in Nairobi at night.
An IFC facilitates services for international activity in areas including banking, asset management, insurance and financial markets.
Image: Reuters/Thomas Mukoya

ケニアは先週「ナイロビ国際金融センター」(NIFC)を開設。すでに貿易、商取引、イノベーション、テクノロジーの拠点としてすでに知られた首都ナイロビを、世界の金融ハブにする計画が進んでいます。

国際金融センター(IFC)とは、銀行業務や資産運用、保険、金融取引などの国際的な活動を行うための場やサービスを提供する場所のこと。NIFCそのものは2014年から計画されてきましたが、2030年までに20億ドル以上の投資を集めることを目指しています。アフリカではすでにカサブランカ、ケープタウン、モーリシャス、ヨハネスブルグがIFCとして機能しており、ルワンダでは首都キガリをIFCにすることが検討されています。アフリカ以外のIFCの例としては、ニューヨーク、ロンドン、上海、香港などが挙げられます。

(編集:年吉聡太)


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