Company:海運大手マースク、世界の海を支配する

Company:海運大手マースク、世界の海を支配する
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今日から毎週水曜にお送りする「The Company」では、グローバル経済のあらたな常識をつくる企業を毎回掘り下げて紹介していきます。最初の配信ということで、このニュースレターのブラウザ版を24時間限定で公開。ぜひSNSなどでお友だちにシェアしてください。

3月にスエズ運河で起きた大型コンテナ船「エバーギブン」(Ever Given)の座礁事故によって、世界は海運の重要性を再確認することになりました。エバーギブンが6日間にわたって運河を塞いだことで、さまざまな地域の貨物輸送が一時的に混乱し、わたしたちは世界経済におけるコンテナ船の目には見えない役割を思い知らされたのです。

さらに、各国が新型コロナウイルスのパンデミックから抜け出して経済活動を再開させる中で消費者支出が大きく伸び、海運需要も急拡大しました。そしていま、わたしたちは再びこの問題を考えるようになっています。

物流の重要性を踏まえれば、A.P.モラー・マースクA. P. Møller-Mærsk)は世界で最も必要とされている企業のひとつだと言っても過言ではないでしょう。マースクは世界最大のコンテナ海運会社で、石油から玩具、靴、自動車まで、ありとあらゆる製品を取り扱っています。世界貿易の90パーセントはコンテナ輸送されており、マースクは世界のコンテナ船の5分の1を運営しているのです。

マースクは100年以上前にデンマークで誕生し、グローバリゼーションおよび20世紀の貿易拡大に伴って成長を遂げました。蒸気船の時代だった創業当初は、英国のウェールズからロシアまで石炭を運び、以後、海運業の発展のさまざまな場面で重要な役割を果たしてきたのです。第二次世界大戦後に世界貿易が急拡大したときには、大陸をつなぐ航路を開通させました。また、その後に起きた石油への依存の高まりを受けて原油の掘削事業にも挑戦し、自社のタンカーで世界各地に運んでいます。

一方で、マースク自らも認めているように、コンテナ船輸送への参入では遅れを取りました。サービスを開始したのは1975年と、米国で初めて成功を収めたコンテナ船会社が設立されてから20年後のことです。ただし遅れを取り戻すのは早く、自前のコンテナ工場まで開設しています。

21世紀が始まるまでには、海運は効率的かつ厳格なサプライチェーンのシステムの一部に組み込まれました。マースクも港から港への船舶輸送だけでなく、ドア・ツー・ドアで貨物を管理し、倉庫コールドチェーンの物流ブロックチェーン対応の輸送など、さまざまなサービスを提供するようになっています。

また、世界的な脱炭素化の流れを受けた準備も進めています。8月には燃料の一部にカーボンニュートラルなメタノールを使うコンテナ船8隻を発注したことを明らかにしました。

The Maersk Line container ship Maersk Batam sails in the Bosphorus, on its way to the Mediterranean Sea, in Istanbul, Turkey August 10, 2018.
Image: Reuters/Murad Sezer

by the digits

数字でみる

  • 124億ドル(約1兆3,620億円):2021年第1四半期の売上高。前年同期比で30%拡大
  • 397億ドル(約4兆3,600億円):2020年通期の売上高。前年と比べて10億ドル(約1,100億円)近くの増収を達成
  • 740隻:保有する船舶の総数
  • 100万個:月当たりのコンテナ取り扱い数
  • 6分:マースクの船は平均6分の間隔で世界のどこかの港湾に到着している
  • 3億ドル(約330億円):2017年に起きたランサムウェア攻撃の身代金要求額
  • 1,868ドル(約20万5,000円):2019年8月時点の40フィートコンテナの平均輸送料金
  • 3,038ドル(約33万4,000円):2021年8月時点の40フィートコンテナの平均輸送料金

MÆRSK’S STOCK POST-PANDEMIC

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2020年3月にCOVID-19のパンデミックで世界が一時停止したときには、マースクの株価は5,034デンマーククローネ(約8万7,700円)にまで落ち込みました。ただ、その後の景気回復に伴う消費拡大を受けて株価は3倍以上に伸び、今年7月7日には過去最高値となる1万8,425デンマーククローネ(約32万1,500円)を付けています。


ORIGIN STORY

歴史を振り返る

1850年:デンマークのレム(Rømø)島出身のピーター・マースク・モラー(Peter Mærsk Møller)が、キャビン・ボーイとして初めての航海に出発

1886年:モラー、蒸気船「ローラ」(Laura)を購入。息子たちに稼業について教えるように

1904年:モラーと四男のアーノルド(Arnold)が、マースクの前身となるスチームシップ・カンパニー・スベンボル(Steamship Company Svendborg)を立ち上げ

1918年:アーノルドがフュン(Funen)島に造船所を開設

1928年:米国とアジアを結ぶ定期貨物輸送サービスを開始。当初は月1便だったが、2週間に1便になる。太平洋の横断には15日を要した

1940年:ナチス・ドイツがデンマークに侵攻。マースクは所有する船舶をすべて中立国の港に移し、コペンハーゲンの本社からの命令には従わないよう指示

1955年:保有する船舶を水色に塗装するようになる。水色の背景に白い七芒星をあしらった社章に由来

1968年:貨物船約44隻を投入してアジア〜欧州間のサービスを開始。当時は運用が始まったばかりの20フィートコンテナが貿易のあり方を根本から変えつつあった。コンテナ船は非常に効率が高く、1隻で従来の貨物船5隻の役割を果たすことができた

1975年:コンテナ輸送に参入。初のコンテナ船「エイドリアン・マースク」(Adrian Mærsk)がコンテナ385個を積んで米ニューアークを出港

1991年:コンテナ船の開発と建造を行うドックを開設

1993年:買収を経て世界最大のコンテナ海運会社に。冷戦の終結により世界貿易は活況を迎えつつあり、マースクが拠点を置く国の数は1990年の40カ国から2000年には100カ国以上に増加

2009年:海運事業に専念するために造船事業から撤退

2018年:石油事業を仏石油・ガス大手トタルに売却


MÆRSK IN THE ARCTIC

新たな航路の開拓

2018年8月末、耐氷仕様のコンテナ船「ベンタ・マースク」(Venta Mærsk)がロシア極東のウラジオストク港を出航しました。砕氷船を伴った同船は通常のスエズ運河経由の航路ではなく、ベーリング海峡を抜けて北極海を航行し、サンクトペテルブルクに向かったのです。ベンタ・マースクの航海の様子はタイムラプス動画で見ることができます。

北極海の氷の溶解が進み航行可能な時期が伸びるなかで、北極海航路の利用は拡大していくことが見込まれています。マースクは、中国の工場でつくられた製品を北極海経由で欧州の市場まで運ぶという新たな輸送ルートの確立を目指しているのです。

Image: Giphy

POP QIUZ

クイズの時間です

全長が400メートル近くもある「マースク・トリプルE」は、世界最大級のコンテナ船です。このコンテナ船が1隻で運べるものは、次の3つのうちどれでしょう?(正解は本メールの最後で!)

①🚗 自動車3万6,000台

②🗽 自由の女神

③🗿 イースター島のモアイ像44体


Keep learning

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クイズの答え:正解は「①自動車3万6,000台」でした!

(翻訳:岡千尋)


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