Deep Dive: Future of Work
「働く」の未来図
Quartz読者のみなさん、こんにちは。毎週木曜午後のニュースレターでは、「働くこと」のこれからについてのアイデアや出来事をお届けしています。今日のニュースレターでは、同僚への「悪口」を理由にクビになったNetflix(ネットフリックス)幹部たちのおはなしを。
同僚のことを嫌いなわけじゃない、むしろ一緒に働いていて心地いい……だとしても、たまに不満をもつのは自然なことです。ストレスが溜まるとキレやすいチームメイトもいたり、リーダーが新しい戦略を打ち出してあなたの仕事量が倍増していたりすることもあるでしょう。
いずれにしても、上司や同僚の悪口を言いたくなることなんて、よくあることです。そんなとき、あなたはきっと、自分の不満を最もよく理解してくれる人──同じ職場で働く仲間に相談するはずです。
しかし、Slackやメールなどといったデジタルコミュニケーションの時代には、自分の言葉が自分自身にブーメランのように跳ね返ってくる危険性が常にあります。先月、Netflixのマーケティング部門の上級幹部3人が、Slackでもらした不満を同社のリーダーに知られて解雇されたのは、どうやらそういうことだったようです。
Why did Netflix fire?
Netflixの解雇劇
『The Hollywood Reporter』によると、Netflixの幹部3人はプライベートなメッセージをやり取りしているつもりだったようです。同誌は次のように説明しています。
情報筋によると、彼らの直属の上司であり、彼らも批判していたオリジナル作品のマーケティング担当VPのJonathan Helfgotは、3人の発言を理由に解雇することに非常に消極的だった。従業員は当たり前のように(日々の鬱憤を)発散するものであり、解雇処分のような悲惨な処分は必要ないと主張していた。しかし、関係者によると、彼は会社の上層部からの圧力に屈したという。
記事では、解雇された幹部たちのメッセージには最高マーケティング責任者のBozoma St. Johnが含まれていたとされています。しかしながら、NetflixはSt.JohnならびにHelfgotを批判するものであったことを否定しています。事情に詳しい関係者は、これらSlackメッセージの批判は経営層に対するものではなく、同僚に関するものだったとしています。
今回の“追放劇”にユニークな側面があるとすれば、そこにNetflixならではの文化があることです。関係者が『TheHollywood Reporter』に語ったところによると、同社内で問題とされたのは、幹部たちが不満を漏らしたことそのものではなく、不満を抱いた相手に直談判しなかったことが問題だったというのです。Netflixの共同CEOであるリード・ヘイスティングスは、徹底された透明性を謳う企業文化を育んできたことで有名で、従業員には「誰かを批判するなら、直接言えることだけを語れ」という姿勢を徹底しているとされています。ある関係者は「(Netflixで)ガス抜きをするなら、それはとにかく公然と行われなければならない」と語っています。
Is radical transparency realistic?
透明性は現実的?
Netflixが透明性を重視する理由は、社員全員が最高のパフォーマンスを発揮できるようにするためだとされています。ヘイスティングの回顧録『No Rules Rules』では、次のように説明されています。「Netflixにおいて、同僚と意見が合わないときや役に立つフィードバックがあるときに発言しないのは、会社に不誠実であることと同義。事業の助けとなれるのに、そうしないことを選んでいるのだから」
また、ヘイスティングスは、社員が誰かについて不満を漏らそうものなら「その人と直接話したとき、何と伝えたのか」と尋ねるようにしているとされています。このアプローチはオフィスでの隠し事を減らす効果があるというのが、彼の考えです。
もっとも、それは「人」に期待しすぎかもしれません。ヒエラルキーがあるなかで自分より立場が上の人間を批判しようにも、そこに力関係があれば発言を控える社員が出てくるのがあたりまえです。
ヘイスティングスも、『No Rules Rules』の中でこの問題を認めています。「勇気を出して率直にフィードバックをした社員は、『上司に恨まれるのではないか』『キャリアに傷がつくのではないか』と心配するだろう」と書いています。ゆえに、管理職に対しては、定期的な1対1のミーティングで積極的に部下からのフィードバックを求めることや、批判を受けた際には感謝の気持ちを込めた調子でもって率直な意見を述べるよう指示しているようです。
しかし、すべての管理職がこうした注意事項を守るという保証はありません。また、会社が最善の努力をしていても、安心して発言できずにいる従業員がなくなることはありません──それは、Netflixに限らず。
The pros and cons of office gossip
ゴシップの長所と短所
同僚に不満をぶちまけること。それは、ストレスに対処し他人との絆を深めようとするならごくあたりまえの手段です。確かにそうすることのマイナスな作用もあるし、より気分が悪くなることもあるでしょう。しかし、それは同時に、組織で働くわたしたちが自分の感情を処理するための手段なのです。これまでの我が身を振り返れば、同僚に対して必ずしも本気で信じているわけではない意見を伝えたり、わざわざ面と向かって話すほどのことではないような意見を述べたりすることもあったでしょう。それは、そうせずに胸に秘めておくと、ネガティブな想いがさらに強くなってしまうからなのです。
同時に、ここまで読んでくれた方であれば、同僚の悪口を言うことが有害であることも容易に理解できるはずです。
『New York Times』では、Kelsey McKinneyがいわゆる「ゴシップ」の果たす機能について書いていますが、文中では「個人の悪い行動、危険な行動をコミュニティに知らせるゴシップと、人を傷つけたり貶めたりすることを目的とした破壊的なゴシップは区別される」と指摘されています。人類学者で進化心理学者のRobin DunbarはMcKinneyに対して、「後者は、コミュニティを相互作用のない小さな集団に分裂させる原因になる」と説明しています。
この考え方を敷衍するなら、例えば他人のアイデアをいつも自分の手柄にしている同僚についての不満は実際には有益だといえるでしょう(なぜなら、その同僚の周りでは発言に気をつけるように身を守れるから)。一方、同僚が浮気をしているのではないかと言い合うのには、生産性はありません。それは単なる執念です。
後者のようなゴシップを放置しておくと、チームや職場全体に派閥や対立が蔓延することになるのです。
When venting crosses a line
一線を越える前に
前段のNetflixの“追放劇”に話を戻すと、幹部3人の不満の内容は明らかになってはいません。事情をよく知る関係者によると、そのやり取りに人種差別や性差別、同性愛嫌悪などといった差別的な要素は一切なかったとのことですが、今回の解雇が正当なものであるかどうかは内容やその背景を詳しく知らない限り、外部から意見することはできません。
とはいえ、一般論として、企業内に同僚に対する不満があるのはあたりまえだということは理解しておくべきでしょう。NBCの名作シットコム「The Office」に登場する悩める人事担当者は、同僚同士の不満の大半をただ吐き出させることで処理し、その書類を箱に入れて保管し、決して対処することはなかったのを思い出します。しかし、同僚がお互いに残酷な態度をとったり、噂を流したりするに至った場合は、それを止めなければなりません。
もしあなたが、同僚同士の“ガス抜きセッション”に不本意ながら居合わせてしまったら。そのときは、組織心理学の専門家であるLiane Daveyのことばを参考に、会話をより建設的な方向に導くようにしましょう。Daveyは『Harvard Business Review』に、次のようにと書いています。
「状況とその根底にある感情について話すのは構わない。ただ、自分を守るためにも、そこにいない人については話さないようにしよう」。
COLUMN: What to watch for
詩を読もう
アイルランドの神学者で詩人、ポッドキャスト「Poetry Unbound」のホストでもあるPádraig Ó Tuamaは、詩を楽しむためのスキルは仕事にも役立つと語っています。曰く、「見慣れない単語の組み合わせを理解するには、ことば一つひとつの曖昧さを解消するとともに、詩人の飛躍する発想に歩調を合わせられるような態度が必要」で、「人事、ガバナンス、資金調達、コミュニケーションなどで使われている言葉について想像力を働かせることにつながる」というのです。
短い時間で意図を伝えるとき(たとえば「エレベーターピッチ」などがいい例です)、いかに相手の想像力をかきたてる説得力のある言葉を使えるか。あるいはいま目の前にある仕事を分析するとき(たとえば議事録を取るのもそのひとつです)、いかに簡潔に表現できるか。各シチュエーションに照らして考えると、詩を読み紡ぐ能力は、確かにビジネスに格好のスキルだといえるのかもしれません。
(翻訳・編集:年吉聡太)
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