Deep Dive: Next Startups
次のスタートアップ
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Quartz読者のみなさん、こんにちは。月曜夕方にお届けしているこの連載では、毎回ひとつの「次なるスタートアップ」を紹介しています。今週は、クリプト×クリエイターエコノミーの新星「Mirror」を取り上げます。
Mirror
・創業:2020年
・創業者:Denis Nazarov
・調達総額:非公開
・事業内容:分散型ライティングプラットフォーム
WHO IS MIRROR
Mirrorとは
インターネット上のアート作品の価値を保証する非代替性トークン「NFT」(Non-Fungible Token)が高額で取引され、大きな盛り上がりをみせたことは記憶に新しいですが、その波は新しい領域に及んでいます。米国で産声を上げた新しいブログプラットフォームが密かに話題になっています。
その名はMirror(ミラー)。簡単に言うと「作品をNFT化して、クラウドファウンディングできるメディア」です。個人の記事や投稿をNFTとして取引可能にし、読者はトークンを購入するかたちでクリエイターの支援を行えます。
書き手はクラウドファンディングを募ることで、作品をつくるまえに資金を集めることができます。支援者は単に記事を購入して読むだけではなく、NFT化された作品の所有権が取引されて利益を生めば、トークンの保有割合に応じて利益の還元を受けることができます。
昨年11月にベータ版をローンチ以降、静かに話題を集めています。小説家のエミリー・シーガル(Emily Segal)は『Burn Alpha』という作品を書くために6万3,000ドル(約700万円)相当の資金集めを成功させ、支援者には「$NOVEL」というトークンが配られました。
Mirrorを立ち上げたのはデニス・ナザロフ(Denis Nazarov)。元Andreessen Horowitz(a16z)のパートナーで、ブロックチェーンによる著作権管理ソフトのMediachainを創業しSpotifyに売却した経歴をもつ連続起業家です。支援するVCはUnion Square Ventures(USV)やa16zのほか、リー・ジン(Li Jin)の立ち上げたAtelier Venturesなどクリプト×クリエイターエコノミー関連の有力者が揃っています。USVの著名投資家フレッド・ウィルソン(Fred Wilson)の人気ブログもMirror上でも書かれています。
MAKING CHANGE HAPPEN
Mirrorが起こす革命
Mirrorが革命的と思う理由はいくつかあります。
まず、コンテンツ流通の仲介者の排除です。「Medium」は月額5ドル(約550円)のサブスクで読み放題ですが、それぞれの書き手への収益分配の仕組みはブラックボックスです。日本で人気の「note」はプラットフォーム手数料(10%)と決済手数料(5〜15%)がかかります。Mirrorなら直接的に支援者のトークン購入代金が書き手に渡るため、お金の流れが透明で手数料がかかりません。
次に、作品価値のマネタイズです。デジタルコンテンツは転送や複製が容易なため、良質な作品も無料で拡散され、消費されてしまう構造でした。Mirrorは作品の所有権をNFT化して取引可能にし、二次流通における価値上昇メリットも書き手に還元できます。MirrorにはNFTをオークションにかける機能があり、買いたい人は入札に参加して、お気に入りの書き手の作品の所有権を手に入れることができます。
そして、コミュニティへの還元です。クラウドファンディングに参加してトークンを購入する支援者は、やがてNFTが売買され生まれた利益を書き手と共に享受できます。またトークン保有者限定のサービスなど、メンバーシップとしての効果ももちます。トークン購入はクリエイターの支援であり、会員権の購入であり、金融リターンを狙う投資でもあるという、いくつものユーティリティが混じりあった性質をもちます。
最後に、書き手の民主化と分散化です。Mirrorで記事を投稿するには、週に1度行われる投票($WRITE RACE)で上位10名に選ばれる必要があります。選ばれると独自ドメインが与えられ、本人の自由な内容で投稿できるようになります。誰もがアカウントをつくって記事を投稿できる反面、削除や編集権限、二次使用料金等で運営体が主導権を握るプラットフォームとは一線を画します。
DAO AND Web 3.0
DAO、そしてWeb 3.0
さらにMirrorが興味深いのは、DAO(自律分散型組織)によるコミュニティ組成が活発に行われている点です。
DAOとは管理主体がいない、スマートコントラクトで規定されたルールに則り分散的自律的に運営される組織のことです。特定の管理者や意思決定主体がおらず、あらゆる取引は決められた契約に従って自動的に処理されます。
ひとりでは高すぎて買えない作品のNFTを、DAOを組成するプラットフォームである「PartyBid」などを用いて共同で入札します。PartyBidの参加者はNFTの部分的な所有権をトークンの形で保有し、保有者だけが入れるDiscordなどのコミュニティが形成されています。
情報交換の場から、価値交換の場へと進化するインターネット──これまでデジタル世界において無料で消費されてきたコンテンツに、「希少性」や「所有権」という概念を持ち込むのがブロックチェーンであり、NFTです。そして経済活動が可能となったデジタル世界でコミュニティが資金を集め、運営するための仕組みがDAOと言えます。MirrorはWeb3.0という次の大波の夜明けと世界観の一端とをイメージさせてくれます。
久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。Twitterアカウントは@kubotamas。
Cloumn: What to watch for
アフガン起業家たちは
9.11以来、20年もの長きにわたり戦争と混乱が続いていたアフガニスタンでは、一方でその余波のごとく若者の手による新たなテックエコシステムが現れ始めていました。市場としては未熟ながらも、グーグルの「StartupGrind」やシリコンバレーを拠点とするアクセラレーター・FounderInstituteなどの国際機関からの支援を受け、首都カブールでは女性起業家が果物と野菜の加工会社を、それに続くようにまた違う女性が有機食品のBushraTranumを立ち上げるなど、ITや幼児向け領域でもスタートアップが産声をあげていました。規模感は小さいながらも起業家は少しずつ歩みを進め、定着させ始めていたのです。
しかしそれも、今回のタリバーンによるアフガン制圧により、後退してしまうのでしょうか。この地での事業について懸念するアフガニスタンのある起業家は、長期的な解決策として、例えばアフガニスタンのスタートアップにアウトソーシングすることによって生まれる価値を話します。しかし、女性の人権を軽んじるタリバーン支配下にあった、有望なスタートアップシーンが黄金時代を迎えるとは言いづらい状況です。
(翻訳・編集:鳥山愛恵)
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