Deep Dive: Impact Economy
気候テックの衝撃
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「サステイナブルなプロダクト」につけられるエコラベルの種類はあまりに多く、その意味がもはや失われているのかも。地球環境のためにデザイナーができることとは、少なくともそんなラベルをつくることだけではないはずです。
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「サステナブルデザイン」ということばがありますが、それは本当の意味で「サステナブル」な「デザイン」なのでしょうか。
サステナブルデザインは、「地球にやさしいファッション」「地球にやさしい家具」「地球にやさしい建築」といった文脈でよく引き合いに出されますが、実際のところそれが何なのか共通した理解はありません。ただし、その重要性は確かにあります。英国デザインカウンシルも、製品のエコロジカル・インパクト(事前環境への影響)の80%以上がデザイン段階で決定されるとしています。
そのわかりにくさは、「サステイナビリティ」と「デザイン」のどちらもわかりにくい概念なのが原因になっているかもしれません。
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一般的に「サステイナビリティ」とは、「将来の世代が自らのニーズを満たす能力を損なうことなく、現在のニーズを満たすことである」(1987年に国連が発表した定義)と理解されています。もっとも、これでは具体性に欠けます。
一方の「デザイン」も、いろんな使い方がされています。名詞でもあり動詞でもあり、いわゆる「アート」や「スタイル」と混同されることも。それを生業にしているデザイナーをもってしても、いまだに議論の尽きないことばです。建築を指すこともあればファッションやインテリアを指すこともあり、あるいはエクスペリエンスデザインやインタラクティブデザイン、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン、ウェブデザインなど専門分野も多岐にわたり、それぞれ独自の言い回しや慣習があります。
行政上の定義はどうでしょう。米国の場合、米国総合サービス局(GSA)はサステナブルデザインを「環境や建物居住者の健康と快適性への悪影響を軽減し、建物の性能を向上させる」介入方法、と定義しています。米国環境保護庁(EPA)は、「グリーンアーキテクチャ」ということばでそれを表現しています。
いずれにせよ、このことばはさまざまな分野で使われ、それぞれの分野においても統一された定義がないのが、実情なのです。
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そもそもの誤解は「『サステイナブル』と『デザイン』という2つのことばそれぞれに対する理解が不足しているため」だと言うのは、ミネアポリス芸術大学のサステイナブルデザイン・プログラムのディレクター、デニス・デルーカです。
彼女は、「サステナブルデザイン」が「サステナブルでないものを多少マシにしたものをつくる行為」を指すことばになっていないかと指摘します。仮に自動車メーカーが「環境に優しいクルマ」を謳って効率的な内燃機関を搭載したクルマをつくったとしても、その自然環境への影響は消えず残っています。「“クリーンな石炭”なんてものはありませんよね。もちろん“よりクリーンな燃焼方法”はあるでしょうが、サステナビリティを求めるのであれば、“化石燃料を燃やす”わけにはいかないのです」と、彼女は言います。
世界中で使用されているグリーン建築の認定プログラム「LEED」(Leadership in Energy and Environmental Design)にも同じことがいえます。LEED最高認証を受けたビルでも、地球を汚染していないわけではありません。「LEEDは、メーカー、建築家、建設会社を巻き込んで、大きな飛躍を遂げました。でも、それは“持続可能”だとはいえません」
The problem with eco labels
エコラベルの問題点
さらに混乱を招いているのが、シールや証明書、グリーンステッカーといった「エコラベル」の種類の多さです。本来それは、消費者が環境に配慮してつくられた商品・サービスを迅速に認識できるようにするために考案されたはずのもの。ところが、商品パッケージひとつとってもそこにはエコを謳うエンブレムがあまりに多く貼られており、混乱を招いています。「サステイナブルデザイン」に世界共通の定義がないのと同様に、世界共通のシンボルもないのです。
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歴史上初めてのエコラベルとされるのは、ドイツの「ブルーエンジェル」シール(Der Blaue Engel)でしょう。1978年に発表されたこのシールは、消費者が店頭で「環境に配慮した製品を選ぶ」ための指針となるものでした。ドイツに続けとばかりに、多くの国でサステナビリティに関する独自基準を満たした商品を示すシールが発行されました。さらに、ほかのさまざまな認証機関、業界団体も独自デザインを考案しています。
いまとなってはどのマークを信用すればいいのか見極めるのも困難なのにもかかわらず、毎年秋になると「世界エコラベルデー」なる記念日がやってきて、「信頼できるマーク」や「信頼できるマーケティング」の重要性が強調されます。エコラベルには、国際標準化機構によって規定されているものもあれば、企業がブランディングやコミュニケーションプログラムの一環として作成しているものもあるにもかかわらず。
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Beyond sustainable design
デザイナーの役割
建築家のマイケル・ポーリンは、次のように記しています。彼は、英国の巨大な複合型環境施設で「植物のノアの箱舟」とも称される「エデンプロジェクト」(2001年に一般公開)にも関わっていた人物です。
サステイナブルデザインに30年以上携わってきたわたしたちにとって、「サステイナビリティ」が(環境を“維持”することすらできず)さまざまな環境危機の悪化を防げなかったと受け入れるのは辛いことだ。「サステイナブル」とは、暗黙のうちに「100%悪いことをしない」という意味に留まってしまっていた。わたしたちは一刻も早くにポジティブな方向にシフトし、地球のエコシステムに与えたダメージを修復しなくてはならない。
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冒頭に紹介したデニス・デルーカは、International Society of Sustainability Professionals(国際サステナビリティ専門家協会)の役員も務めています。彼女は、気候変動という緊急事態に対して既成概念にとらわれない解決策を見出すために、デザイナーがユニークな役割を担っていると言います。
「デザイナーには、問題を解決に導くために『その先にある姿』を想像しそれを具体化する能力があります。可能性に姿を与えることで、冴えない解決策に甘んじるわたしたちを律してくれるのです」
(翻訳・編集:年吉聡太)
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