Deep Dive: Crossing the borders
グローバル経済の地政学
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中国当局が国内/世界の経済をどう評価しているのかを知るには、その「ことば遣い」を知るのが助けになります。先日の全国人民代表大会(全人代)での発言や、テンセント、アリババなどに言及した当局並びに国営メディアの「用語」をいくつか紹介します。
Common prosperity
① 共同富裕
いつから?:文言そのものは数年前からありますが、習近平体制の2期目が始まった2017年の共産党全国大会で習近平自ら言及し、注目を集めました。2019年、中国社会科学院シンクタンク副院長(当時)の蔡昉は、この概念は「ケーキを大きくしてよく分け合う」「社会的流動性を拡大する」「『中国的特色のある福祉国家』を構築する」という3つの要素からなるとまとめています。いま中国では国内の格差に対する国民の不満が高まっていますが、先週の全国人民代表大会(全人代)で習近平は、中国は「過剰な所得」の調整を含め、このスローガンを達成しなければならないと改めて強調しています。
どう理解する?:このスローガンは、中国の裕福なエリート層に向けて「財産を再分配する時が来た」と告げ知らせるメッセージだといえるでしょう。全人代では、高所得者層や企業家に対して「社会にもっと還元する」ことが求められることになりましたが、それが示すのは増税の可能性や、富裕層・企業からの慈善寄付への期待です。全人代以前から、テック企業を率いる富裕層の一部は動いています。例えばテンセントは今年4月にも、直近の四半期純利益を上回る500億元(77億ドル)を社会貢献活動に充てることを約束し、習近平の演説の後、同額を「共同富裕基金」に拠出することを決めています。
Close and clean party-business relations
② 亲清新型政商关系
いつから?:官僚と企業の理想的な関係を定義するこのビジョンを習近平が初めて提唱したのは、2016年のことでした。以来、このことばは、地方政府が企業との会合をまとめた際にたびたび使われています。直近の例としては23日(月)、アリババが本拠地をおく杭州市の中央規律検査委員会(汚職などの監督機関)は、党幹部やその親族が関与するビジネス上の利益相反を規制し始めたと発表しました。
どう理解する?:このスローガンが意味するのは、まず党員が企業家と近い距離で彼らのニーズを理解し問題解決に協力すること(「亲」=「親切」)と、同時に、企業に近づくことで金銭的またはその他の便益を得ないように、「クリーン」でなければならないということ(「清」=「清廉」)。これこそが、党と民間企業が共存するための必須条件のひとつであり、企業家に愛国心を求めるうえでの必須条件であるとされています。
Disorderly expansion of capital
③ 资本无序扩张
いつから?:2020年12月11日に開かれた習近平主催の会議で、共産党政治局は2021年の経済運営についての方針を議論しています。その後示された方針で、「資本の秩序なき拡大」を防止しなければならないとしています。
どう理解する?:このことばから、中国の大企業が絶大な力をもっていることがわかります。同時に、経済的・社会的な目標の達成のためには、事業拡大のためのIPO(新規株式公開)を阻止したり外国人投資家を追い払ったりしてでも、これら企業の力を抑制しようとする党の決意も。巨大な中国テック企業の存在は、世界における中国の経済的なリーダーシップを証明しているといえますが、政府は、大企業の独占的な力が小規模企業のイノベーションを阻害することを懸念しています。12月の会議でこのことばが言及されて以来、中国ではテック/教育分野の改革が加速し、その結果、この資本を動かしてきた億万長者たちの地位は揺らいでいます。
Savage growth
④ 野蛮生长
いつから?:2015年、中国サイバースペース管理局(CAC)のサイトに、モバイルインターネットの「野蛮な成長」がサイバーセキュリティの抜け道をつくっているとする国営新聞の記事が再掲されました。さらに翌年には、多くの報道機関がこのことばを使い、P2Pレンディングや電子タバコ産業などよる金融混乱を表現しています。特定の業界や企業の成長を「野蛮」とする表現は、北京がその業界や企業に対して警戒心を強め、今後規制を行うことを意味していると考えられます。
どう理解する?:このことばが示すのは、テック企業に対する党の「明確な警告」といえます。つまり、中国政府の比較的軽い規制を背景に企業が繁栄していた自由な時代は──過去20年の中国のインターネット経済は、米テックスタートアップの「素早く行動し破壊せよ」(Move Fast and Break Things)の精神とよく似ていました──終わったということです。中国の著名なインターネットガバナンス専門家の方興東は、先月の寄稿記事で、先月のライドハイリング大手・滴滴出行(Didi Chuxing)などに対するCACの調査は、テック企業の野蛮な成長時代が公式に終わりを告げたとも指摘しています。
Spiritual opium
⑤ 精神鸦片
いつから?:かつてドイツの哲学者カール・マルクスは、宗教を「民衆のアヘン」と喩えていますが、「精神鸦片」(精神のアヘン)はそれに由来します。中国は19世紀のアヘン戦争の教訓をいまも忘れることはなく、「アヘン」ということばにとりわけ強烈な意味をみています。中国の国営メディアはこのことばをスマートフォンや短尺動画アプリなどに使ってきましたが、今月にはゲーム業界をこう表現。テンセントをはじめとするゲーム関連企業の株が大量に売られたことで、このことばは新たな意味をもつようになりました。
どう理解する?:ゲーム業界に対するこの比喩が意味するのは、北京がゲーム業界を閉鎖しようとしていることではありません。企業に対し、誰がボスであるかを知らしめるための警告だというべきでしょう。ビデオゲームに関するパニックのきっかけとなった記事を掲載した『Economic Information Daily』は、混乱ののち、ウェブサイトからこの記事をひっそりと削除し、その後、「アヘン」にたとえた部分を削除して記事を再掲出しています。『Financial Times』は、元記事のトーンが規制当局の姿勢よりも「より過激」だった可能性があると指摘しています。
COLUMN: What to watch for
KYなキッドマン
香港の地元紙『Standard』によると、ニコール・キッドマンの「特別待遇」に対し、香港市民が怒りを募らせているようです。Amazon Prime向けの新作ドラマ「Expats」(国外在住者たち)の制作総指揮を務めるキッドマンは、オーストラリアからプライベートジェットで香港に到着後、ほんの3日足らずで現地で買い物を楽しむ様子が目撃されています。
新型コロナウイルスの“水際”対策としての検疫措置は各国さまざまですが、なかでも香港はとくに厳しい対策を取っており、香港の国際ビジネスハブとしての地位を脅かすとの指摘もあるほど。今夏には銀行員を隔離対象外としたことで香港当局は批判を浴び、数週間でこの方針を撤回するという事態を招いています。
ちなみに新作ドラマ「Expats」の原作『The Expatriates』は、香港に駐在する米国人女性3人の華やかな生活を描いた小説。言論や政治活動が厳しく制限されている香港を舞台にした外国人の“エキサイティングな生活”を描いたドラマシリーズを制作するアマゾンに対して、少なくない批判も持ち上がっています。
(編集:年吉聡太)
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