Deep Dive: Next Startups
次のスタートアップ
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Quartz読者のみなさん、こんにちは。月曜夕方にお届けしているこの連載では、毎回ひとつ「次なるスタートアップ」を紹介しています。今週は、宇宙に工場をつくる「Varda 」を取り上げます。
Varda
・創業:2020年
・創業者:Will Bruey 、Delian Asparouhov
・調達総額:5,100万ドル(約56億1,000万円)
・事業内容:宇宙での受託製造プラットフォーム
UNREALISTIC SPACE TRAVEL
「雲の上」の宇宙旅行
今夏、ヴァージン・グループを率いるリチャード・ブランソン、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス自らが宇宙空間へと到達し、「宇宙旅行が手の届くところに来た」と世界をにぎわせました。
ついに始まった宇宙旅行。旅行業界では期待がもたれているようですが、いまのところどれだけの市場があるかは未知数です。
ヴァージン・ギャランティックの宇宙船は乗員2名、乗客6名の8人乗り。飛行機のように垂直上昇して高度80kmに達すると落下を開始し、乗客は4分間程度無重力状態を体験します。これで1人45万ドル(約5,000万円)で、出発から着陸までは約90分です。
ベゾスのブルーオリジンは一人20万ドル(約2,200万円)ですが、値上げする可能性が高い状況です。こちらは6人のクルーカプセルに乗って数分程度の無重力状態を体験しますが、打ち上げから帰還までの「宇宙旅行」はほんの15分です。
イーロン・マスクのSpaceXが計画する宇宙旅行は宇宙ステーションへの滞在を含む8日間の行程ですが、費用は2,000万ドル(約22億円)と高額です。さらに、「もしかしたら帰ってこれないかもしれない」恐怖を克服して本当に宇宙旅行に行きたい人がどの程度いるのかは未知数です。
宇宙旅行は夢がありますが、ビジネスとして成り立つかと言えばまだ初期段階です。ましてや宇宙に行けたところで、わたしたちのような一般人のデイリーライフは何ら変わることはありません。旅行という手段では、まだまだ宇宙を身近に感じられる段階には至ってないのが実際のところです。
REALISTIC “SPACE FACTORY”
現実的な「宇宙工場」
一方で、より現実感のあるアプローチで宇宙開発を進めている企業が存在します。昨年創業したばかりのVardaが開発に着手したのは、宇宙空間での「工場」の建設です。
わざわざ「宇宙でモノづくり」とは突拍子もない話に聞こえますが、実際はとても現実的なプランをもっています。
まず、無重力で何をつくるのか? 特殊な医薬品、バイオプリント臓器、光ファイバーケーブル、高性能半導体、一部のカーボンナノチューブなど、無重力状態でしか製造できない高機能品が多数存在します。これらはすでに国際宇宙ステーション(ISS)で実験が進められており、製造の実現可能性と市場ニーズは証明されています。
次に、コストが見合うのか? Vardaの宇宙工場で製造されるのは、「超高付加価値品」ばかりです。宇宙船が一度の飛行で地球上に持ち帰れるのは約100キロですが、つくられるのは医薬品など小さく超高単価な製品だけ。高額な料金を課したところで数人しか載せられない宇宙旅行と比べて、輸送効率という面で大きなアドバンテージが生まれます。
また、それは実現可能なプランなのか? Vardaが手がけるのは「工場」のインフラ提供だけ。実際の製品をつくるのはバイオ・製薬の大企業であり、Vardaは開発や製造リスクを負いません。宇宙船も外部から購入し、Verdaが建造するわけではありません。プラットフォームに徹することで、スタートアップらしく取るべきリスクをうまくコントロールしています。
最後に、市場があるのか? Vardaは一見すると「宇宙スタートアップ」ですが、そのターゲット市場は、地球上で顕在化したニーズであり顧客です。宇宙というマーケットは、急成長中とはいえ足の長い、まだ限られた市場です。限られた一部の金持ちが体験する宇宙旅行と違い、Vardaの宇宙工場でつくられた医薬品や人工臓器やカーボンナノチューブは、地球上のわたしたちの日常の課題解決に直結します。
Vardaは、早ければ2023年に最初の製造施設を宇宙空間に建設予定です。宇宙船については、今月、3Dプリントで低コストの宇宙船を製造するロケット・ラボ(Rocket Lab)から3機の納入契約が発表されました。設立からたった8ヶ月のスタートアップとは信じられないスピードです。Vardaのアプローチは、宇宙を開拓していくことが地球をサステイナブルで住みやすくしていくことと同義であると、改めて気づかせてくれます。
HUMAN MOBILITY
あいまいになる境界
今年7月、Vardaは、シリーズAラウンドでKhosla VenturesやFounders Fundなどから4,200万ドル(約46億円)を調達しました。現在の社員は16名ですが、最初の打ち上げまでには40名に増やす予定です。
シリコンバレーでは「EIR」(アントレプレナー・イン・レジデンス)といって、VCにいながら次の起業ネタを模索する仕組みがあります。VCに籍を置くことで、誰かが一緒に起業する仲間を探していたり次に起業する分野を迷っていたりとさまざまな情報に触れ、最新のテックトレンドも俯瞰できます。VCにとっても、優秀な人材をEIRとして囲い込むことで、彼らの知識やネットワークを役立てられるうえに、起業するとなれば真っ先に投資の権利を確保できるメリットがあります。
VCのスタートアップ支援がより広く深くになるにつれ、「投資家」と「事業化」という境界線はますます曖昧なものになってきています。それにつれて、起業家がVCになるともに、VCから起業家への転身も、さらに増えると思われます。「VCとスタートアップと大学を行ったり来たり」は、いつか当たり前のこととなるかもしれません。
久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。慶應義塾大学卒業後、伊藤忠商事、リーマン・ブラザーズ、バークレイズ証券を経て、WiL設立とともにパートナーとして参画。 慶應義塾大学経済学部卒。公認会計士試験2次試験合格(会計士補)。Twitterアカウントは@kubotamas。
🗓 Save the date!
米国のテック最前線を伝える「Off Topic」とのコラボレーションで実施しているウェビナーシリーズ。今月の第2回の内容も、クリエイターエコノミーやリニアコマースなど気になるキーワードが並びます。先日開催した第1回の様子は、こちらの記事でセッション全編を振り返れます。
- 日時:9月28日(火)20:00〜21:00(60分)
- 料金:無料
- 開催:Zoom
- 申込:こちらのリンクから
- 登壇者:宮武徹郎さん(Off Topic)、久保田雅也さん(WiL)
Column: What to watch for
ユニコーン爆誕の裏
今年に入ってから暗号通貨とデジタル資産の領域ですでに18社が評価額10億ドルを超え、ユニコーンの「群れ」が誕生しています。この分野の成熟を後押ししたのは、クリプトを取り巻くエコシステムの構築でしょう。ビットコインなど暗号資産を売買しようと考えたら、コインベース(Coinbase)やクラーケン(Kraken)のような取引所が最初に頭に浮かぶかもしれませんが、現在の業界では、デジタル資産を管理、報告、保護するための複数のレイヤーが構築されています。
なかでも、デジタル資産取引に関わる税申告プラットフォームを手掛けるタックスビット(TaxBit)のシリーズBラウンド(評価額13億3,000万ドルで1億3,000万ドルを調達)は、この業界のトレンドを映し出す象徴的な例です。暗号通貨は、現在VCマネーで溢れている多くのセクターと同様に、最終的には減速する恐れがありますが、この分野への投資と関心は、暗号通貨を取り巻く金融ツールにあることが示されています。
(翻訳・編集:鳥山愛恵)
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