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「メタバース」での1日は、現実世界での1日とほとんど変わりありません。それは、デジタルな自分が服を着て、仕事に行き、お気に入りの店で買い物をし、友達に会い、ゲームをし、コンサートに行くだけのこと。すべての人がアバターをもち、すべての実店舗がバーチャルな対応をするだけのことです。
わたしたちがいま体験しているインターネットが2次元だとしたら、メタバースという名の新しいデジタルワールドは3次元だと考えればいいでしょう。それはFortniteのようであり、あるいは(懐かしき)Second Lifeのようであり、あるいはこれから登場するプラットフォームのような何か、です。
誰に訊ねても、返ってくる答えは「メタバースなんて意味のないバズワードだ」というものか、あるいは「次に来る巨大なデジタルプラットフォームだ」という内容のどちらかです。そんななかでひとつだけ確かなのは、シリコンバレーの住人の多くが、メタバースの構築について話し始めているということです。
(もしメタバースが実在するなら)いまこそデジタルライフの行く末を考え直すいい機会です。同時に重要なのは、誰がそれを構築し、何を目指すのかということです。
What is the metaverse, anyway?
そもそもメタバースとは?
メタバースをどう定義すればいいかとTwitterで呼びかけたところ、次のような回答が寄せられました。
- 「仮想世界のネットワーク」(InvisionのBenjamin Bertram Goldman)。
- 「インターネット。ただしスキューモーフィックな」(『The Verge』のAdi Robertson)
- 「『インターネット』の全くナンセンスなリブランディング」(『The Wall Street Journal』のChristopher Mims)
- 「『Bed, Bath & Beyond』の“Beyond”(『Sparrow Advisers』のAna Milicevic)
- 「要するに『Neopets』」(『Quartz』のMichelle Cheng)
ある種の“ちゃんとした”定義として、例えばベンチャーキャピタリストのMatthew Ballはメタバースを「モバイルインターネットの次にくるもの」であり、「人間の余暇、労働、存在全体のためのプラットフォーム」と表現しています。メタバースは常時接続された状態のもの。メタバースはフィジカル/デジタルにまたがるもの。メタバースは独自の経済圏をもち、例えばPelotonとXboxとSlackなどのデジタル環境が相互に作用するようなもの。そう考えればいいでしょう。
Stranger than science fiction
SFよりも奇なり
「メタバース」ということばそのものは、SFに由来します。作家のニール・スティーヴンソンが1992年に発表した小説『スノウ・クラッシュ』の中で、主人公がナビゲートする「永続的な仮想現実の世界」を意味することばとして用いました。こうした「ミラーワールド」の概念は、次のようなSFメディアにも通底しています。
- 映画『マトリックス』シリーズ
- 小説・映画「レディ・プレイヤー・ワン」(Oasis)
- Netflixシリーズ「ストレンジャー・シングス」(Upside Down“裏側の世界”)
The Pandemic
きっかけはパンデミック
いまメタバースが話題を集めているのは、なにも偶然ではありません。パンデミックによって世界中の人びとがオンラインで過ごす時間が格段に増え、これまで想像すらしなかったバーチャル体験を経験することになりました。
例えば起業家のBrian Swichkowは昨年11月、仮想世界「Topia」で結婚式を挙げたのだとか。COVID-19の危険性を鑑みて親族の結婚式への参列を見合わせ、Swichkowがやったのは、結婚式場であるカリフォルニア州トパンガにある自宅のデジタルレプリカをつくることでした。招待客はビデオチャットでお互いに交流しながら、自分のアバターで会場内を移動します。リアルな式場には新郎新婦を含む8人が参加しましたが、その様子は、Topia上のゲスト140人に対してライブ配信されました。
このオンライン結婚式は、正確にはメタバースだとはいえません。しかし、議論のポイントを象徴するようなケースです。「必要は発明の母」ということばがありますが、この1年は、オンラインでの生活を再考する1年でした。結果としていま、「より没入感のあるデジタル空間」という概念は、より現実味を感じられるものとして浮かび上がっているのです。
Charted: mentions of the metaverse
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vying for metaverse status
覇権をめぐって
最近、フェイスブックとマイクロソフトという2大テック企業が、メタバースについて公言し始めています。
7月下旬、マーク・ザッカーバーグは社員に対し、約30億人のユーザーを抱えOculusを通じてバーチャルリアリティに大規模な投資をしているフェイスブックは近い将来「メタバース企業」になると語りました。遡ること5月のカンファレンスでは、マイクロソフトのサティア・ナデラが同社クラウドサービスのAzureを「エンタープライズ・メタバース」のリーダーとして位置づけていると述べました。
メタバースについて話題になるのは、たいていの場合、FortniteやRoblox、Minecraft(マイクロソフトが所有している)のような、「メタバース的な体験」をシミュレートするゲームに関するものです。昨年には、トラヴィス・スコットのライブを観ようと2,700万人以上のプレイヤーがFortniteにログインしました。グッチは最近、Roblox上でバーチャルなハンドバッグを販売しました。また、非営利団体のReporters Without Borders(国境なき記者団)は、Minecraft上に検閲対象となった記事のライブラリを構築し、世界中の人びとがアクセスできるようにしました。他にも、チップメーカーのNVIDIAやゲームエンジンのUnity、ソーシャルアプリのSnapchatなどの企業がメタバースを構築するプレイヤーとしてよく話題に上ります。
これらの企業が同一のメタバースを構築しているのか、それぞれ別々のメタバースを構築しているのか、はたまた実際にはメタバースを構築していないのかは定かではありません。ただし、すべてが一定の秩序のもとでルール化されたメタバースを構築するには、閉じたエコシステムを適切に管理するとともに、お互いのデータ共有を拒んできた民間企業の間でのこれまでにない協力関係が必要となるのは明らかです。
メタバースについての前評判が本物で、ほんとうに「インターネットの次に来るもの」が構築されるのであれば、誰がそれを構築するのかが非常に重要になります。歴史的にみると、インターネットは主に大学をはじめ、政府が資金提供した研究によって構築されました。一方のメタバースは、主に民間企業が関心を寄せています。メタバースを構築する可能性のある主要企業のひとつとして名前が挙がるのがFortniteを運営するエピックゲームですが、CEOのティム・スウィーニーは、何が問題になっているかを次のように語っています。Fortniteが発売される前年、2016年の発言です。
メタバースは、他の何よりもはるかに広汎で強力なものになるでしょう。もしひとつの企業がこれをコントロールできるようになれば、どんな政府よりも強力になり、地球上の神となるでしょう。
🔮 Predictions
5つの予測
- フェイスブックは、勝てない。『Bloomberg』のTae Kimは、メタバースでの成功は、高度な半導体とソフトウェアツールにかかっていると考えています。Tim曰く、「フェイスブックはどちらの点でも強みがない」。
- メタバースは楽しいだけではない。RobloxのManuel Bronsteinは、現在のところ、メタバース体験はゲームやコンサート、アクティビティなどのレジャーが中心になっているものの、未来のメタバースでは学習、仕事、家事なども含まれると考えています。
- ガラクタだらけのインターネットができあがる。作家のRyan Broderickは、「ネット的なセンスや雑貨」(ちょっとした課金で得られるFortniteスキンやTwitchのカスタムエモート、あるいはClubhouseの招待…)であふれた現在のインターネットのありようは、メタバースの前兆だと記しています。
- 物理的な人格とネット上の人格が融合する。Futures Intelligence Groupのキャシー・ハックルは、メタバースでは、現実の私たちと、ソーシャルメディアでつくり上げた自分自身の人格は融合することになると指摘しています。
- コンテンツは、ゲーム開発者以外から生まれる。Andreesen HorowitzのJonathan Laiは、コンテンツのほとんどは、ゲーム開発者によるものではなく、ユーザーによるものか、AIによるものになるだろうと述べています。
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あわせて読みたい
- 2021年7月22日のマーク・ザッカーバーグへのインタビュー。曰く、「肝心なのは、メタバースは企業1社が運営するのではなく、多様なプレイヤーが分散的に運営するものであること」。Mark in the Metaverse|The Verge
- ユーザー、コンテンツ、ペイメント、ハードウェア……9つのポイントで解説する、VCのMatthew Ballの「メタバース入門」。The Metaverse Primer|MatthewBall.vc
- VCのJonathan Laiは、現在のコンテンツは「プロがつくったものをひとりで楽しむ」あるいは「UGCを小さなスケールで楽しむ」だけだが、メタバースでは「完全にAI生成によるもの」となると解説。The four stages of content that will lead us to the metaverse|a16z
- 上述の『スノウ・クラッシュ』著者のニール・スティーヴンソンは、自らのつくったことばにシリコンバレーが固執しすぎだと語っています。The Sci-Fi Guru Who Predicted Google Earth Explains Silicon Valley’s Latest Obsession|Vanity Fair
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