Obsessions:デイヴ・エガーズ語る「テック神話」

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毎週火曜の「Obsessions」では、気候変動やポスト資本主義、ワークスタイルの変革など、Quartzが日々追っているさまざまな関心事(オブセッションズ)をお届けします。

あなたの会話を盗み聞きして家庭内暴力を連想させることばを見つけたら警察に通報してくれるスマートスピーカー。その日の睡眠時間や運動量、笑った回数や会話に出てきた新しいことばの回数を記録し、リマインダーを送ってくれるアプリ──。2013年に出版され映画化もされた小説『ザ・サークル』の続編、デイヴ・エガーズの最新作『The Every』で描かれるディストピア的なテクノロジーは、いまわたしたちの周りにある現実とそうかけ離れてはいません。

『The Every』が描くのは、フェイスブック(作中では「サークル」として登場)とアマゾン(同じく「ジャングル」)が合併してできた「エブリ」が強力かつ広範に及んだ独占状態を生み出し、あらゆる人が抵抗してもムダだと諦めているような世界です。

作中、元森林警備隊員のデランシー・ウェルズは、エブリを社内から崩壊させようとします。彼女の計画は、いままでにない邪悪なアイデアを生み出し、そのひとつが抗議や規制強化のきっかけになること。デラニーの不幸は、彼女のアイデア──友人に使う嘘発見器アプリから、時代遅れの箇所や問題のある箇所をカットして古典小説を「修正」するフィルターまで──が、出したそばからヒット商品になってしまうことです。

この小説のテックジャイアントに対する見方は、人によっては悲観的すぎると感じるかもしれません。ただ、利便性を追求しても罪悪感を抱かなくて済む生活を求める現代の人びとの声に応えるテクノロジーの、「最悪のシナリオ」が描かれているといえます(この本のサブタイトルは「自由意志の、最後の日」です)。

Quartzでは、11月の出版を控えたエガーズにお話を聞いてきました。

Dave Eggers 移民家族の子どもたちの読み聞かせ支援センターを設立するなど社会活動家としても活動。スパイク・ジョーンズ監督作『かいじゅうたちのいるところ』の脚本、ガス・ヴァン・サント監督作『プロミスト・ランド』の原案も手がけている。デビュー作『驚くべき天才の胸もはりさけんばかりの奮闘記』はピューリッツアー賞にノミネートされたほか、『ザ・サークル』はエマ・ワトソン主演で映画化。


The psychology of the quantified self

人はみな定量化したい

──最新作では、自分自身を最適化/定量化したいという飽くなき欲求にとらわれた人びとを批判する姿勢が印象的でした。「自分が『善き人間』であるかどうかを知りたい」と望んだ人が、その答えを求めてテクノロジーを利用している姿が描かれていますが、そう思うようになったのは、あなた自身の経験が影響しているのではないですか。Fitbitなどのテクノロジーの誘惑に負けてしまったことはありませんか?

いや、わたし自身にそういった経験はないんです。いまもあなたとはフリップフォン(ガラケー)で話しているくらいですからね。ただ、ある友人が、最適な瞑想を体験させてくれるというデバイスのすばらしさを説いていたのは覚えています。ティアラのように額に装着し、正しく瞑想ができているかどうかを教えてくれるというものでしたが、わたしはそんなものに科学的価値があるとは思えません。でも、とても賢明な友人がそれを購入し、信頼を寄せているようだったんですよね。

誰もが確実性を求め、自分の判断を信用せず、自分が何かを正しく行っているかどうかを第三者に教えてもらう必要があると思っている……いまこの時代は、歴史上でもユニークな瞬間だといえるでしょう。人はみなデータ中毒になっていて、測定されることなしには世界を渡り歩けると思いもしないのです。

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Dave Eggers
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──著書では、パンデミックが人びとの社会のあらゆる局面を変えたと、何度も言及されています。パンデミックが起きたのは『The Every』執筆中のことだったんですか? それとも偶然なのでしょうか。

パンデミックが起きたときには、たしか第4稿くらいまで書き上げていたと思います。

皆が家の中での生活を余儀なくされ旅行もできなくなっていましたが、そのときには(環境上の理由から)旅行を正当化できなくなったという内容の章を書き終えていました。「Flight Shame」(フライトシェイム、温室効果ガス排出量の多い飛行機の利用を避けること)という考え方は、とくにヨーロッパでは顕著になっています。誰が、どこへ、何のために、どれだけ移動するのか。そのときの(旅行すべきかどうかという)判断基準は、いままでになく厳格になっています。近い将来、自分のまわりの人がどれだけ二酸化炭素を排出しているかがすぐわかり、その人の排出量が必要以上に多いとみるや、けしからんと言い負かすようになるのでしょう。暮らしがデータ化され、それがパブリックシェーミング(公共の場での吊し上げ)と交わるのは必然です。

──エブリは、気候変動対策やセクハラ撲滅などといった、いわゆるリベラルな活動を支援しています。しかし、その支援は権威主義的なやり方でなされるため、あまりに極端な過程をたどることになります。リベラル派の人たちに、自分の姿を客観視してもらおうと思ったりもしたのでしょうか?

わたしは自分のことを典型的な「サンフランシスコのリベラル」だと思っています。民間企業や団体が目を光らせ、個人の行動を取り沙汰し非難することに、警鐘を鳴らしてきました。独占的な力で人を自分たちの意のままにしたり、自分たちの善悪の感覚に従わせようとしたりすると、すぐにおかしなことになってしまいます。EC取引のサイトが、何が道徳的かを決めるべきではないということですね。

この4年ほどで世に出た陰湿極まりないイノベーションの中には、社会的なメリットを装ったものがいくつもありました。例えば、フェイスブックは子ども向けInstagramを発表しました。子どもをもつ親が安心できるようなフィルターを埋め込むことができるというのですが、それは子どもたちにタバコのアメを売り込むようなものです。「飴のタバコを与えておけば、将来、タバコ入りのタバコを使いやすくなるかもしれない」という、まさに極悪非道な理屈です。

Working for change from within

内からの変革は可能か

──作品の終盤では、「エブリの内部で働くことが、気候変動を好転させる最大のチャンスだ」というセリフが出てきますね。それはある種、正しい意見ではないかと。つまり、変革とは内部から働きかけるとき最も確度が高まるかもしれないと思うのですが、どのようにお考えですか?

それについては、不可知論的な立場だと言わざるをえません。少なくともわたしは、それがどんな大企業でも、何かひどいことが起きようとしたときにそれを押しとどめたり、引き戻したりした人を知りませんからね。

──そうですね。それに、あったとしても公表されないのでわかりません。

もしかしたらヒーロー的な人物がいて、現実に起きたことよりはるかに悪い状況から救ってくれているのかもしれません。わたしの友人にも、こうした企業に務めていて、驚くほどスマートかつ高い理想をもった人がいます。彼らはときに被害を認識し、ときにそれに不満を抱くのですが、大きな被害から目を背け、会社のなかでも隅っこの方の、自分が善いことをしていると信じられる場所で安住していることがほとんどです。

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──もし本気で気候変動と戦おうというのであれば、例えばアマゾンで働き会社を立て直すことが最良の選択なのでしょうか? それとも、もっとよい方法があると思いますか?

どちらの意見もよく耳にしますよね。先日は、環境保護活動家でもある石油会社の役員からこう言われました。「わたしはここにいたほうがいい。いないよりも、いたほうが世界のためになる」というんですが……企業には実際に、倫理観のもと、醜悪なアイデアをマシなものにしたり実現しないようにしたりしている人びとがいると思いたいところです。

とはいえ……何年か前、大学訪問をしたんですが、そのとき、エンジニアを目指す思慮深い学生と会ったことがあります。彼の目標はビッグファイブのいずれかに就職することでした。彼はこう言っていましたね。「採用されるための条件は、もっと上を目指すためのアイデアをもっていることです。『スローダウンしよう、ユーザー数を増やすばかりではだめだ』と言っても、採用されはしないのです」

警鐘を鳴らし、スピードを落とそうと宣言するインセンティブがあるとは、とても言えません。あちらこちらの会社で倫理的な立場に就いていたにもかかわらず、意見を聞き入れられることなく辞めてしまった人たちが道半ばで倒れる姿ばかりです。

The joy of writing without WiFi

WiFiナシで書く喜び

──作家のゲイリー・シュタインガートは、『Super Sad True Love Story』の執筆中、フィクションが現実に起きてしまったために何度も書き直さなければならなかったと語っています。この本を書く過程で、そのようなことはありましたか?

『The Circle』では100%! この本でも50回くらいありました。すでに存在していたのに知らなかったということもあたし、「これこそ考えうる最も愚かなことだ」と思っていたのに、すでに発明されていたことも、場合によってはすでに終了していた、なんてこともありました。

純粋にコミカルなケースを考えるのは、ほんとうに楽しかったですね。例えば、いま食べた料理が美味しかったかどうかを教えてくれるアプリについて書いたのですが、計測不可能なものが計測可能になると、おそらくわたしたちの記憶や考え方も変化するのです。大好きなバレエを観たあとでも、いざ測定してみたら100点満点中74点と採点されたとしたら、「よくなかったんだな」と思ってしまうでしょう。そして、その印象に合うように、自分の記憶を変えてしまうのです。

──ウィル・フェレルの映画でわたしが思っていることが、まさにそれですね。Netflixオリジナルの『ユーロビジョン歌合戦 ファイア・サーガ物語』はRotten Tomatoesでは36点なんですが、わたしはいまだに「素晴らしい作品だと思っていたのに」と……。

そうした企業がスタジオを傘下におさめていけば、アルゴリズムやデータ中心の制作方法が適用されていくことになるでしょうし、これまでもそうでした。ウィル・フェレルの映画がなぜ36点だったのか、どうすれば68点になるのか。登場するラマの数を減らし、結婚式の数を増やし、レイチェル・マクアダムスの出演時間を増やせばいいのか。儲かる可能性があれば、彼らは何でも試します。曖昧さや人間の誤りに影響される余地は、どんどん少なくなっていくでしょう。

──憂鬱な気分になります。アルゴリズムに記事について指摘される前に、あなたの執筆活動についてもお聞きしたいと思います。執筆活動はどんな感じですか?

以前は、夜10時頃から朝の4時頃までひたすら書いていました。誰もいない時に起きていたいし、電話に出なくてもいいからです。しかし、子どもができるとそうはいかなくなります。この15年間、わたしの労働時間は9時から5時までで、自宅のガレージを誰も見たことのないような汚いオフィスに改造しました。

COVID-19が発生してオンラインスクールの講座をもつことになって、初めて家にWiFiとインターネットがやってきました。いまは、そこでも仕事をするのが難しくなったので、サンフランシスコ湾に浮かんだボートで仕事をしています。今では毎日ボートに行って、小さな小さなボートの船内で仕事をしています。

──素敵ですね。

ええ。もっと早く、20年前に思いついていればよかったんですが。もっとも、ワシやアザラシやシラサギやアシカが船上を行ったり来たりするので、ボートは一日中、静かに揺れていているんですが。あまりおすすめはできませんね。


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