年末までまだ4カ月余りが残っていますが、2021年はすでにして、記録的な異常気象の年となっています。洪水やハリケーン、山[火事などが温暖化の影響を受けて強度と頻度を増し、世界中を襲い続けています。米国では、6〜8月の3カ月間でほぼ3人に1人が異常気象を経験しています。
洪水、熱波、干ばつ、火事がかくもあたりまえになった世界で暮らし続けるためには、何が必要なのでしょうか。今回は、危機の最前線にある「都市」の視点から、考えます。
FLOODS
都市を悩ます洪水被害
2021年は、現時点ですでに世界各地で1,800件以上の洪水が発生しています。その一部は、従来型のハリケーンやモンスーンによるものでしたが、中国中部・鄭州市や米テネシー州中部、ドイツ中部などでの洪水は、沿岸部ではない都市を襲った想定外の災害でした。
コンクリートやアスファルトで舗装された道路は水を吸収しません。雨は排水溝へと流れ込みますが、異常規模の暴風雨が発生すると排水溝はすぐに溢れてしまいます。そんな単純な理由で、世界で14億7,000万人もの人びとが被害を受けているのです。
都市がすべきこと:
- 道路や歩道に透水性のある素材を。雨水を吸収する緑地を。中国では「スポンジ・シティ」というコンセプトが拡がりつつあります。
- 雨水を貯めて再利用する方法を見つけること。例えばロッテルダムでは、余った雨水を公園の水場に利用しています。
- 自然の湿地帯を保護・回復すること。ニューオーリンズでは、雨水を地域の生態系に取り入れるアクションが進んでいます。
HEAT
熱波が市民を殺している
温暖化した地球上で「最も暑い」場所が、都市です。熱波が発生すると、密集したコンクリートジャングルの表面には熱がこもり、地表温度がさらに上昇します。近年、熱波はより長期化しており、より頻繁かつより激しくもなっています。
米国では、毎年、他のどの気象現象よりも多くの人が、熱波によって死亡しています。全世界では年間63万7,000人以上の死者が確認されており、シチリア島やムンバイなどこれまで暑さに慣れ親しんできた地域でも、高熱波の被害が報告されています。
都市がすべきこと:
- 日陰をつくること。パリやトロントなどの都市では、公園や周辺地域の樹木のキャノピーカバーを増やしています。
- 建材をうまく使うこと。ニューヨークやロサンゼルスでは、建物の屋根や一部の道路を白く塗装することで熱がこもるのを防ぐプログラムを実施しています。
- 社会インフラを強化すること。本来避けられるはずの熱死を防ぐこと。警報システムや冷房センターをただ設けるだけでなく、最も弱い立場にある市民への働きかけが重要です。ブエノスアイレスで時失されている計画では、高齢者への特別な配慮がなされています。
DROUGHT
干ばつは経済を損なう
干ばつは、都市を含む人間社会のあらゆる側面に「持続的な」ストレスを与える災害です。干ばつが起きれば、農作物の生産が滞るだけでなく、電力網や雇用機会も影響を受けます。国連の推計によると、過去20年間での干ばつによる経済的損失は、少なくとも1,240億ドルに達しています。
歴史上、人類は季節毎に起きる干ばつに対処してきましたが、気候変動はさらに悪化させています。米国西部では、夏のほとんどの間、干ばつに見舞われています。今年は米国最大の貯水池であるミード湖の水位が過去最低まで低下し、2022年からカリフォルニア州、アリゾナ州、ネバダ州で水の使用が制限されることになりました。また、マダガスカルは国全体が干ばつによる飢饉に苦しんでいます。
都市がすべきこと:
- 水の使用を制限すること。それこそが干ばつに対処する最も効果的な対応策であり、実際にさまざまな都市で、インセンティブあるいは強制力のもと、使用制限が実施されてきました。南アフリカ・ケープタウンは2018年に干ばつに直面していますが、個人の1日の水使用量を50リットルに制限し、それを超える使用には税を導入するなどして水の消費量を60%近く削減しました。
- 都市周辺の森林を再生すること。森林は都市にとって水資源の供給源であるとともに、ろ過装置でもあります。サンパウロでは、インフラ改善を目指して森林再生計画が実施されています。
- 淡水が足りなければ、海水でつくってみること。イスラエル政府は、世界最大の海水淡水化プラントに投資しています。しかし、慢性的な干ばつ問題を克服するにはまだ不十分です。
FIRE
火事の深刻な健康被害
暑さや干ばつによって乾燥した木や草は、山火事の大きな原因となります。歴史的に見れば、季節的な火災は生態系のバランスを保つために必要なものだといえます。しかし、ここ数年、北米西部で発生している大規模かつ制御不能な火災は、間違いなく気候変動によるもので、乾季が長くなったこと、気温が上昇していることが直接の原因です。
これまで都市部では、山火事の煙や大気環境への影響(煙にさらされると呼吸器疾患の原因になったり、悪化したりする)への対処が主でしたが、2020年にオーストラリアで発生した山火事による影響は農業や観光業にも及び、その被害総額は50億豪ドル(37億米ドル)と推定されています。
都市がすべきこと:
- 住民一人ひとりの備えを万全にすること。山火事で発生した煙による被害に悩まされているベイエリアでは、住民の備えに役立つよう大気質管理システムや警報システムが導入され始めています。また、ローカルな組織が、N95マスクの寄付活動を推進しています。
- ゾーニングを検討すること。米国のとくに山火事が発生しやすい地域では土地利用規制を強化し、森林との境界線上のどこにどのように建物を建てるのかを定義する動きが進んでいます。
- 燃えない素材で家を建てること。カリフォルニア州政府は、より耐火性の高い素材を使用した住宅に改修する市民を支援する資金援助プログラムを開始しました。
🔮 Prediction
未来予測
「人間が引き起こした気候変動の影響は、もはや避けようがない」。その一点について、気候科学者たちの意見はほぼ一致しています。いま、わたしたちにできることは、気候変動の影響を「緩和」し、これ以上の温暖化を「抑える」ことでしかないのです。
気候変動に直面している現実に立ったうえで未来を築こうとすると、いまある生活を意識的に大きく変える必要が出てきます。多少の犠牲も必要になるでしょう。都市を運営する行政は、「管理された後退」(危険な沿岸地域から家や建物を移動させ、別の場所に再配置する)をやむなくされることもあるでしょう。定期的な水の配給が必要になるかもしれません。また地域によっては、危険な暑さにさらされないように1日の労働時間を変えたりすることも必要です。
現在の生活様式を維持しようと気候変動に「抵抗」する道もあるかもしれません。
しかし、都市の発展をこれまで通りの新陳代謝に任せながら災害に対する防御策を講じるのは、それが失敗したときの苦難と背中合わせです(そしてその「失敗」は、ほぼ確実に起きるでしょう)。
より高い堤防を建設することで嵐を切り抜けることができるかもしれませんが、堤防が破壊されたり倒壊したりした場合に、大規模な洪水に見舞われることになります。また、それはコンクリートで建物をつくり続けることであり、その結果、毎年、熱中症による大量の死傷者が出ることを意味します。また、それは火災が発生しやすい原野に都市を拡大し続けることを意味します。結果、大規模な避難が必要とされ、人命・財産を損失するリスクに直面するのです。
現在、リーダーたちはいくつかの適応戦略に取り組み始めていますが、それでは遅すぎるかもしれません。
今日のニュースレターはCamille Squires(レポーター、山火事頻発する都市から、洪水リスクのある都市に引っ越し中)がお届けしました。
📺 『Off Topic』とのコラボレーション企画、4回連続ウェビナーシリーズの第2回は9月28日(火)に開催予定。詳細はこちらにて。先日開催した第1回のセッション全編動画も公開しています。