不動産デベロッパー、中国恒大集団(Evergrande)。いま世界経済を不安に陥れているこの物語は、中国が長い間見定めようとしてきた厳しい選択──いまの痛みをとるか、あとの痛みをとるか?──についての物語でもあります。
膨大な量の鉄鋼と、それが支える高額なインフラ網、その上に拡がる夢のような名前の集合住宅(「ビバリーヴィラ」「ベルサイユガーデン」などなど)──生産と建設を繰り返してきた中国経済の原動力は、実際のところ、長年にわたる負債によるものでした。しかし近年、習近平国家主席は、金融の「カオス」を減らして質の高い経済成長を確保すると強調しており、この国の経済を歪めてきた負債を削減しようとしてきました。
習近平の新しいアプローチの兆しは、最近でもいたるところに見られます。まず、半導体関連をはじめとする企業の債務不履行を相次いで認めています。アント・グループに対する取り締まりにおいては、同社の消費者向け融資サービス(「Ant Cash Now」「Ant Check Later」)を規制するなど、金融リスクに対する当局の危惧がうかがい知れるような措置をとっています。また、昨年には不動産開発業者に対する厳しい規制(三条紅線、後述)が導入され、一部の企業に対する銀行融資は制限されることになりました。
中国恒大集団の設立は1996年。中国が民間の住宅ローンを認めるようになったわずか2年前のことです。それから四半世紀を経たいま、同社が3,000億ドル余りの負債を抱えることになった背景には、まさにこの新旧の価値観の衝突があります。中国恒大集団は財務的に放漫で、しかし北京が規制に乗り出すまで、この国の不動産開発はそれで回っていたのです。
いま、世界は、中国が中国恒大集団に救済の手を差し伸べるかに注目しています。中国には国内金融機関の保護が可能で、それでこそ、近年の取り組みが目指す「共同の繁栄」は現実のものとなるはずです。もっとも、それは中国恒大集団がいまあるかたちのまま存続することも、海外投資家が無傷で済むことも意味しないのですが。
The backstory
変化のウラ側で
- 中国はこれまで、成長のために多くの借金をしてきた。しかし、このシステムが「ゾンビ企業」を支え、新たな資金が供給されなければ不動産開発が停止する可能性すらあるのは、いま起きている通りです。
- 北京は不動産債務を削減している。2020年、北京は不動産融資を規制する政策「三条紅線」を制定しました。これは「資産負債比率70%以下」「自己資本に対する負債比率100%以下」「短期負債を上回る現金保有」の3つの条件で不動産会社をランク付けするものです。
- 北京はデフォルト(債務不履行)を危惧している。2年前、中国は米国スタイルの破産裁判所を数十カ所設置しています。
Numbers to know
知っておきたい数字
2兆元(約33.3兆円):中国恒大集団の6月時点での負債額。中国のGDPの約2%に相当(Caixin調べ)。
4.5億ドル:昨年400億ドルだった時価総額は大幅に下落
43億ドル:創業者・許家印(Hui Ka Yan)が、2017年の中国のビリオネアランキングでトップになったときの資産額
29%:中国のGDPに占める不動産および関連産業の割合
12万3,276人:中国恒大集団の従業員数(2020年12月時点)
1,200万人:中国恒大集団が中国で展開する約1,300のプロジェクトの所有者
Haunted by ghost towers
居並ぶゴーストタワー
中国の不動産バブルを象徴するのが、「ゴーストタワー」と呼ばれる、オフィスやマンションにおける大量の空き室です。ある推計によると、中国の大都市の空室率は2017年時点で約17%、中規模都市では20%を超えています。
J Capital Researchの共同設立者であるAnne Stevenson-Yangは、20年以上前からゴーストタワーに注目。2017年当時、彼女は中国恒大集団を「世界でもまれに見る最大のマルチ商法」と呼んでいました。彼女はQuartzのインタビューに答えていますが、こうも語っています。「彼らは何度も何度も崖っぷちに立たされ、そして脱出する方法を見つけたのです。中国恒大集団は、(「脱出王」の異名をとった)奇術師フーディーニのようなものです」
What to watch for next
これから注目すべきこと
- 北京の救済措置:不適切なリスクを冒した企業への救済があまりに早いと、他の企業に示しがつかないという見立てもあります。中国は現在、中国恒大集団の帳簿を精査するチームを編成していますが、債務再編が本格化する前段階であると考えられます。
- 債権者はどうなるか:中国恒大集団の「Seniority Waterfall」(債権者への支払い順序)によると、最大の債権者は国有銀行となっています。理論的には中国政府が最初に利益を得ることになりますが、政府は、ウェルスマネジメント商品を通した個人投資家や未建設住宅の頭金を預けている160万人、Evergrandeに資金を貸し付けざるを得なかったEvergrandeの従業員などを優先する可能性もあります。海外の投資家の優先順位は最も下になります。
- 国民の抗議行動の危険性:中国当局は社会不安に対して敏感で、より大きな反政府運動にエスカレートしないよう常に目配せしています。中国政府の決定は、経済的な理由と同じくらい、社会的な配慮に左右されるでしょう。
- 他のデベロッパーへの影響:2020年に三条紅線が制定された際、大手デベロッパー30社のうち21社が少なくとも条件の1つに抵触していましたが、現在は30社中8社にまで減少しています(Capital Economics調べ)。中国恒大集団から「ドミノ倒し」が始まることはないといえるでしょう。
- 中国の将来の成長:現在の中国のGDPは不動産開発や建設に大きく依存しているため、別分野への転換を求められることで成長の鈍化を招く可能性が高くなります。中国は昨年成長した唯一の主要経済国で、2021年にはインドに次いで2番目にGDPが成長すると予想されています。
China’s implicit backstop
暗黙のバックアップ
中国を理解するための最良の方法は、それが国でありながら、1つの大きな会社のように運営されていると知ること。確かに中国には「民間」の銀行や「民間」の企業がありますが、最終的には共産党があらゆるものを所有しています。ゆえに、中国恒大集団に世界的な伝染病のリスクはありません。なぜなら、最終的には、中国恒大集団への融資は中国の銀行によって行われ、中国政府が暗黙のうちにバックアップしているからです。── Tom Essaye(Sevens Report Research)
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