Company:鉄から電池に転換、韓国ポスコの勝算

Company:鉄から電池に転換、韓国ポスコの勝算
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鉄鋼業は、競争の激しい産業です。世界の鉄鋼メーカーはこれまで、中国企業との激しい競争にさらされてきました(中国の過剰生産能力は、世界のあらゆる企業を圧迫してきました)。さらにいま、鉄鋼メーカーは脱炭素化にも取り組まなければなりませんが、それは非常にコストのかかる投資です。かたや、世界の鉄鋼需要は、長期的にみればわずか1%の伸びにとどまる予想されています

そんななか、世界第5位の鉄鋼メーカーである韓国・ポスコPosco)は、バッテリー分野に打って出ようとしています。

鉄鋼とバッテリーに、いったいどんな関係があるのでしょうか。想定外のピボットのようにも思えますが、将来性のある産業を選んだと考えれば合点がいきます。朝鮮戦争後、鉄鋼業は韓国の急速な工業化に貢献し、この国の製造業の勃興を支えました。バッテリーもまた、次の産業発展の原動力となることでしょう。

ポスコは、着実に、バッテリー製造の主要工程を網羅した世界規模のサプライチェーンを構築しています。アルゼンチンではリチウムを採掘する権利を取得。カナダのニッケル鉱山会社に出資しているほか、リチウム抽出プラントの建設も進めています。

韓国は2021年7月に「Kバッテリー戦略」を発表し、2030年に次世代二次電池の分野で世界トップを目指すとしていますが、ポスコの転換は、まさにこの方針に沿ったものだともいえます。


BRIEF HISTORY

ポスコの半世紀

1968年:韓国の工業化と経済成長に寄与するべく、朴正煕大統領(当時)の肝いりで設立

1994年:ニューヨーク証券取引所に上場。翌年にはロンドン証券取引所にも上場

1998年:生産量世界第1位の鉄鋼メーカーに

2013年:53億ドルを投じたインドの製鉄所建設プロジェクトが、住民の猛反対などにより中止

2015年:中国の成長が鈍化し鉄鋼価格が低迷、遅延が続いていた別のインドの鉄鋼プラントプロジェクトを中止

2018年:創業50年を迎え、アルゼンチンの塩湖でリチウムを採掘する権利を取得

2021年4月:ミャンマーでクーデターが発生、ミャンマー軍とのビジネスパートナーシップを終了(ただしミャンマーから撤退はせず)

2021年5月:電気自動車用電池の原料となる水酸化リチウムを製造する工場建設を開始(2023年までに完成の予定)


THE POWER OF DIVERSIFICATION

“多角化”の勝利

1970年代のポスコは、窮地に立たされていました。

1970年、沿岸部の都市・浦項での第1号製鉄所の建設が始まっていましたが、プラント設備には日本のサプライヤーに大きく依存していました。しかし、日本企業との関係が急激に悪化したのです。1973年、韓国の野党指導者が韓国諜報機関(KCIA)によって東京で拉致された事件を受け、日本政府は韓国企業との取引停止を命じたのです(いわゆる「金大中事件」)。

日本の協力が得られないとすると、いったい誰が工場の拡張に協力してくれるのか? ポスコ創業者の故パク・テジュン(朴泰俊、Park Tae-joon)は、ヨーロッパからの調達を決断します。

結果的に見ると、これは戦略的にも重要な節目でした。意欲的なヨーロッパを後ろ盾に、ポスコは日本に対しても交渉を有利に進め、日欧双方から魅力的な条件を引き出すことに成功──多角化が、功を奏したのです。

それから約50年後のいま、ポスコは再び多角化を進めています。基幹事業であった鉄鋼業では成長が見込めないと判断し、世界的な再生可能エネルギーへの移行が進むなかで大きな成長が見込まれる、電気自動車用バッテリーの分野に多額の投資を行っているのです。

ポスコは電池事業を拡大するにあたり、多様な電池サプライチェーンを構築し、主要材料の供給を単一国に依存しすぎないようにしています。ポスコの“多角化”戦略は、今回も成功する可能性が高いといえるでしょう。


BY THE DIGITS

数字でみる

  • 5位:世界の鉄鋼メーカーのなかでのポスコの粗鋼生産量
  • >70%:1988年に完全民営化するまでに韓国政府が保有していたポスコの株式は70%以上
  • 226位:フォーチュン・グローバル500社でのランキング
  • 100万個:ポスコの水酸化リチウム工場による電気自動車用バッテリーの年間生産数
  • 20%:2030年までにポスコが目指すEV用電池材料の世界シェア

今日の「The Company」ニュースレターは、Quartz記者のMary Huiがお届けしました。日本版の翻訳・編集は年吉聡太が担当しています。


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