今日あるウェブは、ワールドワイドウェブ(WWW)の生みの親であるティム・バーナーズ=リー(Tim Berners-Lee)が1980年代初頭に思い描いていたような「シンプルで星が散りばめられた、ユニコーンの空のような世界」とはかけ離れています。
世界はテック企業による独占の時代にあります。デジタル上にプライバシーはほぼ存在しません。フェイスブックやグーグルのような企業が個人情報を収集・蓄積して(間接的に)販売しており、広告を中心としたビジネスモデルによって支えられています。「ウェブは本来人類に奉仕するはずだったが、それが失敗に終わったことが実証された」。バーナーズ=リーは2018年に『Vanity Fair』にそう語っています。
規制当局は法律や罰金をつぎはぎして、テック大手を取り締まろうとしています。一方で、テクノユートピアの信奉者たちは、インターネットの問題を別の方法で解決しようと考えています。それがブロックチェーン技術に支えられた分散型の未来のインターネット、「Web3.0」なのです。
WHAT IS WEB3?
Web3.0とは?
現在のウェブの仕組みは、ブラウザにURLを入力するとコンピュータが遠く離れたサーバにリクエストを送信し、サーバはリクエストされた情報をHTML形式で返信するというもの。入力したあらゆる個人情報はサーバに保存されます。
問題は、これらのサーバが一極集中的で、なおかつプライベートであることがほとんどだということ。サーバがダウンしたり、サーバを運営している会社がユーザーをサービスから外したり、あるいは誰かがサーバをハックしてユーザーの個人情報を盗んだりしたら、ユーザーにはどうしようもありません。
Web3.0では、こうした集中型サーバに代わり、ブロックチェーン技術が採用されることになります。例えばフェイスブックやアマゾンが所有するサーバに情報を送信する代わりに、すべてのデータはP2Pの分散型データベース、つまりパブリックブロックチェーンに保存されます。
ブロックチェーンは基本的にはデータベースの一種であり、一企業が管理できるプライベートブロックチェーンも存在します。例えば、ビットコインのブロックチェーンは、基本的に、誰がいつ、どれだけのビットコイン(固有の暗号通貨)を買ったかを示す巨大なリストであるのです。
PROS & CONS
その長所・短所
長所
- ユーザーによるデータ保持:集中型のエンティティにデータを委ねるのではなく、自分のデータを自分自身で管理できるように。人は必要に応じて、情報を複数の分散型アプリケーション(dapps)を跨いで運用できます。
- 透明性:パブリックブロックチェーンはオープンなので、誰でも閲覧・監査できます。
- ネイティブペイメント:パブリックブロックチェーンには、台帳を管理するインセンティブとして、暗号通貨が組み込まれています。これにより、決済などの金融取引において手数料を取られたり、個人情報を求める第三者を経由する必要はなくなります。
- 検閲に強い:ブロックチェーンに記録された内容は、中央当局をもってしても停止したり削除したりすることはできません。一方で、当然のことながらコンテンツモデレーションの問題が出てきます。有効な解決策はまだありませんが、いくつかのプロジェクトでは、トップダウンではない別の方法でモデレーションを行う検証をしています。
短所
- プライバシーの欠如:ブロックチェーン上の取引はオープンで追跡可能ですが、デフォルトでは匿名です。
- 非効率:ブロックチェーンでは、各ブロックに記録できるトランザクションの数に制限があり、需要過多になると拡張が困難になります。企業はこの問題に対処するため、メインのブロックチェーンからトランザクションをバッチ処理することで、「レイヤ2」ソリューションを構築しています。
- 規制の欠如:分散化されているため、規制当局が有害なプロジェクトや詐欺を取り締まったり停止させたりするのは困難です。
- 環境への影響:ビットコインのような特定のブロックチェーンでは、マイナー(採掘者)には膨大なエネルギー消費が求められます。イーサリアムのように、エネルギーをあまり必要としない別の信頼ベースのメカニズムを模索しているものもあります。
OPEN QUESTIONS
質問をどうぞ
Web3.0はどのようなものになるのか、どのようにしてつくるのか? ここでは、ブロックチェーン開発者コミュニティと規制当局の言動からその答えを導きます。
- インフラは?:分散性、拡張性、安全性に優れたブロックチェーンをつくるには? その実現は、現段階では技術的に困難です。一般的なコンセンサスとして挙がっているのは「それぞれ異なる目的のために存在する、複数のシステムをとる」というものですが、最終的にどれがうまくいくかはまだわかりません。
- 誰もがアクセスできるものになる?:ブロックチェーンの利用は無料ではありません。例えば、イーサリアムの取引手数料(「ガス代」とも呼ばれる)は記録的な取引量の中で急上昇しており、新規参入者は締め出される可能性があります。また、暗号通貨のコミュニティは多様性と信用についての課題を抱えています。男性が圧倒的に多く、詐欺が多発。また、参加するには複雑な技術や金融の知識が必要ですが、多くの人はそういったことをきちんと調べようとしません。
- 規制の先行きが見えない?:分散型金融(DeFi)企業は特に、プレッシャーを感じています。米国証券取引委員会(SEC)は、分散型取引所のユニスワップ(Uniswap)を調査していると伝えています。コインベース(Coinbase)は、規制の不確実性を理由に、ユーザーが保有する暗号に4%の利息をつけることができる融資商品を中止。一方で、暗号の貸し手であるセルシウス(Celsius)は、停止命令を受けました。
「暗号通貨については、投資家保護が十分ではありません。率直に言って、現時点では西部開拓時代のようなものです」と、SECのゲイリー・ゲンスラー(Gary Gensler)議長は、8月に開催されたアスペン・セキュリティ・フォーラム(Aspen Security Forum)で述べました。
PREDICTION
今後の予想
Web3.0に移行したとしても、エンドユーザーからすると、それほど大きな変化はないかもしれません(アプリの見た目も、いまと変わらないかもしれません)。しかし、基盤となるアーキテクチャは全く異なります。Web3.0のビジョンはまだ漠然としています(そもそも、それ以外のウェブの未来像もありえます)。次に来る可能性のあるものは以下の通りです。
- いまから1年後:ブロックチェーン開発プラットフォーム「アルケミー」(Alchemy)のプロダクトリードであるマイク・ガーランド(Mike Garland)は、先月ニューヨークで開催された暗号通貨カンファレンス「Mainnet」でこう語っています。「いまのブロックチェーン開発は、初期のウェブ開発に似ている。一部の人たちが大きく前進しているが、これからより多くの企業が、金融アプリケーション、NFT、ゲームなど、製品市場への適合性を把握するために、Web3.0アプリを試していくだろう」。ポリゴン(Polygon)の共同設立者でCEOのサンディープ・ネイルワル(Sandeep Nailwal)は「おとぎ話のような技術の段階から、具体的なものへと移行している」と『Quartz』に語っています。
- いまから5年後:インフラの整備により、Web3.0アプリの展開がこれまで以上に容易になっているでしょう。ドラッグ&ドロップやノーコードでウェブサイトやアプリを立ち上げることができるようになったように、ユーザーは基本的なインフラへのアクセス方法を知らなくても、分散型アプリケーションを立ち上げることができるようになります。アルケミーのガーランドは、上記Mainnetで次のようにも語っています。「インフラがどのように機能しているのか、製品に合わせてどのようにスケールアップしていくのかといった内部構造を気にすることなく成功を収め、何百万人ものユーザーに優れたパフォーマンスのアプリケーションを提供できるようにしたい」
- いまから10年後:さまざまな産業において、ブロックチェーン技術がどう使われ、どんなアプリケーションになるのが真に実用的なのかが理解されるようになるでしょう。ハイプ化するかもしれません。「いまはまだ、従来の金融にあるものをコピーしている状態です。今後数年のあいだに、従来の金融では存在しえなかったDeFiのユニークな特性を実際に活用したものが出てくるでしょう」と、メープル・ファイナンス(Maple Finance)の共同設立者であるシドニー・パウエル(Sidney Powell)は、『Quartz』に対して話しています。
KEEP LEARNING
さらによく知るために
- When Walmart says it’s on the blockchain, what does it mean? (Quartz)
- Web3 ELIF5: What is Web3? (Messari)
- The Crypto Surge (Quartz)
- Gaby’s Web3 Reading List (Gaby Goldberg)
- Understanding Web 3—A User Controlled Internet | by Emre Tekisalp (Coinbase)
- The Decentralized Web Of Hate (Emmi Bevensee & Rebellious Data, pdf)
ONE 🥴 THING
最後に…
Twitterには暗号通貨を使う人たちがたくさん集まっています。ここでは、彼らが使う楽しい専門用語の簡単な解説をします。
- Aping in:ある資産に全力で取り組むこと
- Degen:「degenerate gambler」(退廃的なギャンブラー)の略で、いまでは暗号通貨の関係者たちが自身を揶揄して好んで使っている
- FUD:「恐怖、不確実性、疑念」の意。通常、暗号通貨に関するニュースを表現するときに使われる。
- HFSP:「Have fun staying poor」の略で、暗号通貨保有者が、暗号通貨を保有していない人を悪く言うときに使用することば。
今日のニュースレターは、アソシエイトメンバーシップエディターのJasmine Teng(暗号通貨に悩まされている)がお届けしました。日本版の翻訳は福津くるみ、編集は年吉聡太が担当しています。みなさま、よい週末をお過ごしください!
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