パンデミック前の海運業界は、収益性が低く、船はあっても仕事がないという「失われた10年」を経験していました。しかし、やがて注文が入り始めました。芝刈り機やソファ、ミルクフローサー(泡立て器)にエクササイズバイク──。ロックダウン下にあった米国の消費行動は気まぐれで、サプライチェーンを破壊するほどの驚異的なスピードで「buy now」ボタンが押され続けたのです。
中国の港で積み荷を満載された船が太平洋を横断しても、港湾労働者がコンテナをすぐに引き上げることはできませんでした。これらのコンテナは鉄道ターミナルに山積みされ、その中身は、トラックドライバー不足にあえぐ配送センターに詰め込まれていきました。荷物が到着するたびに混雑状況が増し、コンテナの輸送価格は急騰。埠頭にも荷物が積み上げられ、接岸を待つ船の数は十数隻、そして60隻以上と増えていきました。
とどまるところを知らない米国の需要に応えようと、コストの高い航空輸送を利用する企業も出てきました。また、自社で船をチャーターしたり、割高な料金を支払って船に荷物を強引に積み込んだりする企業も。一方、パンデミックによる買い物ブームは、そのままホリデー商戦シーズンに突入しつつあり、輸送の負担を減らす方法──米国の消費者が物をあまり買わないこと──は、選択肢としてますます考えづらくなっています(この経済状況で買い控えなんてありえないでしょう!)。
現在、輸送システムは混み合っており、ある試算によれば、2022年末までこの状態が続く可能性があります。さらに悪いことに、サプライチェーンに関連するさまざまな事柄が、優先順位の判断で躓いているため、わたしたちが修正すべきだと痛感している要素──船舶輸送、港、鉄道、トラック輸送、倉庫、道路など──はたくさんあるものの、「大規模な見直し」はおろか、前記の「修正」のためのダウンタイムさえないのです。結局のところ、こうした全面的な見直しには何年もかかるでしょう。
システム上の問題点を放置し、それが本格的な危機に発展するという経験を、わたしたちはこれまでにも繰り返してきました(例:COVID-19、気候変動)。いまのところ、人びとや企業はこの事態に急いで対応しようとしています。次の1年で、わたしたちがどれだけ教訓から学んだかが、明らかになるでしょう。
The backstory
変化のウラ側で
- パンデミック前、海運の利益は非常に少なかった。コンテナ船の輸送能力が需要を上回っていたため、キャパシティを増強する船会社はほとんどありませんでした。パンデミックが発生すると、多くの企業は需要の減少を見込んで、船の操業を停止しました。
- いまや、需要は桁違い。ホリデー商戦シーズンが近づくなか、小売業者は枯渇した在庫の補充に必死になっています。船会社はここ数年にないほどのマーケットパワーを背景に、運賃を値上げし、長年の顧客を見捨ててより高値を提示した客を選び、港での手数料や罰金を引き上げ、そのコストを顧客に転嫁しています。
- いくつかの解決策は時間がかかりすぎる。コンテナ船の建造には2、3年かかるため、船会社が新たに発注しても、すぐには状況改善につながりません。たとえ米国の議員が、議会でインフラ整備のための資金を調達できたとしても、港湾インフラの改善には、さらに時間がかかる可能性があります。
THAT’S HEAVY
増えるコンテナ
貨物船には、かつてないほど多くのコンテナが積み込まれています。記録的な数の未処理コンテナに悩まされている米カリフォルニア州のロングビーチ港では、現在、1隻が運び込むコンテナ数が平均7,000個と、パンデミック前の平均4,000個から70%も増加しています。
問題はインフラです。港の各停泊所に設置されているクレーンの数は決まっており、船の積載量が増えたからといって港のキャパシティを増やすことはできません。同様に、造船所のスペースも限られています。コンテナの数が増えれば増えるほど、積み上げ、積み下ろし、積み直しといった物流面での課題も大きくなります。
What to watch for next
これから注目すべきこと
- 実現可能な代替手段を探せ。企業は、大手輸送業者による標準的なコンテナ輸送以外の選択肢を探しています。なかには、価格は高くても、より早く、より確実に商品を届けることができる航空輸送を利用する企業もあります。
- 必死の小売業者は、徹底的にやっている。コストコ(Costco)、ウォルマート(Walmart)、ホームデポ(Home Depot)、イケア(IKEA)、ダラー・ツリー(Dollar Tree)、パーティーシティ(Party City)などの一部企業は、船会社を一切通さず、独自に貨物船をチャーターしています。また、高額な長期契約を結んで船のスペースを確保する企業もあります。
- コンテナ価格の修正。顧客の苛立ちをなだめるために、いくつかの船会社は、高い水準ではありますが、スポットレートを据え置いています。グローバル・シッパーズ・フォーラムのディレクターはこの状況について、こう指摘します。「拷問官が囚人に対し、『これ以上ひどい拷問をしないことに感謝しろ』と言うようなものだ」
- ホリデー商戦シーズン。サプライチェーンの混乱は、多くの小売業者にとって売り上げの大半を占める狂乱の四半期に、輸送遅延や在庫切れ、価格上昇、値引きの減少をもたらす恐れがあります。
- パンデミックで得た利益の使い道。銀行に何十億ドルもの資金があれば、ライバル会社や関連事業の買収、航空輸送や物流などへの事業多角化も可能でしょうし、あるいは、かつてのような低収益でボラティリティの高い時代に戻ることに備えて、単に手元資金を蓄えておくことも選択肢の一つです。
IT’S THE CLIMB
それでも高い
先週、40フィートコンテナ当たりのコストは、わずかに0.2%下落し、1万360ドル(約116万円)となりました。しかし、依然として費用は前年比の3倍です。
One 🕴️ thing
話題の人
サプライチェーンの危機がどう展開していくのか、それを見守るのは、日本初、そして世界初の経済安全保障担当閣僚です。Twitter上で「kobahawk」として知られる3期目の議員、小林鷹之は、日本のサプライチェーンの強化、重要インフラの確保、技術的優位性の保護、経済スパイへの対応といった使命を負っています。…でも、無理はしないで!
5 great stories from elsewhere
Quartz以外の注目記事
🎮 PS5の熱狂の裏側。『BuzzFeed News』は、テックジャーナリストのマット・スワイダーを紹介しています。彼は、誰もが欲しがるPlayStation 5を手に入れるためのヒントを提供することで、パンデミック・セレブになりました。
🚢 朽ち果てたスーパータンカー。『The New Yorker』は、イエメンで座礁し、いつ100万バレルの原油を流出させてもおかしくない船の痛ましい様子を紹介しています。
🧠 Facebookがダウンしたワケ。インターネットセキュリティ企業、クラウドフレア(Cloudflare)のエンジニアが、ソーシャルネットワークがインターネットから一時的に姿を消した理由を、図も使って説明しています。
💞 真実の愛は息が長い。『The Washington Post』は、1979年に終わった異人種間のロマンスを紹介。結局、42年後に見事に再燃しました。
💡 目の付け所を変える。『UX Collective』は、新しいアイデアを育むために、アルゴリズムが提供しない、奇妙で多様、そして、ニッチなコンテンツを探し出すことをおすすめしています。
今日のニュースレターは、Aurora Almendral(シニアレポーター、貨物船で10日間過ごした経験あり)と、Nicolás Rivero(レポーター、中学時代はカーゴショーツで過ごす)、Kira Bindrim(エグゼクティブ・エディター、ミルクフローサーに散財)がお届けしました。
🎧 Podcastでは「お悩み相談 グローバルだけど」の最新話を公開中。お悩み・お便りはこちらから。Apple|Spotify
👀 Twitter、Facebookでも最新ニュースをお届け。
👇 のボタンから、このニュースレターをTwitter、Facebookでシェアできます。ニュースレターの転送もご自由に(転送された方へ! 登録はこちらからどうぞ)。