Forecast:「次のシリコンバレー」はどこだ?

Forecast:「次のシリコンバレー」はどこだ?
A graphic of a man wearing sunglasses that reflect palm trees
Image: Janik Söllner

シリコンバレーがいまもなお、テック系スタートアップにとって世界的な中心地であることに変わりはありませんが、以前ほど「支配的」な場所ではありません

ベンチャーキャピタル(以下VC)からの資金提供は、ゆっくりですが確実に世界各地に広がっています。また、パンデミックの際には、多くの投資家や起業家がこれを機会にシリコンバレーを去り、戻るつもりはないと公言しました

1年半後にはサンフランシスコ・ベイエリアにおけるVCの資金調達の割合が減少していくとの見通しもあります。ただし、逆に割合が増加した都市が、VCがTwitterで騒いでいるような姿になるとも限りません。テック業界ではリモートワークが普及していますが、スタートアップ企業の活動が大都市に集中しているのも事実です。

果たしてこの集中化は、今後も続くのでしょうか? その答え如何によって、世界経済の再編も、どのような労働者が高給の仕事に就けるのかも、そしてテック産業がほんとうに多様性を担保できるかどうかも決まってくるでしょう。


GOTTA GO

もう行かなきゃ!

パンデミック以前からすでに、投資家や起業家の多くが、物価が高騰し階層化が進むサンフランシスコに幻滅していました。シリコンバレーでのロックダウンは、彼らが荷物をまとめて出て行く決定的な機会になったのです。

  • リモートワークが思っていたよりも早く浸透。突如として、投資家も起業家も、どこでも仕事ができるようになりました。
  • テックワーカーは税金を逃れたい…。カリフォルニア州の個人の最高限界税率は13.3%。オースティンやマイアミのような新進気鋭のテック拠点は所得税がゼロで、ビジネス規制が緩く、生活費も安く済みます。
  • …その隣人たちは。サンフランシスコを離れたテックワーカーの多くは、地元の活動家グループから受ける批判や、政治的に左に傾倒しがちな交友関係、そしてサンフランシスコのホームレスの多さ嫌気が差しています
  • 投資家は地理的な偏見を捨てる。Zoomを使ってビジネスミーティングを行うようになり、VCはシリコンバレー以外のスタートアップにも積極的に出資するようになりました。

THE WORLD IS STILL NOT FLAT

とはいえ、まだ近場

パンデミック中にテック熱は高まり、サンフランシスコにおけるVCの活動はかつてないほどに盛んでした。しかし、ピッチブック(Pitchbook)のデータによると、米国でのVCによる資金調達におけるサンフランシスコの割合は、パンデミック以降、36%から27%に低下しています。

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スタートアップ企業がサンフランシスコを離れるとしても、必ずしも遠くに行くわけではありません。パンデミックに際して、サンノゼのVCの資金提供の割合は上昇し、サクラメントも同様でした。また、パンデミック時に最大の勝者となったのは、すでにテクノロジーのハブとなっていたボストンロサンゼルスサンディエゴ、そしてシカゴといった都市です。

VCにとって最大の市場は依然として米国ですが、資金提供に占める割合は10年前に比べてかなり低くなっています。サンフランシスコに拠点を置く調査会社スタートアップゲノム(Startup Genome)が発表した「新興」スタートアップエコシステムのリストでは、ムンバイコペンハーゲンジャカルタが上位を占めています。これらの都市は、同社の評価基準ではまだ上位40位に入っていませんが、初期段階の資金調達額が多く、価値の高いスタートアップが存在します。


WHAT MAKES A CLUSTER?

地理的条件との繋がり

イノベーションは、常に地理的な条件と結びついています。1800年代にはマサチューセッツ州のローウェルに繊維工場が集まり、20世紀前半にはデトロイトが自動車のイノベーションの拠点となりました。経済学者のウィリアム・カー(William Kerr)とフレデリック・ロバート・ニクード(Frederic Robert-Nicoud)は、2020年に発表した論文で、歴史上の技術クラスターに共通する要因をまとめました。

🏙️ 大きさと多様性:さまざまなバックグラウンドをもつ人びとが集まる密集した場所では、人とアイデアがより混ざり合います。また、規模が大きいほど、イノベーションの妨げとなる単一産業の支配を避けることができます。

🎓 大学:科学者やエンジニアに依存する「テッククラスター」は、だいたい研究大学の近くに生まれます。

🌴 生活の質:技術者は高学歴で裕福な人が多いので、住む場所の選択肢が多い傾向にあります。気候がよく、いろいろなことができる場所が有利です。

🤞 運:ビル・ゲイツとポール・アレンは、マイクロソフトをアルバカーキからシアトルに移転させましたが、それはシアトルが彼らの故郷だったから。「当時、アルバカーキは住むのに適した場所だと考えられており、マイクロソフトの初期の従業員のほとんどが好んで住んでいたし、初期の顧客の多くがここに住んでいた」と、カーとロバート・ニクードは書いています。このちょっとした偶然が、テック業界の地理を永遠に変えてしまったのです。


THE REMOTE STARTUP

進化するリモート

リモートワークがなくなることはありません。しかし、リモートワークの次の段階は、ここ1年半で経験したものよりもさらに大きな変革をもたらすだろうと、フリーランスワークのプラットフォーム「Upwork」の労働経済学者、アダム・オジメック(Adam Ozimek)は言います。

ほとんどのリモートワーカーは、自分の会社が最終的にどこでも仕事ができるような方針に落ち着くと思ってはいません。パンデミック中に移動した人も、遠くには行っていないのです。しかし、「これは氷山の一角にすぎません」とオジメックは言います。より多くの企業がリモートワークに関する長期的な方針を明確にすれば、さらに多くの人が大移動を検討するようになるだろうと彼は予想しています。Upworkが2万人の米国人を対象に行った調査によると、42%の人が現在住んでいる場所からクルマで4時間以上離れた場所への引っ越しを検討していることがわかりました。

「労働者と企業がどこにいてもつながることができるようになれば、(人材に)アクセスするために超一流の都市に会社を置く必要がなくなるのです」とオジメクは『Quartz』に語っています。オジメックは、この論理が資金調達にも当てはまると考えています。

リモートワークの機会がテック業界に広がっていけば、業界の多様化が進む可能性があります。現在、サンフランシスコなどの住宅価格の高さは、技術者やスタートアップ企業の創業者を目指す人たち、特にリモートで資金調達できるコネクションをもたない人たちにとって大きな障壁となっています。オジメックは、「これは成長するには重い負担です。コストの高い地域以外でスタートアップが設立され、規模が拡大することが大いに期待されます」と述べています。


PREDICTION🔮

今後の予想

VCのイニシャライズド(Initialized)のパートナーであり、元テックジャーナリストのキム=マイ・カトラー(Kim Mai-Cutler)は、シリコンバレーは今後、これまでのような場所ではなくなるだろうと予測しています。

「パンデミック後のベイエリアは、クラウドに次ぐテクノロジーの中心地となるでしょう。パンデミック前には、創業者が会社を設立する場所として、ベイエリアが第一候補に挙がっていました。ニューヨークやシアトルなど、2番目や3番目に遠い都市もたくさんありました。しかし、パンデミック後は事情が異なります。40%以上の創業者が、会社を設立するのに最も適した場所はクラウドであると答えています。今後は、分散型企業や遠隔地にある企業が、ベイエリアに拠点を置くベンチャー企業を駆逐していくことが予想されます」

今年の初め、マイ・カトラーはInitalizedの投資先企業を調査し、パンデミック後に主要なオフィスをもつ予定の企業は27%に過ぎないと報告しています。

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ONE 💸 THING

最後に…

移転を検討しているのはテック系だけではなく、銀行も同じです。しかし、技術者たちがテキサスやフロリダに目を向ける一方で、何年も前にこの地にオフィスを構えた銀行は、そこから撤退すべきかどうか悩んでいます


今日のニュースレターは、エグゼクティブエディターのWalter Frick(地理学を副専攻)、テックレポーターのNicolás Rivero(マイアミ在住のエキスパート)がお届けしました。日本版の翻訳は福津くるみ、編集は年吉聡太が担当しています。みなさま、よい週末をお過ごしください!


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