Weekend:習近平が夢見る「資本主義」

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中国の政府関係者は約半世紀にわたり、人類史上最大級の経済改革を指揮してきました。集団農場と飢餓から、世界をリードするハイテク企業、そして、超高速鉄道で結ばれたきらびやかな「メガシティ」へと変化したのは、中国共産党のユニークな資本主義モデルのおかげです。このモデルは、中央統制と市場原理の組み合わせで、8億人以上の中国人を貧困から救い出しました。

しかし、中国のいわゆる「中国の特色ある社会主義」(socialism with Chinese characteristics)は、自由市場経済にありがちな行き過ぎをもたらし、その行き過ぎた部分が、政府と民間企業の関係を混乱させています。経済のバランスを取り戻そうとする習近平国家主席のビジョンを紹介します。

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習近平政権は、企業の影響力を制限するために、Eコマースの巨人、アリババ(Alibaba、阿里巴巴)や配車サービスのスタートアップ、ディディ(Didi Chuxing、滴滴出行)などの大手企業を意図的に追いやり、中国で最もダイナミックな企業から何十億ドルもの市場価値を奪ってきました

また、住宅バブルを懸念して、危機に瀕しているエバーグランデグループ(Evergrande Group、中国恒大集団)のような不動産開発業者の借り入れを制限してきましたが、不動産セクターの「改革」は、経済全体に悪影響を及ぼす可能性もあります。

習近平は、製造業を衰退させかねない電力不足への対処も迫られていますが、これは、二酸化炭素排出量の削減という習近平自身が定めた目標がもたらした危機でもあるのです。

政府の改革は、一般労働者に富を行き渡らせ、権力を守るためのものかもしれません。しかし、党の支配が市場の力に取って代わることで、経済が混乱し、イノベーションが阻害される可能性もあります。中国共産党(CCP)はその地位を維持するために、結局のところは、力強い経済成長に依存しているのです。もし、中国政府が資本主義を修正しようとする試みがうまくいかなければ、経済と権力の関係は、今後も揺らぎ続けることになるでしょう。


The backstory

変化のウラ側で

  • かつて成長エンジンだった不動産業界は、いまやリスクに。専門家によると、不動産業界は中国のGDPの約3分の1を占めていますが、その成長は桁外れの負債をもたらしました。政府は現在、この負債を解消しようとしていますが、不動産業界の活動が20%低下すると、中国のGDPに10%もの損失を与える可能性があります。
  • 当局は起業家と対立している。中国の民間企業に対する規制強化は、ビリオネア起業家の公的な位置づけが変わりつつあることも意味します。その象徴的な例が、ジャック・マーです。かつては中国のデジタル経済の顔と見なされていましたが、いまでは邪悪な資本家のシンボルとなっています。昨年、規制当局を批判したアリババの共同創業者は、アリババ傘下の金融会社、アント・グループ(Ant Group)の待望のIPOを中国当局が延期に追い込むのを、黙って見ているしかありませんでした。
  • エネルギー不足がビジネスを妨げている。中国の電力不足は、9月になると、東北地方の住民にとって本格的な危機に発展。彼らは断続的な停電に何時間も耐えなければなりませんでした。この問題は、習近平の気候変動目標を達成するために地方政府が引き起こした停電や、中国の発電所への供給不足につながった石炭価格の高騰など、さまざまな要因が絡み合っています。

WORDS OF WISDOM

今週のひと言

「これはファウストが悪魔と交わした契約のようなもので、はっきりとは述べられていないが、理解はされていた。あなたの政治的代表権はゼロだが、経済は順調に推移しているということだ」

──Fraser Howie(『Red Capitalism』の共著者)


What to watch for next

これから注目すべきこと

  1. 不動産に代わるものは? その答えはすぐには見つかりません。経済学者によれば、恒大集団(Evergrande Group)の債権者への未払い額が積み上がるなか、エコノミストたちは、中国は消費などの新たな成長エンジンを見つける必要があると指摘しています。
  2. …ただし、消費は芳しくない。中国の人びとは、パンデミック前も特に浪費していたわけではありませんでした。いまは、上記のエバーグランデ騒動や停電、経済の減速などで、消費者はさらに財布の紐を締めています
  3. 投資家は中国を注視👀している。世界のトップ投資家たちは、熟考しています。ソロス・ファンド・マネジメント(Soros Fund Management)は中国に資金を投入しないとし、キャシー・ウッドのアーク・インベストメント(ARK Invest)は中国株の売却を進め、当局の「機嫌を取っている」企業の株だけを手元に残しています。
  4. 習近平による「共同富裕」の推進。習近平国家主席は、富の再分配を目的とした固定資産税の導入など、その具体的な内容をついに明らかにしました。しかし、習近平は党内の強い反発に直面しています。一部の政府関係者は、固定資産税の導入によって住宅価格が下落し、消費や家計、そして経済全体に悪影響を与える可能性があると懸念しています。
  5. 党内抗争。UBSの元チーフエコノミスト、George Magnusは、景気の減速が中国共産党内の混乱を招く可能性があると見ています。これまでは、「習近平と対立する者は処罰されたり、投獄されたりする傾向にあったため、派閥争いはほとんどなかった」と指摘。しかし、経済の低迷がこうした状況を変える可能性があります。

ONE 💡 THING

中国失速の余波

中国の経済は輸出主導型のため、米国への依存度は、米国の中国に対する依存度よりも高いことは明らかです。しかし、中国経済の影響を一切受けない国などありません。中国経済の失速は、あらゆる地域で不安を引き起こすことになるでしょう。

  • 外国人投資家は、昨年時点で、中国の株式・債券市場の約3.5%を保有していました。わずかな割合とはいえ、その額は数千億ドルに達します。
  • 中国に商品を輸出しているオーストラリアや、アジアの巨大企業に産業機器などを販売しているドイツといった国は、需要の減少によって打撃を受けるでしょう。
  • 中国は米国債の世界最大の顧客の一つであり、もし中国が米国債の購入ペースを下げれば、米国は金利を上げて他の顧客を呼び寄せなければならなくなり、米国経済全体の金利に影響を与える可能性があります。
  • ある研究によれば、中国の「成長ショック」は、欧米諸国よりもアジアの新興経済国やBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の他の国々に大きな打撃を与えると見られます。

悲観的な話ばかりではありません。中国と同様に輸出主導型の経済である日本では、1990年代にGDP成長率が低下しましたが、米国やヨーロッパへの影響はほとんどありませんでした。一部のエコノミストは、中国の成長が鈍化したとしても、当時と同じく、世界の多くの地域はほとんど影響を受けない可能性もある、と主張しています。


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今日のニュースレターは、Jane Li(香港レポーター、消費に目を光らせている)と、John Detrixhe(シニア・レポーター、電子マネーにハマってる)がお届けしました。


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