Company:まだ知らなかったNetflixのこと

Company:まだ知らなかったNetflixのこと
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「75億という数字から始めましょう。これは地球上の人間の数です」。ネットフリックスの最高プロダクト責任者(CPO)グレッグ・ピーターズ(Greg Peters)は、2018年のウェブサミット(Web Summit)で聴衆にこう語りかけました。「このうち15億人は多かれ少なかれ英語を話します。3億6,000万人は英語が母語か、もしくは第1言語です。これは世界人口の5%に過ぎませんが、それでもグローバルなコンテンツの大半は、ひとつの場所で英語で制作されています。ハリウッドです」

ピーターズは続けて、2014年にネットフリックスが下した重要な決定について話をしました。ネットフリックスはこの年、初めて外国語のオリジナルドラマシリーズを2本(メキシコ向けの「クラブ・デ・クエルボス」(Club de Cuervos)とフランス向けの「マルセイユ」(Marseille)を制作したのです。2016年には、意外にもブラジル向けのスリラー「3%」が世界的なヒットとなりました。

以来、フランスの「Lupin/ルパン」(Lupin)、インドの「聖なるゲーム」(Sacred Game)、スペインの「ペーパー・ハウス」(Money Heist)、メキシコの「エリート」(Elite)などが世界中で人気を博してきました。そして、韓国の「イカゲーム」(Squid Game)も、そのひとつです。

「イカゲーム」はネットフリックス史上最も成功したといえるドラマで、1億4,200万件を超えるアカウントで少なくとも2分は視聴され、92カ国でランキングの首位に立ちました。ネットフリックスの試算では、作品の価値は約9億ドル(1,026億円)に上るそうです。

ソーシャルメディアで育った若い世代のテレビファンにとっては、世界で同じ番組がヒットするのはごく普通のことなのかもしれません。あるベテランのテレビプロデューサーはニュースサイト『Vox』のインタビューに、「(Z世代は)1日中、世界中の人びととともに時間を過ごしています。彼らは必ずしも自国の文化や言語とだけ向き合っているのではありません」と話しています

一方、ネットフリックスにとっては、これは意図的かつ必要不可欠なことなのです。米国とカナダでの新規契約は頭打ち傾向で(直近の四半期のアカウント純増分440万件のうち、北米はわずか7万件にとどまっています)、将来的に事業拡大の余地があるのは世界の他の地域ということになります。

ネットフリックスが今年だけでオリジナルコンテンツに170億ドル(1兆9,375億円)を費やしたのはこのためで、おかげで成長基盤の構築は終わり、一息つくことができたようです。ただ、同社は米国では現在、デイヴ・シャペルの問題発言(「デイヴ・シャペルのこれでお開き」でのトランスを揶揄するジョークをめぐって批判の声が上がっている)の扱いを巡る社会的批判社内での抗議運動への対応に追われています。


BY THE digits

数字でみる

  • 2億1,400万件:第3四半期(7〜9月)のアカウント総数
  • 440万件:同四半期のアカウント純増数
  • 1.6%:同四半期の新規アカウントに占める米国とカナダの割合(純増分の50%はアジア・太平洋地域)
  • 35%:アカウント全体に占める米国とカナダの契約者の割合
  • 75億ドル(8,548億円):第3四半期の売上高。前年同期比16%の増収
  • 1億4,200万件:9月17日の配信開始からこれまでに「イカゲーム」を視聴したアカウントの数
  • 8,300万件:「イカゲーム」以前の記録だった「ブリジャートン家(Bridgerton)」を配信開始から28日間で視聴したアカウントの数
  • 6%:テレビ視聴時間に占めるNetflixの割合(YouTubeとの合計で計算)
  • 50%:2020年に米国の契約者が外国語コンテンツを視聴した時間の伸び
  • 5億ドル(568億円):2020年の韓国語コンテンツへの投資額

Growth mindset

成長の軌跡(と暗雲)

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Netflix’s next targets

次のターゲット

ネットフリックスは国ごとのコンテンツ投資の詳細を明らかにしていませんが、どの国や地域を重視しているかを推測できる動きを紹介しておきましょう。

  • フランスのテレビ黄金期。「Lupin/ルパン」はフランスの国内向けの作品でしたが、視聴者の87%は国外の契約者でした。フランスでは現在、ドラマと映画合わせて20本の新作の投入が予定されています。また、ネットフリックスは昨年1月にパリにオフィスを開設しました。なお、強盗犯罪を扱ったドラマは人気が高く、今後もグローバル向けに新作を投入していく予定です。
  • アフリカからの物語。12億人の人口を誇るアフリカ大陸はネットフリックスにとって大きなビジネスチャンスです。「クイーン・ソノ」(Queen Sono)や「キング・オブ・ボーイズ」(King of Boys)といったオリジナルドラマのほか、米国のシットコムを現地の言葉で吹き替えて配信しています。アフリカの一部の国では価格を抑えたプラン(無料のものもあります)の提供も始めました。
  • インドでの新たな挑戦。インドでは年間2,000本の映画が制作されており(この数字は米国を上回っています)、ネットフリックスにとって一国で最大のマーケットとなる可能性を秘めています。ネットフリックスは2016年のインド進出以来、モバイル機器限定の低価格なプランの導入や、インターフェースでのヒンディー語の追加、インド向けの作品への投資拡大といった措置を取ってきました。2018年に配信されたクライムサスペンスの「聖なるゲーム」は、現在もインドで最も試聴された作品という地位を維持しています。
  • アニメに注力。ネットフリックスによれば、2020年には世界で1億件を超えるアカウントが最低でも1本はアニメ作品を視聴しました。アニメを観たアカウントの数は前年比で50%増加しています。ネットフリックスは昨年、アニメ専門のクリエイティブチームを立ち上げました。

Words of wisdom

けだし名言

「『イカゲーム』がネットフリックスの内部で大きな意味をもつのは、それがわたしたちのグローバルな戦略が正しかったことの完璧な証明だからです。わたしたちはずっと、本格的な地域向けの作品は世界でも広く受け入れられると信じてきました」

──アジア向けコンテンツ担当ヴァイスプレジデント・キム・ミニョン(Kim Minyoung)


What to watch next

次に観るなら

Netflix上で観られるコンテンツの数は増加の一途をたどっています。そこで、QUARTZのグローバルスタッフに英語以外の言語でおすすめの作品を教えてもらいました。

🇳🇴 ホーム・フォー・クリスマス」(Home for Christmas)はノルウェー版「ブリジット・ジョーンズの日記」と呼ばれるロマンチックコメディ

🇫🇷 「エージェント物語」(Call My Agent!)はタレントエージェンシーの内幕を描いたフランスのドラマ

🇮🇹 「ローズ島共和国 ~小さな島の大波乱~」(Rose Island)は実話に基づいたキュートで楽しいコメディ映画

🇰🇷 「愛の不時着」(C lash Landing on You)は北朝鮮を舞台にした韓国のコメディドラマ

🇩🇪 「ビリオンダラー・コード」(The Billion-Dollar Code)はGoogle Earthの誕生秘話を取り上げたミニシリーズ


One 🦑 thing

知っておきたいこと

「ここにいる誰もが、とてつもない額の借金を抱えて崖っぷちに立っている。家に帰って借金取りに追われながら、ゴミのように残りの人生を送りたいだろうか。それとも、わたしたちが提示する最後のチャンスをつかみたいと思うか」

──ピンクのジャンプスーツを着たゲームの監視員

「イカゲーム」の根底には、韓国の経済格差という苦いテーマがあります。同国の個人負債の総額は主要国で3番目の速さで拡大を続けているほか、人口の約8%は3つ以上の金融機関から同時にお金を借りています。高齢者の貧困率は2018年に43%に達しており、これは経済協力開発機構(OECD)平均の3倍です。

こうした懸念すべき状況が始まるきっかけとなったのは、1997〜98年のアジア金融危機だと考えられています。韓国はこのとき国際通貨基金(IMF)に緊急融資を要請し、救済条件として課された財政再建プログラムのために200万人近くが職を失いました。このIMFによる経済管理体制は、韓国ではIMF危機とも呼ばれています。


今日の「The Company」ニュースレターは、エグゼクティヴエディターのKira Bindrimがお届けしました。日本版の翻訳は岡千尋、編集は年吉聡太が担当しています。


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