Startup:みんなでつくる、通信インフラとWeb3.0の世界

Startup:みんなでつくる、通信インフラとWeb3.0の世界

Next Startups

次のスタートアップ

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Quartz読者のみなさん、こんにちは。土曜昼にお届けするこの連載では、毎回ひとつの「次なるスタートアップ」を紹介しています。今週は、ブロックチェーン技術で世界初のP2Pワイヤレスネットワーク構築を目指す「Helium」を取り上げます。

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Image: PHOTO VIA HELIUM

Helium
・創業:2013年
・創業者:Shawn Fanning 、Amir Haleem、Chris Bruce、Sean Carey
・調達総額:1億6,480万ドル(約187億5,000万円)
・事業内容:分散型ワイヤレスネットワークの構築

WHO IS Helium

Heliumとは

Heliumは、世界初の分散型5Gネットワークです。通信キャリアがインフラを構築を担うのではなく、ネットワーク構築に参加する個人がルーターを購入し、自らが基地局(=ホットスポット)になります。

低電力の無線デバイスが相互に通信し、街全体がWifiで覆われるイメージです。個人と個人とがつながることで全体がつながる「People’s Network」です。

Heliumの独自技術「LongFi」は、低消費電力及び長距離通信が得意な「LoRaWAN」という通信規格に、ブロックチェーンの仕組みを組み合わせたものです。省電力で広域をカバーできるため、IoT用途での利用に適しています。通信距離はWifiの200倍で、50〜100基でひとつの都市全体をカバーでき、速く安くインフラを敷設できます。

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Image: PHOTO VIA HELIUM

ホットスポットには、通信カバレッジの提供(Proof of Coverage)と通信したデータ量に応じて、報酬として独自トークン「HNT」が与えられます。HNTはバイナンスなどの取引所で上場されていて、現金に交換できます。HNTは「DC(=Data Credit)」に交換してHeliumネットワークの利用料として使用することもできます。

ホットスポットになることで、電気代が月300円として、HNT価格でおよそ月3万円ほどを稼げます。周辺300メートル圏内には他の端末を設置できない、早いもの勝ちの取り合いが起きています(10/29現在のHNTの時価総額は約3,350億円、トークン全体で55位)。

通信キャリアが中央集権的に担ってきた通信インフラの敷設には巨額の設備投資がかかり、高額な通信料金となってユーザーにしわ寄せが来ていました。Heliumではこの設備投資負担をユーザー間で分担することで軽減し、通信することで「料金を支払う」から「報酬を受取る」への逆転現象を実現しました。

2019年7月にローンチされたHeliumですが、ホットスポットはたった2年で世界144カ国25万カ所にまで広がり、全世界を覆い尽くすネットワークの構築に向け邁進中です。対応ルーターは50万台以上のバックオーダーを抱えて品切れ状態、50社以上の企業がルーターの製造業者として認可申請中など、熱狂の渦が巻き起こり始めています。

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Image: PHOTO VIA HELIUM

Social implementation

進む社会実装

HeliumのネットワークはIoTのデータ通信に適しており、セルラーネットワークと比べて圧倒的に安く提供できます。Heliumはこれを武器に「あらゆるものがインターネットにつながる」世界の実現を目指しています。

「一般人が基地局の通信ネットワークなんて、本当に使われるのか?」と思うかもしれませんが、米国では利用が急速に広がっています。

  • ネスレのウォーターサーバー事業「ReadyRefresh」では、ウォーターサーバーの水量を常時管理し、タンクへ補充タイミングを最適化
  • シェア電動スクーター「Lime」では、eBikeやスクーターの位置情報を常時管理し、各デバイスの走行距離管理や盗難紛失対応
  • 大気汚染管理サービスの「Airly」では、屋外に据え付けたデバイスによって常時大気中の排出物をモニタリング
  • カリフォルニア州サンノゼ市はスマートシティ化に伴いHeliumを採用。大気汚染モニタリングや山火事対策に向けた火災の発見、低所得者向けにインターネットアクセスの提供を行う

Heliumでは、全ホットスポットで誰が、いつ、いくらのHNTを受け取ったか、そして自分がどの端末とどう繋がって報酬がもらえたのかなど、あらゆる情報がオープンになり、すべてブロックチェーン上に書き込まれます。そのため、虚偽の報告はネットワーク参加者によって監視され、サーバーハッキングに備えたコストなどもかかりません。

創業者も筋金入りで、「ナップスター」(Napster)の共同創業者ショーン・ファニング(Shawn Fanning)とプロゲーマーで開発者のアミア・ハリーム(Amir Haleem)のコンビです。

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Image: ショーン・ファニング(左)とアミア・ハリーム(右) PHOTO VIA YOUTUBE

ナップスターはユーザー間で自分の音楽ファイルを共有しやりとりできるシステムで、世界をあっと驚かせた伝説のスタートアップです。著作権侵害で訴訟を受けサービス停止に追い込まれますが、基盤となったP2P技術はブロックチェーンという強力な武器を得て、20年の時を経てこの世界に舞い戻ってきました。

The role of tokens

トークンの果たす役割

ネットワーク効果(ネットワーク外部性)」とは、使う人が多いほど価値が高まる現象です。電話もメールもSNSも参加者が増えれば増えるほど価値や効用が高まります。テック企業が競争優位や参入障壁を築くための大きな要素であり、「テック企業の価値の70%はネットワーク効果から生み出されている」との調査もあります。

オープンでフラットな社会を目指す「Web3.0」では、ブロックチェーン技術を基盤とした「トークン」がインセンティブ構造として大きな役割を果たします。Andreessen Horowitz(a16z)のクリス・ディクソン(Chris Dixon)はこの点に関してHeliumを例に「ネットワーク効果のコールドスタート問題」について解説しています。

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Image: クリス・ディクソン

どういうことかと言うと、FacebookにしろメルカリにしろUberにしろ、ネットワーク効果が発現するまでの初期段階では、大量のユーザー獲得やユーザーが感じる不便の穴埋めに巨額の投資が必要です。社会にとって有益でも、立ち上げ期の負担が重すぎて実現しなかったプラットフォームも多かったと考えられます。

クリス・ディクソンによれば、「トークンがもたらす金銭的なインセンティブが、この問題の解消に繋がる」というのです。Heliumで初期にホットスポットになった人は、ユーザーもいないネットワークでは思うように稼げませんが、代わりにHNTを安い時に獲得できます。自らルーターを購入して基地局になる人をあっという間に20万人確保できた理由は、初期ユーザーに提供されるHNTトークンの値上がり益期待があるからです。

やがて参加者が増えればHNTの価格は上昇し、追加の上昇余地は限定的となるため、新たにホットスポットになる人の経済メリットは減少していきます。これを補完するように、Heliumのネットワークが充実してくれば参加者が感じる効用は高まっていきます。ディクソンは自身のツイートで以下のように図示しています。

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Image: PHOTO VIA TWITTER

大手キャリアに対抗する通信インフラを草の根で構築する」とは、一見不可能にしか思えないアイデアです。しかし、これが現実のものとなりつつある「Helium現象」は、トークンを通じた適切なインセンティブ設計によって、Web3.0の世界で起業家が実現可能なイノベーションの大きさを彷彿とさせてくれます。

久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。ベンチャーキャピタリスト。主な投資先はメルカリ、Hey、RevComm、CADDi等。外資系投資銀行にてテクノロジー業界を担当し、創業メンバーとしてWiLに参画。本連載のほか、日経ビジネスで「ベンチャーキャピタリストの眼」を連載中。NewsPicksプロピッカー。慶應義塾大学経済学部卒業。Twitterアカウントは@kubotamas


🗓 Save the date!

『Off Topic』とのコラボレーションで実施してきたウェビナーシリーズ。いよいよ最終回となる第4弾は、11月25日(木)20:00〜21:30に開催する予定です。参加申込みはこちらからどうぞ!。


Column: What to watch for

インドで話題の…

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Image: PHOTO VIA NYKAA

インドの元投資銀行家のファルグニ・ナヤル(Falguni Nayar)が2012年に設立した、コスメのEコマースを手がけるナイカ(NyKaa)は、11月11日にインドの証券取引所に上場する予定。評価額は約70億ドル(約8,000億円)を目指します。出口戦略がないことで知られるインドのスタートアップ界にとって、フードデリバリーのゾマト(Zomato)に続く大型IPOの実現は朗報でしょう。

Nykaaの成長を後押ししたのは、SNS戦略です。著名人を含む3,000人以上のインフルエンサーと提携し、月間平均3億〜3億5,000万人のアクティブユーザーにリーチ。オンライン販売は売り上げの95%以上を占めます。しかし、それはまた株価に影響を与える恐れのある「感情的なデータ」の山でもあります。自らを守るために、強力なソーシャルメディアポリシーの導入や危機コミュニケーション計画は必須です。

(翻訳・編集:鳥山愛恵)


🚀 次回の「Next Startup」は、11月13日(土)配信予定です。

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