Weekend:ザッカーバーグの見ている景色

Weekend:ザッカーバーグの見ている景色
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先週行われたフェイスブックの決算説明会の最中、ウォール街のアナリストたちが、最近同社に相次いだ批判について、言及することは一切ありませんでした。1月6日の米連邦議会議事堂乱入事件をはじめ先鋭化する世界に対する「Facebook」の関与を訴える流出文書(いわゆる「Facebook Paper」)など、あたかも存在しないかのように。なぜなら、フェイスブックとその投資家にとって、それらはほとんど存在しないも同然だからです。

メディアや評論家からすると同社存亡の危機のように見えても、カリフォルニア州メンローパークにある本社にその印象はありません。ここでCEOのマーク・ザッカーバーグが注目しているのは、全く別の存亡の危機──プラットフォームの変化──なのです

1970年代以降、シリコンバレーの巨人たちが成功したのは、ゲームのルールが進化すれば、既存の企業に取って代わることができるということを発見したからです。大型コンピュータからデスクトップ、そしてスマートフォンへの移行は、新たなライバルに王座への道を拓きました。デスクトップへの移行でIBMはマイクロソフトに負け、モバイル端末の登場でマイクロソフトはアップルに負け、そして、ソーシャルネットワーキングサービスの台頭で、誰もがフェイスブックに敗れたのです。

いまやフェイスブックは、30億人以上のユーザーを抱える時価総額8,900億ドル(約100兆円)規模の企業であり、その評価額は2016年と比較すると3倍になっています。同社の評判は悪くなったかもしれませんが、フェイスブックは王者となったいまも、スタートアップ時代の教訓を忘れてはいません。ザッカーバーグの最大の関心事は、18歳から29歳のユーザーをつなぎ止めることです

フェイスブックは過去に、この難問を解決する方法を学習しています。最終的に、「Instagram」と「WhatsApp」を買収することで、何十億もの人々の生活の中にFacebookの居場所を確立することができました。しかし、警戒心の強い規制当局がこの方法を封じたため、フェイスブックは新たなプラットフォームを支配することで、挑戦者たちを撃退しようとしています。それが、「メタバース」です。ザッカーバーグは、メタバースでは、デジタルウエア、デジタル空間、そして、まったく異なる(理想としてはフェイスブックが定義する)デジタル体験が必要になると予測しています。彼の目標は、「1日に10億人の人々が利用する数千億ドル規模のデジタルコマース」だそうです。

今年巻き起こった批判の声と激しい怒りが過ぎ去っても、フェイスブックにとって長期戦であることに変わりはありませんが、その名前は変わります。親会社の名前は、「メタ」(Meta)になりました。フェイスブックは、次なるプラットフォームの変化を生き延びるだけでなく、再びそれを定義したいのです。それ以外のことは、ただの雑音にすぎません。


The backstory

変化のウラ側で


THAT’S SO META

メタ、メタ、メタ…

テック企業のブランド名変更は、フェイスブックが初めてではありませんが、自らの名前を変えることでパラダイムシフトを先導しようとしたのは、フェイスブックが初めてかもしれません。

ここでは、メタの華々しいデビューについて分かっていることを紹介します。

📈 Metaブランドの獲得が進んでいる。フェイスブックは、すでに「Twitter」の@metaアカウントmeta.comを使用しており、12月にはMVRSというティッカーシンボルで株取引を開始する予定です。皮肉なことに、「Instagram」の@metaアカウントは所有していません

♾️ 新しいロゴは…評判がいまいち。メタの「インフィニティシンボル」は、プレッツェルやプリングルス(Pringles)、エクササイズ器具のThigh Master、IBMのデザイン・シンキング・ループ、そして、当然のことながら男性器とも比較されています

🥽 シリコンバレーのメタはこれが初めてではない。2013年に同名のAR(拡張現実)企業が、エンタープライズ分野を視野に入れて創業されました。こちらのメタは、7,300万ドル(約83億円)の資金を確保したものの、2019年に閉鎖されています


What to watch for next

これから注目すべきこと

  1. 具体的な技術開発。ザッカーバーグが描くメタバースのビジョンと、フェイスブックが現在提供しているVR(仮想現実)には、大きなズレがあります。VRのクオリティ、クラウドコンピューティング、データセキュリティ、プライバシーなど、同社は大きな技術的課題を解決しなければなりません。
  2. よりよい、より手頃な価格のハードウエア。メタバースに「飛び込む」には、(いまのところ)ヘッドセットが必要です。現在手に入る製品の中には数千ドルするものもあり、フェイスブックのオキュラス(Oculus)でさえ300ドル(約3.4万円)。何時間も続けて使うにも少し不便です。
  3. オンラインガバナンスの強化。メタが構築しようとしているのは、「友人や家族と集い、仕事をし、学び、遊び、買い物をし、創造する」ための場所であり、それは、都市によく似ています。そして、他の都市と同様に、メタバースにもルールや境界、インフラが必要です。少なくとも、これらはフェイスブックの得意分野ではないということだけは、付け加えておきます。
  4. メタバースは1つなのか、それとも…。 インターネットは教育機関や、政府が出資する研究が中心となって構築されましたが、メタバースは民間企業の産物です。ザッカーバーグはメタがフレームワークを提供したいと考えていますが、競争相手もいます。いまのところ、プロトコルを共有する形で1つのメタバースとなるのか、それとも異なる企業・団体が管理する複数のメタバースとなるのかは不明です。
  5. フェイスブックの戦略変更の歴史。2013年、フェイスブックは、5年以内にコンテンツがすべて動画になる確信していました。結果的には、多くのソーシャルネットワークが動画に移行しましたが、フェイスブックはこの動きに迅速に対応することができませんでした。メタが競争に勝ちたいからといって、必ずしもそうなるとは限らないのです。

ONE 💡 THING

変化のハードル

なぜ、プラットフォームの移行はこれほどまでにハードルが高いのでしょうか。答えは、あなたがどの研究者に尋ねるかによって異なります。「破壊的イノベーション」という言葉を生み出した経営学の権威、故クレイトン・クリステンセンは、膨大なリソースをもつ既存企業がスタートアップ企業に負けてしまうのは、既存顧客の声に耳を傾けすぎているからだと指摘しています。ザッカーバーグが古参のFacebookユーザーのニーズを明らかに軽視しているのは、そのためかもしれません。

しかし、多くの研究者は、クリステンセンの理論は過大評価されていると考えています。ハーバード・ビジネス・スクール教授のレベッカ・ヘンダーソン(Rebecca Henderson)は、もうひとつの「破壊」の概念を提唱しています。既存企業が失敗するのは、製品やビジネスの「構造」全体を変更しなければならないときだ、というものです。

つまり、フェイスブックは、アルゴリズムの仕組みやユーザーが投稿できるコンテンツの種類など、個々の「構成要素」を変更することで、スタートアップと差をつけることができる一方、テクノロジーが全体の仕組みを変えてしまった場合は苦戦を強いられる可能性がある、ということです。メタバースは、こうした「構造」自体の変化をもたらす可能性があり、その場合、古いユーザーの声を無視するだけでは不十分かもしれません。


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🎧 『Off Topic』とのコラボレーションで実施してきたウェビナーシリーズ。いよいよ最終回となる第4弾は、11月25日(木)20:00〜21:30に開催する予定です。参加申込みはこちらからどうぞ!。

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