約2世紀にわたって世界の経済を動かしてきたのは、石炭、石油、天然ガスといった化石燃料です。しかし、壊滅的な気候変動を回避するためには、温室効果ガスをほとんど/まったく排出しない新しいエネルギー源に移行する必要があります。それも、可及的速やかに。
太陽光発電や風力発電は素晴らしいものですが、それだけでは十分な効果は得られません。経済はよりクリーンな電力だけでなく、より多くの電力を必要としています。
気候テックに資金が集まり、大手エネルギー企業が脱炭素化を目指すなか、何十年も前から「すぐそこにあるもの」とされてきた最先端のクリーンエネルギー技術のいくつかは、いまや手の届くところにあります。そして、莫大な利益を生み出す可能性をも秘めています。
今日のニュースレターでは、その希望を、大げさな報道とは一線を引いて考えてみます。
💨 GREEN HYDROGEN
#1 グリーン水素
水素と空気中の酸素を反応させて電気を生み出すのが、燃料電池の仕組みです。このとき排出されるのは水だけです。エネルギー効率も高く、製鉄産業などで化石燃料に取って代わる存在となるほか、自動車などの動力源としても期待されています。
水を電気分解して水素を生成するには電気が必要です。その際に使用する電力が再生可能エネルギーである場合、その水素は「グリーン水素」と呼ばれます。風力や太陽光の余剰電力を世界市場で取引可能な製品に変換できるため、将来的にはエジプトやサウジアラビアのように太陽光が豊富な国が水素輸出国として台頭する可能性もあります。
国連は、2050年にはグリーン水素が世界のエネルギー総量の20%を占めると予測しています。しかし、現在のところ流通している水素の99%は、化石燃料をベースにつくられる「グレー水素」で、その製造過程ではCO2が排出されています。発生するCO2を回収し温室効果をゼロにする「ブルー水素」も注目されていますが、グリーン水素の製造コストはブルー水素の製造コストの5倍にもなります。
電力会社や石油・ガス会社をはじめとするエネルギー企業はいま、数百億ドルを投じて世界中で数百のグリーン水素プロジェクトを進めています。例えば、ボルボ(Volvo)は今年6月、グリーン水素を使った実験的な工場から鉄鋼を調達する大規模な契約を結びました。エネルギーコンサルティング企業のウッド・マッケンジー(Wood Mackenzie)は、グリーン水素のコストは2030年までに30%低下すると予測しています。また、炭素排出量に課税する国が増えれば、ブルー水素との競争力も高まると考えています。
⚛️ NUCLEAR FUSION
#2 核融合発電
廃棄物も汚染もなく無限のエネルギーが得られるという夢物語のような核融合の神話は、この数十年で「人類の大きな希望」から「科学者の手の届く範囲を超えたもの」になってしまいました。しかし、今年8月、カリフォルニア州リバモアのローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)が発表した「大きな進歩」や気候危機の緊急性の高まりから、楽観的な見方と投資が新たに増えてきています。
従来の原子力発電が原子核分裂を利用してエネルギーを発生させるの対し、核融合発電は文字通り原子核融合を利用します。これには気の遠くなるような規模の技術的なチャレンジが必要だとされてきました。
現在進行している核融合発電プロジェクトは、どれも安い買い物にはならなさそうです。世界で最も進んだプロジェクトのひとつとされるのが、フランスで建設中の幅約30メートルの装置を備える実験施設「ITER」ですが、その完成までの総工費は250億ドル(約2.85兆円)とされています。
少なくとも35のスタートアップ企業が積極的に核融合に取り組んでおり、ジェフ・ベゾスやビル・ゲイツなどから少なくとも20億ドル(約2,280億円)の民間資金を調達しています。また、3Dプリンターや人工知能など、核融合を成功に導くために必要な補助的テクノロジーも進化し続けています。ただし、投資家や各国政府が、実験室での研究開発を、成功の保証もない何十億ドル規模の本格的な商業プロジェクトへ成長させようとしているどうかは、定かではありません。
🔋 NEXT-GENERATION BATTERIES
#3 次世代バッテリー
発電所でつくられた電気は、そのほとんどがすぐに使用されています。しかし、電気自動車が普及したことや、再生可能エネルギーが発電のタイミングを調整できないこともあり、世界ではより優れた、より大容量のバッテリーを求める声が高まっています。
国際エネルギー機関(IEA)は、現在200kWhのエネルギー貯蔵需要が20年後の2040年には1万kWhに拡大すると予測。市場規模は2027年には2,780億ドル(約31.7兆円)に達し、2040年には石油市場の規模を超えると考えられています。
近年、バッテリー価格は急激に低下していますが、電気自動車用のバッテリーについては高額なままです(一般的な電気自動車用バッテリーの価格は約6,300ドル(約72万円))。そして残念ながら、電池容量を増やすために必要な鉱物(特にリチウムとコバルト)は、最も高価な部品であると同時に、サプライチェーンにおいて人権侵害も引き起こしています。
IEAの報告によると、電力貯蔵に関する特許件数は2005年以降、年14%で増加しています(経済全体の平均が3.5%であることを考えると、その増加が急速なものだとわかるでしょう)。誰もが電気自動車を手に入れられるようになるには、ソジウムや鉄のような新素材が不可欠な存在となるでしょう。
🌽 ADVANCED BIOFUELS
#4 先進型バイオ燃料
植物由来の液体燃料は、燃焼する際にCO2を放出するものの、その植物が成長する際にCO2を取り込んでいるためカーボンニュートラルであるとされます(理論的には)。また、船舶や航空機などについては、そのエンジンの設計上、化石燃料からの移行が比較的容易です。IEAの予測では、2050年にはバイオ燃料の総需要は2倍以上に。航空機の40%がバイオ燃料で動くことになるとされています。
しかし現在、ほとんどのバイオ燃料は石油よりも高価です。また、森林伐採地で栽培された植物を原料とした場合、実際には気候に悪影響を及ぼす可能性があります。
適切な土地利用方法と適切な植物種を用いれば、気候変動にもメリットとなるバイオ燃料を生産することは可能です。しかし、需要を満たせるほどの供給量があるかどうかは定かではありません。
PREDICTION🔮
今後の予想
コストは、大方の予想よりも早く下がるもの。しかし、これまでエネルギー市場の専門家は、クリーンエネルギー技術のコスト低下を予測する際に、あまりにも保守的でした。わずか10年前には、太陽光や風力は最も高価な発電方法のひとつでしたが、現在では世界のほとんどの地域で最も安価な発電方法となっています。
サプライチェーンの制約により、例えばリチウム電池のように価格が下がる技術もありますが、炭素排出権価格の普及や将来の化石燃料市場の価格高騰により、クリーンな代替エネルギーの競争力はいずれにしても高まっていくでしょう。
ONE 📈 THING
最後に…
何年も停滞していたグリーン水素企業の株価が、盛り上がっています。ニューヨークに拠点を置く燃料電池メーカーPlug Powerの株価は、2020年10月〜21年10月の1年で約2倍になりました。カリフォルニア州の燃料電池メーカーであるBloom Energyも、同様の成長を見せています。
モルガン・スタンレーはこれらの企業やその他水素関連企業の評価見通しを格上げし、バンク・オブ・アメリカは、グリーン水素製造の巨人として台頭してきたSiemens EnergyとAir Liquideを「COP26の優良株」に選定しています。
今日のニュースレターは、気候・エネルギーレポーターのTim McDonnellが「COP26」が開催中の英・グラスゴーからお届けしました。日本版の翻訳は福津くるみ、編集は年吉聡太が担当しています。みなさま、よい週末をお過ごしください!
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