不動産データベースを運営するジロー・グループ(Zillow Group)が自分にとってどんな存在なのか。その答え次第で、あなたがいま、人生でどんなステージにあるかがわかります。
銀行からの引き落とし前の残高不足の通知を無視して(冗談半分に)寝室が9部屋もある豪邸を検索している程度なら、あなたは2020年に過去最高の96億ページビューを記録した「Zillow.com」のいちユーザーに過ぎません。
でも、Zillow独自の査定額である「Zestimate」を見ているなら、2008年のサブプライムローン危機で痛手を被っていまだに住宅を所有しているか、加熱傾向が続く住宅市場に興味があるか、あるいはその両方でしょう。さらに、特定の条件を満たす物件が売りに出たことを知らせるスマートフォンの通知に釘付けになってしまうというなら、職場の近くや都市の中心部にいる必要がなくなって、新たな場所で家を買うか借りるかを検討しているのかもしれません。
ジローは2004年、エクスペディア(Expedia)の創業者として知られるリッチ・バートン(Rich Barton)とロイド・フリンク(Lloyd Frink)によって立ち上げられました。ふたりが目指していたのは、住宅市場で売り手と買い手の情報の非対称性を解消することでした。住宅の売買においては、不動産業者は大量のデータにアクセスできるのに対し、購入者(バートンも家を買おうとしていました)は物件の住所さえ知ることはできないという状況だったです。
バートンはNPRの番組で、それは「真っ暗な食料品店で懐中電灯を使って買い物をしている」ようなものだったと話しています。「さらにひどいことに、懐中電灯を持っているのは不動産業者で、どこかを照らしてもらいときはそう頼まないといけないのです」
そこで、不動産査定のアルゴリズムであるZestimateが登場します。Zestimateは不動産関連の納税記録などの公開データ、物件の詳細、ユーザーが共有するデータに基づいて価格を算出します。売りに出ているかどうかは関係なく、すべての住宅について推定価格が表示され、暇つぶしに物件を検索したり、興味本位で家の値段を調べてたりしているユーザーに情報を提供してくれます。ジローは家を買いたい人たちの問題を解決し、Zestimateはこのサイトをひとつの文化にまで押し上げたのです。
ジローは10年以上にわたり、不動産業者や資産管理会社からの広告料で収益を上げてきました。また、トゥルリア(Trulia)、ストリートイージー(StreetEasy)、ホットパッズ(HotPads)といった競合を買収しています。2008年には、「Zillow Offers」のブランド名で事業者が個人の売り手から物件を直接買い取って再販するiBuyer市場に参入しました。ジローも他社と同様にアルゴリズムを利用して短時間でオファーを出し、購入後は必要な修理やリノベーションなどをしてから、自社のプラットフォームで売りに出しています(もちろん手数料や諸経費が上乗せされています)。
ただ、ジローは10月19日に物件の購入を一時的に停止すると明らかにしました。取得はしたものの、修理や審査、サイトへの掲載が終わっていない未処理の物件が溜まっていることを理由に挙げていますが、市場では懸念が高まりつつあります。米国では680万戸の住宅が不足しており、住宅価格も高騰していますが、ジローはこうした状況を引き起こしている原因のひとつなのでしょうか。
BY THE digits
数字でみる
- 110万件:9月末時点でZillow.comで売りに出ている物件の件数。サイト全体では1億3,500万件の物件のデータベースがある
- 96億ページビュー:2020年のアクセス総数。前年比で19%増加
- 30万8,220ドル(3,512万円):現在、ジローが算出している米国の平均住宅価格。米国で35〜65パーセンタイルの範囲にある物件の典型的な価格を指す
- 42%:3年前に住宅価格の中央値が10万ドル(1,139万円)未満だった地域における価格の伸び
- 393%:2020年2月〜2021年2月のジローの株価の上昇率。同社の株価は2021年2月に過去最高となる1株202ドル(約2万3,000円)を付けた
- 50人:2008年のサブプライムローン危機の直後に解雇したスタッフの数。当時の総従業員数の4分の1に相当
- 6,400人:現在の従業員数
- 3%:Zillowなど一般の不動産サイトには掲載されずに売買契約が成立した「Whisper listing」物件の割合
- 130万人:Zillowに掲載されているちょっと変わった物件をシェアするInstagramのアカウント「Zillow Gone Wild」のフォロワー数
HOLDING PATTERN
膠着状態、その理由
iBuyer各社はパンデミックで大きな打撃を受けましたが、市場は再び活況を取り戻しつつあります。業界のリーダーであるオープンドア(Opendoor)が力強い回復を遂げているほか、オファーパッド(Offerpad)はカリフォルニア州に参入しました。一方で、ジローが住宅の直接購入を一時停止しているのは、iBuyer市場にとって懸念材料なのでしょうか。現時点で言えるのは以下のようなことです。
🔥 市場は加熱傾向だが人不足。ジローによれば、需要があまりに急激に伸びたために、住宅の審査や修理、物件のプラットフォームへの掲載といったことをするのに人手が足りなくなったそうです。
💰 システムが悪かった。ジローは今年に入ってから、Zillow OffersでZestimateをそのまま買取価格として使うというシステムの変更を行いました。家を売りたいユーザーが自宅の評価額の下にあるボタンをクリックすると、1日以内に仮のオファーが行われる仕組みです。
🥂 それ以外の事業は好調。ジローは2021年第2四半期に過去最高益を達成しており、Zillow Offersだけでも7,000万ドル(79億7,600万円)の利益を叩き出しています。また住宅ローン事業への投資も始めました。
🤔 ジローの主張を信じない人も。競合他社や市場専門家の一部はジローの説明に懐疑的で、なぜ単純に物件の購入規模を縮小しないのかとの疑問を呈しています。
I ON THE PRIZE
iBuyer市場に注目
THE WORLD OF REAL ESTATE
世界の不動産テック
他の国にはジローとまったく同じ事業形態の企業は存在しませんが、オンラインでの物件探しは世界的に人気があります。どのようなサービスがあるのかご紹介しましょう。
- インド:「99acres」は600以上の都市で事業展開しており、インドの不動産市場が回復すればトラフィックが急増するのは間違いありません。
- 日本:「Suumo」は日本最大の住宅不動産ポータルサイトで、ヤドカリも含むあらゆる顧客にサービスを提供しています。
- フランス:「SeLoger」を使えば、プロバンス地方に住みながら働けるかを確かめることができます。
- 英国:英国で家を買おうと思ったときにまずチェックするサイトは「Rightmove」です。ここでは2000年以降に契約が成立した物件はすべて価格が公開されています。
- ブラジル:「VivaReal」と姉妹サイトの「ZAP Imóveis」は、合わせて月間5,000万人の訪問者数を誇ります。
- 中国:中国の2大不動産サイトは「房天下」と「安居客」です。
- 香港:ゴールドマン・サックス出身のアシフ・ガフール(Asif Ghafoor)は2007年に移住した香港で不動産サイトの情報があまりに断片的だったために「Spacious」を立ち上げました。
SO, *IS* ZILLOW MANIPULATING?
ギワクの価格操作
ジローが住宅の直接購入事業を拡大していたとき、「TikTok」でとある動画の再生回数が240万回を超えました。ラスベガスの不動産会社で働くショーン・ゴッチャー(Sean Gotcher)はこの動画のなかで、同社は膨大なデータを使って特定の区域の物件を適正価格より高い価格で購入するという戦略を取ることで、そのエリアの住宅価格を操作していると主張しています。
ジローはZestimateについて、市場に出回っている物件では中央値のエラー率は米国全体で1〜4%で、買い取りに際しては市場価格を提示していると主張します。これを裏付けるデータもあり、市場アナリストのマイク・デルプレート(Mike DelPrete)が行った分析によれば、2020年以前はiBuyer企業による購入価格は適正価格を1.3%下回っていました。また、少なくとも現時点ではこうした形態のビジネスを行う事業者は損失を出す傾向にあります。
仮にジローが適正価格を上回る価格で不動産を購入していたとしても、市場全体への影響は限られています。iBuyer企業をすべて合わせても、米国の住宅購入件数に占める割合は1%前後に過ぎないからです。それでも、一部の議員たちは連邦取引委員会(FTC)に対し、不動産市場での競争を巡る問題を詳細に調べるよう求めました。
HUNTED HOUSES
変わった家
ユニークな物件や豪邸を探すことの楽しさを完全に伝えることはできませんが、ちょっと変わった家をいくつか挙げておきましょう。
- 🍄 頭がおかしくなったわけではありません。キノコの形をした家(ニュージャージー州フォークト・リバー)
- 🍑 色彩のことは考えなかったみたいですね。壁がすべてピンクのアパート(ネバダ州ラスベガス)
- ⚔️ ここは博物館? 少なくとも孤独に感じることはないかも(ワシントン州チャッタロイ)
- 🧸 寝室だけで18部屋。さらにテディベアの部屋まであります(ニューヨーク州グレート・ネック)
ONE 💡 THING
最後にクイズです
「Zillow」という社名は2つの単語を組み合わせたものですが、その単語とは以下のどれでしょう。
「zippy」(機敏な)と「mellow」(くつろいだ)
「zillions」(膨大な)と「pillow」(枕)
「zilch」(ゼロ)と「low」(低い)
「zest」(熱意)と「billow」(大きな波)
正解は②です。共同創業者のバートンは、不動産のお金とデータという側面を表現するために、「スクラブル」ゲームで点数の高い「Z」というアルファベットを使いたいと考えていました。「Pillow」は”家”という意味合いを表すために選ばれた単語です。
今日の「The Company」ニュースレターは、Camille SquiresとLila MacLellanがお届けしました。日本版の翻訳は岡千尋、編集は年吉聡太が担当しています。
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