Weekend:炭素市場の「理想と現実」

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気候サミット「COP26」で最も意見が分かれる問題のひとつとなっているのが、カーボンマーケット(炭素市場)です。11月3日に行われた会議では、環境活動家のグレタ・トゥンベリが「グリーン・ウォッシュ(見せかけの環境対策)はいらない!」と叫んで会場を後にしましたが、多くの関係者は、低炭素エコノミーを加速させるために何十億ドルもの資金を確保することは可能だと主張しています(ただし、技術的・政治的に非常にデリケートな詳細部分について全員が合意できれば、の話ですが)。

交渉が難航しているのは、排出削減プロジェクトで得られたクレジットを各国がどのように売買するかというガイドラインを定めた、パリ協定第6条です。第6条では、2種類の炭素市場が規定されています。

1つ目は、炭素クレジットの売買に合意した政府間の取引(または、一方の国の民間団体が他方の国の政府にクレジットを販売することを認める場合)。このタイプの炭素市場はすでに存在しており、米カリフォルニア州やカナダ、日本、韓国、スイスは、他国のプロジェクトから得られたオフセットを購入し、それを自国内の脱炭素目標における削減分として計上しています。

そして、2つ目の炭素市場こそが、国連が規制する真のグローバル市場として、1997年の京都議定書で認められた小規模な市場に取って代わることになるでしょう。この新しい市場では、政府や企業は、実質的に取引所として機能する国連の委員会を通じて、クレジットを売り込んだり購入したりすることができます。プロジェクトの開発者がクレジットの売り込みに参加するには政府の承認が必要で、収益の一部は低所得国のための基金に充てられます。ただし、この市場には大きな課題があります。それは、買い手が誰なのかがはっきりしないことです。

この2つのタイプの市場には、現在、明確な基準がないため、これまではほとんど効果がありませんでした。先週配布された第6条草稿は、これらの欠陥を解決できる(あるいはできない)可能性があります。しかし、期待しすぎてはいけません。交渉担当者たちは、過去4回のCOPで、第6条のルールに合意することができておらず、今回も成功する保証はないのです。


The backstory

変化のウラ側で

  • 炭素市場は、排出削減量を取引可能な資産に変える。これらのクレジットは、排出削減プロジェクト(太陽光発電所や森林保全のための地役権など)や、政府の排出量取引制度(キャップ・アンド・トレード)で割り当てられた汚染許容量から算定されます。このクレジットは、費用対効果の高い排出削減方法を求めている民間企業や政府などの買い手に販売されます。
  • 全排出量を削減するよりクレジット購入の方が安上がりな場合も。温室効果ガスによる汚染はグローバルなものであり、排出された場所にかかわらず大気に等しく影響を与えます。つまり、排出が回避・除去された場所にかかわらず、気候変動への恩恵という意味では同じことなのです。理論上は、炭素市場の収益は、他の方法では実現できないような取り組みに資金を提供し(「追加性」と呼ばれる概念)、国や企業がより安価に排出量を削減できる道を切り拓きます。
  • いくつかの炭素市場はすでに存在している。その中には、米国ヨーロッパ中国で特定のセクターに対して法的に義務づけらているキャップ・アンド・トレード市場も含まれているほか、企業が購入するボランタリー・クレジット市場も活況を呈しています。しかし、これらは完璧ではありません。多くのオフセットは、規定されている排出量に実際には対応していなかったり、永続的ではなかったり、炭素市場がなくても行われていたであろうプロジェクトから得られたものだったりするのです(従って、購入者側にとって真の気候変動対策にはなりません)。

HOW IT COULD WORK

カーボン売買の仕組み

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What to watch for next

これから注目すべきこと

  1. 「追加性」を証明する。既存のボランタリークレジット市場では、「追加性」が大きな問題となっています。実際に伐採される危機に瀕していなかった場合、森林保全プロジェクトは本当に炭素クレジットを生み出すことができるのでしょうか? 今後の交渉では、売り手側がさまざまな種類のプロジェクトのベースラインを定める方法についても、合意する必要があります。
  2. 排出量のマッチングか、削減か。「世界的な排出量の全体的な緩和」といった表現は、ある国の排出量を別の国の削減量と相殺する以上のことを市場に求めていることを意味しています。これはつまり、炭素クレジットの購入者は、取引活動が純排出量の削減につながるように、支払った金額相当分よりも少ないクレジットを受け取るべきだ、という考え方です。草稿では、この税金を2~30%と設定しており、途上国はより高い税率を求めています。
  3. 二重計上を防げ。もし、買い手国と売り手国の両方が、売ったクレジットを自国の排出削減量にカウントできてしまうようなことがあれば、市場は骨抜きとなります。
  4. 「取り分」問題。 交渉担当者の中には、各取引の収益の一部を、途上国が適応策として利用できる基金に振り分けるべきだと主張する人もいます。米国をはじめとする富裕国は、国連が管理する市場ではなく、二国間で取引が行われるような場合は、除外するよう求めています。
  5. オリジナルクレジットの扱いは? 京都議定書の下で試行された小規模な炭素市場(クリーン開発メカニズム、CDM)のクレジットをどのように取り扱うかについても、交渉担当者は考えなければなりません。ブラジルやインドなどの国々は、これらのクレジットを引き続き販売したいと考えています。一方で、これらのクレジットは時代遅れで、使用すべきではないとする意見もあります。

ONE 🛢️ THING

変化のハードル

炭素市場での戦いが続くなか、最近、最もインパクトのあったCOP26の発表といえば、化石燃料の段階的廃止に関するものです。米国を含む20以上の国や機関が11月4日、来年末までに自国外のほとんどの石油・ガスプロジェクトに対する国際開発資金の提供を終了することで合意しました。海外の化石プロジェクトへの最大規模の出資者である中国と日本は、このリストに加わりませんでした。

もっとCOP26の情報が必要ならば、英グラスゴーの現場にいるQuartz記者たちが、最新情報を英語版の特別ニュースレター「Need to Know: COP26」でお伝えしています。


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🎧 『Off Topic』とのコラボレーションで実施してきたウェビナーシリーズ。いよいよ最終回となる第4弾は、11月25日(木)20:00〜21:30に開催する予定です。参加申込みはこちらからどうぞ!。

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