Next Startups
次のスタートアップ
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Quartz読者のみなさん、こんにちは。土曜昼にお届けするこの連載では、定期的にひとつ「次なるスタートアップ」を紹介しています。今週は、貧困とフードロスの課題を一手に引き受けるソーシャルビジネスの雄「Goodr」を取り上げます。
Goodr
・創業:2013年
・創業者:Jasmine Crowe
・調達総額:410万ドル(約4億6,300万円)
・事業内容:廃棄食品の再配分マネジメント
FOOD WASTE PARADOX
矛盾する「食品ロス」
あなたの冷蔵庫で賞味期限切れになった食品が「ごみ」として捨てられその先で、何が起きているかご存知でしょうか。
食品はゴミ処理場に持ち込まれるゴミの27%を占めます。米国では供給量に対して30〜40%が消費されないままに廃棄され、廃棄金額(食品の売価の合計)は年間で1,610億ドル(約18兆2,000億円)にのぼります。廃棄された食品は腐るとメタンガスを放ちますが、これは世界の温室効果ガスの8%を占めます。
一方、世界で9人に1人にあたる約8.2億人が飢餓にあえいでいます(2018年時点)。これは後進国に限ったことではなく、米国では4,000万人(1,200万人の子どもを含む)が日々食べるものにありつけず、人間としての基本的ニーズを満たすことができていません。
相矛盾する「フードロス」と「飢餓」。同時進行する2つの問題の解決に、自治体やNPOを中心にさまざまな対策が講じられてきました。しかしながらフードバンクの行列は絶えることなく、むしろコロナで貧困は深刻さを増しています。
Who is Goodr?
Goodrとは
アトランタ発のGoodrは「飢餓は食料ではなく物流の問題」と捉え、テクノロジーを駆使してこの解決に挑みます。
大企業やイベント会場から出た食品廃棄物を、食糧不足に苦しむ人に再配分する廃棄物マネジメントを行っています。余った食品をピックアップして食糧不足に苦しむ人へ届ける最適ロジスティクスを提供しています。
Goodrのユーザーがスマホのアプリで廃棄食品の回収をリクエストすると、その日のうちに回収され、食糧を必要としている届け先とリアルタイムでマッチングされ、その足で届けられます。回収していったんプールする工程が省かれるため、日持ちのしない生鮮品や調理済みの食べ物のムダも最低限に抑えられます。
届け先は、NPOのフードバンクや公立学校のカフェテリアなどさまざまです。Goodrが学校内や屋外などに設置したスペースに届いた食品は、誰でも欲しいだけ持っていってよく、自分が適切と思う金額を払う仕組みです。パンデミック期間の休校時には、貧困世帯の約4万人の生徒の自宅に食事を届けました。
またGoodrはフードロスマネジメントのSaaSも提供しています。米国では州単位でフードロス削減が義務化されたり、SDGsの観点から企業が自ら目標を設定するケースもあります。Goodrはフードロス計画と実績を可視化し、目標達成を支援する管理ツールを提供しています。
business model
練られたビジネスモデル
Goodrが構築したリアルタイムの集荷と配送網は、Uber EatsやDoor Dashなどのオンデマンドなデリバリーサービスの、逆方向への応用です。いわば、Uber Eatsが食事を届ける「動脈」とすれば、Goodrは廃棄を回収する「静脈」であり、これら先端テクノロジーのリサイクルへの適用です。
Goodrはフードロス削減を望む企業などから課金を行いますが、顧客にとってはフードロス削減によって税務上の還元を受けられます。行政への税還付手続きまで支援することによって、利用企業のコスト負担を軽減し利用ハードルを下げています。
余剰食品を寄付する企業が最も気にする点の一つが食中毒など病気のリスクですが、Goodrでは寄付者の責任を問わない旨を明確にしています。また、廃棄物処理業者と提携し、食べられないゴミも併せて回収する選択肢も提供することで、顧客の利便性を高めています。
個々の顧客ニーズに合わせた最適化も工夫しています。例えば空港のレストランは、乗客の時間制約のため食事は半調理済みで、保存が効かずフードロスが出やすい環境です。Goodrを導入したアトランタ国際空港では、当初は従業員がスマホを持たなかったり家に忘れたりしたためうまく運用ができず、100軒以上ある飲食店のPOSレジにGoodrのソフトウェアを実装しました。結果、フードロスを47%削減し、アトランタ市のNPOなどへ13万食の食事を提供し、8.5万ポンド(約3.9トン)のCO2排出を抑え、飲食店に20万ドル(約2,300万円)の税還付を戻したそうです。
Social entrepreneurship
社会起業家の真髄
Goodrが産声をあげたのは2017年。創業者の黒人女性ジャスミン・クロウ(Jasmine Crowe)は幼少期からボランティアに興味をもっていましたが、フードバンクの配給活動に積極的に参加した際に、ある疑問が頭をよぎりました。
配給所の中も外も、気の遠くなるほど長蛇の列、そしてお菓子と果物とジュースといった栄養も満足度も中途半端なメニュー。「食料(food)と食事(meal)は違う。これまでの飢餓対策は間違っている」と、旧態依然な仕組みが抱えた矛盾を目にします(クロウのTED動画はこちらから)。
自身も決して恵まれた環境で育ったわけでなく、貧しさがどういうものであるか、身をもって知っています。ボランティアする側の自己満足で場当たり的な助け合いが根本的な解決への意識を削いでしまうと、クロウは危機感を抱き、立ち上がることを決めます。
その後、国内で2番目に大きな黒人大都市圏であるアトランタに引っ越すと、街に溢れるホームレスの多さに驚きます。使命感に突き動かされ、ひとりで始めた毎週日曜の暖かい食事を提供する手作りの催しが、Goodrの原点です。アトランタに無料の食料品店を短期オープンさせたりと、SNSを通じてクロウの活動は注目を集めました。
「食事の目的は、生きるだけでない。食事によって人は幸福を感じ、尊厳を維持する」──このシンプルで力強い信念こそ、多くの人や企業に共感を巻き起こす社会起業家としてのクロウの真骨頂です。
今年1月、第一子を出産して母になったことを機に、彼女は絵本を発表しました。主人公の女の子がフードバンクのボランティアに参加したところ、配給の列に親友の姿を見つけます。「こんな身近に貧困がある」とショックを受ける主人公が、友達と協力して貧困と飢餓に苦しむ親友を救う物語です。
「飢餓という課題に、自分の世代で終止符を打ちたい」との想いで出版に至ったクロウ。格差が蔓延する社会で、ひとりの社会起業家が照らす強烈な光が胸を打ちます。
久保田雅也(くぼた・まさや)WiL パートナー。ベンチャーキャピタリスト。主な投資先はメルカリ、Hey、RevComm、CADDi等。外資系投資銀行にてテクノロジー業界を担当し、創業メンバーとしてWiLに参画。本連載のほか、日経ビジネスで「ベンチャーキャピタリストの眼」を連載中。NewsPicksプロピッカー。慶應義塾大学経済学部卒業。Twitterアカウントは@kubotamas。
🗓 Save the date!
『Off Topic』とのコラボレーションで実施してきたウェビナーシリーズ。いよいよ最終回となる第4弾は、11月25日(木)20:00〜21:30に開催する予定です。参加申込みはこちらからどうぞ!。
Column: What to watch for
メタバース×ソウル
韓国ソウル市が、さまざまな公共サービスや文化イベントを、没入型インターネットであるメタバースで行う計画を発表しました。2022年末までに独自のメタバース・プラットフォームを開発し、2026年に完全稼働を目指します。2023年には、仮想公共サービス「メタバース120センター」が開設され、これが成功すれば、ソウル市民は役所手続きから民事訴訟まであらゆることに、自宅からVRゴーグルを装着して参加できるようになります。
交通手段を持たない住民にとって喜ばしいニュースですが、懸念もあります。メタバースに入るために必要なVRゴーグルなどの特殊な機器の相場は300〜600ドル(約3万4,000〜7万円)と、決して簡単に手が届く金額ではありません。ただ、Microsoft、Nike、Meta(Facebook)といった民間大手の独壇場と化したメタバース開発において、ソウル市は公共の場を持ち込むチャレンジを表明した唯一の都市。営利事業のサービスからこぼれ落ちた人々に最先端テクノロジーをどう提供するか、詳細はまだ曖昧ですが、富の分け隔てなくメタバースの有用性を実証する可能性を秘めたモデルでしょう。
(翻訳・編集:鳥山愛恵)
🚀 次回の「Next Startup」は、11月27日(土)配信予定です。
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