ゼネラル・エレクトリック(GE)が、自らを分割しようとしています。この誰もが知る米国のコングロマリットは、2023年までに、ヘルスケア、エネルギー、航空エンジンという、3つの独立した上場企業になる予定です。1875年に創業された日本のコングロマリットである東芝も、金曜日(12日)、3つの会社に分割すると発表しました。同様に、米ジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)も、2事業に分割されます。
これらの動きは、コングロマリットの終焉を告げるシグナルなのではないかと考えたくなります。実際、先週には、多くの人びとがそう指摘しました。しかし、テック大手各社はどうでしょうか? アマゾンは、Eコマース、クラウドコンピューティング、映画やテレビの制作、食料品の販売などを手掛けています。アルファベット(Alphabet)は検索エンジンで主な収益を上げていますが、創薬、延命治療、ロボット工学、ドローン配達、自動運転車といった事業も所有しています。ソーシャルメディアやメッセージングに注力してきたフェイスブック(Meta)でさえ、ゲーム用ハードウエアを製造し、さらにはあなたの自宅のジムになりたいと考えています(10月末にVRフィットネスアプリ『Supernatural』を開発したWithin買収を発表)。このような高度に多様化した企業を前にすれば、GEのコングロマリットとしてのあり方は誤っていたと結論づける方が正しいでしょう。
製造業を中心とするGEは、129年の歴史の中で、保険、金融、テレビ放送、家電などの事業を展開してきました。しかし、ここ10年以上、一部の工業系企業は、株主から、事業の集中化を図るために、関連性のない事業の分割や売却を迫られていました。それに対して、GEは「自社の強みは経営にある」と主張してきたのです。対照的に、今日のテック企業は、ソフトウエアをつくることに優れています。グーグルにおけるプロダクトマネジャーとしての役割が、GEが学ぶことになる新たなマネジメントになるのです。
もっとも、ソフトウエア中心の企業になろうとしても、その出自がそうでない限り、簡単なことではありません。GEの前CEOジェフ・イメルトは、このコングロマリットをテック企業化しようとして失敗しました。一方で、巨大テックは、新しい市場に進出しようとするとき、テック系企業を買収したり立ち上げたりしています(ただし、アマゾンによるホールフーズ買収は例外で、特に成功しているわけではありません)。
GEは、トーマス・エジソンが生み出した電気事業を統合して設立されました。電気が米国経済を変革するまでには数十年かかりました(pdf)が、その変革によってGEは成功を収めました。いま、ソフトウエアが数十年をかけて世界を変化させていますが、勝者になるのは(かつてGEがそうだったように)正しい方向に進んだコングロマリットだけなのです。
The backstory
変化のウラ側で
- GEは意識的に関係を断とうとしている。GEは何年も前からポートフォリオを縮小してきました。2013年、GEはNBCユニバーサルの残りの株式を米ケーブルテレビ運営大手のコムキャスト(Comcast)に167億ドル(約1.9兆円)で売却し、昨年5月には看板事業である電球事業をサバント・システムズ(Savant Systems)に売却しました。
- 分散投資はリスクヘッジだった。ある業界が低迷していても、別の業界は好調かもしれない、という考え方があります。こうした考え方が広まり、米コカ・コーラ(Coca Cola)は米コロンビア・ピクチャーズ(Columbia Pictures)を買収し、サービス業大手の米センダント(Cendant)は、米エイビスレンタカー(Avis Car Rental)からマッチ・ドットコム(Match.com)まで、さまざまな企業を買収しました。では、最大の勝者は? 企業が売買されるたびに利益を得る投資銀行です。
- 現在、経営陣は部門を超えた管理に苦労している。GEの全盛期には、製造業だけでなく金融業も担当できるよう、マネジャーを育成していました。しかし、アマゾンやアルファベットのような企業は同様のリーダーシップ構造をもっていますが、産業界の巨人にとってこのモデルはもはや意味がありません。GEのCEOであるローレンス・カルプは、同社を3つの会社に分割(pdf)することで、それぞれが「業界特有のダイナミクス」に合わせた投資戦略を取ることができるようになると述べています。
ADAPTATION INTERLUDE
強力な助っ人
なぜ、ソフトウエアのスキルがこれほどまでに有利なのでしょうか? ボストン大学の経済学者であるジェームズ・ベッセン(James Bessen)は、業務のデジタル化とデータ駆動化が進むにつれ、ソフトウエアによって企業は複雑な業務に対応しやすくなった──たとえば、より多様な製品を提供しやすくなった──と主張しています。また、ベッセンの研究によると、ソフトウエアへの投資は、大企業の市場シェアの拡大にもつながっているといいます。
What to watch for next
これから注目すべきこと
- ソフトウエアコングロマリット最大の脅威は、反トラスト法。昔ながらの産業のコングロマリットは、業界をまたぐ事業を手掛けていたことや、米国では20世紀後半に反トラスト法による監視が弱まったことなどから、しばしば、反トラスト法の適用を免れることができていました。しかし、テック大手各社は、世界中の規制当局から監視の目を向けられています。
- アジアはコングロマリットをどう扱う? 伝統的なコングロマリットは、米国では破滅的な運命を歩んでいるかもしれませんが、アジアでは繁栄しています。インドでは、タタ・グループ(Tata Group)が自動車からソフトウエア、宝石、紅茶まで、あらゆる事業を展開しています。韓国では、政府が企業統治改革を推進しているものの、サムスン(Samsung)やヒュンダイ(Hyundai)などの財閥が、依然として支配的な地位を維持しています。だからこそ、今回の東芝の分割は注目に値する動きと言えます。
- プライベートエクイティはどこまで大きくなれるのか? 2006年、ジェフ・イメルトは『Financial Times』に対し、「プライベート・エクイティ・ファンドは現代のコングロマリットだ」と語っています。コングロマリットと同じように、彼らは資本と経営の両方の専門知識をもっていますが、コングロマリットとは異なり、彼らはしばしば、企業をまとめることよりも分割することを好みます。PEはこの20年間で爆発的に増加しました。PEの規模が大きくなればなるほど、投資家は伝統的なコングロマリットを必要としなくなるでしょう。
- ソフトウエア主導のマネジメントへ。かつてのGEの経営の強みのひとつは、ほとんどの製造現場で有利に働く効率性と正確性を重視していたことです。しかし、現在では、自己組織化、協調的、反復的など、ソフトウエアを中心とした経営哲学が主流となっています。
- アクティビストにご用心。東芝の分割はアクティビストのヘッジファンドによって引き起こされたもので、GEの場合も、こうした動きが数年にわたって進められてきました。CEOに会社の一部を売却するよう促すのが、本来のアクティビストの戦略であり、こうした動きは目新しいものではありませんが、成功ほどヘッジファンドを刺激するものはありません。3つの大企業の分割を経て、アクティビストたちは次のターゲットを狙っています。
ONE 💼 THING
シックスシグマの衰退
- GEの経営理念を体現するものといえば、それは「シックスシグマ」(Six Sigma)です。シックスシグマは、製造業における欠陥をなくすためのシステムで、1995年にGEが採用し、やがて、同社の「信仰」となったのです。
- シックスシグマとは、ベルカーブの偏差に基づき、製造ステップ100万回当たりに発生する不具合のうち、許容できる回数を決める統計モデルを意味している。
- シックスシグマのランク付けは、格闘技を参考にしている。初心者は「グリーンベルト」、熟練者は「ブラックベルト」と呼ばれる。GEでは一時期、少なくともグリーンベルトのトレーニングを受けていなければ、管理職に昇進することができなかった。
- GEの分割と同様に、シックスシグマの衰退は、企業の世界における広範な変化の兆し。効率よりもイノベーションが重視されるようになった。
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