かつて日の当たらない存在だったeスポーツは、昨年度には世界で9.74億ドル(約1,070億円)の市場規模に成長。2021年はすでに11億ドル以上の売上に至っており、総視聴者数は4億7,400万人にも上るとされています。eスポーツがオリンピック競技に加わるかどうか、あるいはすでに独自の地位を築いているeスポーツにオリンピックが必要なのかという議論すらあるほどです。
eスポーツの主要ターゲットである若者の人口が多いアフリカは、eスポーツにとってはまさに「チャンスの宝庫」。とくにケニアにおいて、デジタルゲームは高い収益を上げており、認知度が高まりを見せています。
PwCの調査によると、2019年、ケニアはアフリカ諸国のなかでもゲームハブとして第8位にランクイン。2017年に6,300万ドルとされた現地市場は、5年後の2022年には1億1,800万ドルに達すると予測されています。
ケニアのeスポーツブームを支える理由として、高いインターネット普及率や若年層の人口が多いことのほか、テクノロジーが急速に普及していることや、潤沢な資金をもつスポンサーが存在することが挙げられます。例えば、2019年にはケニアの大手モバイルネットワーク事業者SafaricomがPro Series Gaming(PSG、アフリカのeスポーツ・プラットフォーム)、Standard Group(ケニアの大手メディア企業)と提携し、「ゲームをキャリアの選択肢として検討している18〜26歳までの若者を対象とした」eスポーツトーナメントを開催。このイベントには少なくとも700人のゲーマーが参加し、国内5地域で決勝戦が争われました。
eスポーツ運営者のひとり、Adam Mcloude Wekesaによると、ケニアのeスポーツコミュニティには、ウガンダやタンザニアからはるばる「ケニアのeスポーツを体験したい」と参加するゲーマーが引きも切らないとのこと。「ケニアにおけるeスポーツの認知度は飛躍的に向上しています。より多くの人がeスポーツ文化に興味をもつようになり、トーナメントの実施例が増えています」
How are players picking up?
ケニアのスター選手
「Queen Arrow」の名で知られるSylvia Gathoniと「Beast」の名で親しまれているBrian Diang’aは、ケニアのeスポーツ・トップスター。それぞれ2017年と2015年に「モータルコンバット」のトーナメントに参加したことをきっかけに、プロゲームの世界に足を踏み入れました。
Diang’aは、「2015年、モータルコンバットのトーナメントが宣伝されているのを見つけて、申し込んだ。トーナメントに参加するのは初めてだったけれど、結果は3位。満足できる順位に背中を押され、プロゲーミングの世界にフルタイムで従事することを決めた。それがきっかけだよ」と語ります。
一方のGathoniも、「わたしがeスポーツの道を歩み始めたのは2017年、Two Rivers Mall(ナイロビ市内のショッピングモール)で開催された『East African Gaming Convention』でのトーナメントに参加したとき。4位に入賞し、わたしのプロゲームへの愛に火がついた」と言います。
ケニアでゲーマーにとって必要な専門知識を身につける手段は、独学のみ。eスポーツで「プロゲーマー」として身を立てるための努力として、Diang’aは、YouTubeでクラスを受講したり、トーナメントやチュートリアルを見たりして、スキルを高めていきました。
さらにプロの世界に挑むには、自分の選んだゲームをマスターしている先達との練習が欠かせません。ケニアのeスポーツ界隈には、国内だけでなく、世界で開催される大会で優秀な成績を収めた、熟練のプロゲーマーがいます。彼らはプレイヤーとしてだけでなく、コンテンツクリエイターや実況者などのキャリアを積んでおり、プロゲーマーとしての自分を夢見るミレニアル世代/さらに若い世代にとってのモチベーションになっているようです。
an enabling place for esports
震源地ケニアの可能性
ケニアのeスポーツコミュニティの成長は目覚しく、より多くのゲーマーが競技トーナメントに参加するようになっています。ケニアで、国内初のeスポーツリーグ「Esports Kenya Federation」(ESKF)が立ち上がったのは、2018年のことでした。16チームで構成される同リーグは、国内におけるeスポーツの知名度向上に大きく寄与してきました。
国内のプロゲーマーが世界規模の大会に参加するのは、国内におけるeスポーツの認知度を高める上で重要な役割を果たします。前述したeスポーツ運営者のWekesaは、「国内のプレイヤーが他国のプロプレイヤーと対戦した際の経験は、ケニアのeスポーツコミュニティに大きな知見をもたらしてくれている」と言います。さらに、世界大会で用いられているeスポーツガイドラインを導入することで、ケニアのコミュニティに、競技としてのeスポーツがより浸透することになるとも言います。
Monetizing esports in Kenya
あたらしいビジネス
エンドースメント契約をはじめ、大企業がeスポーツに参入することで、プロゲーマーたちは、これまで得られなかった機会にアクセスできるようになりました。例えば、Diang’aは若者を対象とする教育プログラム「Safaricom Blaze」に参加していますが、これはeスポーツゲーマーの名声の高まりを示すものでしょう。
トップゲーマーは、著名なブランドやスポーツ団体からも注目されています。Diang’aは、Pro Series GamingやRed Bull、日本のReev Gamingなどと仕事をし、国外メディアからも熱い視線を送られています。Gathoniも、「格闘ゲームコミュニティで最高のeスポーツチームのひとつ」とされるUYUと契約しています。「『アフリカのeスポーツアスリート』として認知されるという目標を叶える機会を得られ、国際的なトーナメントにも参加できた」と、彼女は付け加えます。
この分野で成功すれば、お金を稼ぐ機会はさらに拡がります。Diang’aは、自らトーナメントに参加しながら、トーナメント運営者やジュニアリーグ運営者としても活動しています。国内初のeスポーツセンター「Nerdhub」を運営するJameel Syedによると、eスポーツには若者にさまざまなキャリアの選択肢を提供する機会があるというわけです。
The future of esports in Kenya
チャンス、そして課題
Pro Series GamingやRampage Corpsのような企業が注目を集めるようになった現状は、ケニアがeスポーツ関連の投資先として潜在的な価値をもつ拠点であることを示しています。Wekesaが言うように、「ゲーム/eスポーツがケニア国内にもたらすメリットと、いま先進国で確認されている大きな影響を多くの人に伝えられれば、ゲーミング産業は数十億ドルを生み出すことができる」と期待されているのです。
かくも成功への希望に満ちているようなゲーミング業界ですが、一方で、プロゲーマーたちは多くの課題に直面しています。ゲーム機器は非常に高価で、かつケニア国内はまだ停電や信頼性の低いインターネット接続に悩まされているのです。 Wekesaによると、企業スポンサーもまだ不足していると言います。
女性のプロゲーマーはさらに多くの問題を抱えています。Gathoniは、その豊富な経験からプロゲーマーとしての実力を認められているにもかかわらず、女性という立場ゆえに社会からの偏見を受けています。「いまだに心ないことばを投げかけられることがある。わたしの成果を、努力したからこそ成しえたものではなく『女だから』だと感じる人がいるみたい」と、彼女は言います。
しかしながら、ケニアでeスポーツが最小限の支援でオーガニックに成長してきたこと、そして世界的に認められたプロゲーマーが何人もいるということは、この国におけるこれからの成長を期待する理由として十分といえるでしょう。
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