準備ができていようがいまいが「どこでも仕事ができる」時代はもうそこまできています。新興企業のなかには、すでにそうなっているものも多くあります。
それが「アシンクロナスワーク」(asynchronous)、「非同期型」と呼ばれる働き方です。
「ちょっと待って、わたしっていまも非同期で仕事してる? たまにグループチャットに参加しているけれど、家で仕事しているし、ほとんど自分でスケジュールを決めているし」と言う人がいるかもしれません。確かにその通りで、2年近くも家で仕事をしていると、人は対面式のオフィスでのルーティンから生まれた「心理的」な境界線を越えて、時間を自由に使うことに慣れてしまいました。
しかし、「非同期ファースト」とは、それだけに留まりません。また、この分野における先駆者たちは「いつでも連絡がとれる」状態、「長時間の会議に拘束される」状態には、二度と戻らないと言っています。
EXPLAIN IT LIKE I’M 5!
具体的に説明すると…
ビジネスコミュニケーションがデジタル化されるずっと前、オフィスでは会話が飛び交い、チームの皆が1台のコンピュータやホワイトボードを囲んでアイデアを練ったり、談笑したりしていました。企業同士の打ち合わせはカンファレンスコールで行われ、ファックスや自転車便で文書を共有していました。
その後、電子メールが登場すると、「会話」ではなくテキストのやり取りが多くなります。そして、ついにインスタントメッセージのプラットフォームが生まれ、わたしたちの生活が変わったのです。
会話は、必須のものとなりました。その会話はスマホに保存され、友人との食事や朝のランニングなど、どこへ行くときにもありました。ただ、不思議なことに、「オンデマンドワーク」が定着しても、企業は毎日通勤し、所定の時間帯に出勤することを求めていました。
現在、私たちはパンデミックによって当たり前になったリモートワークに慣れてきているので、オフィスはオプションであるだけでなく、リアルタイムのコミュニケーションや仕事のスケジュールを共有すべきであるという動きが加速しています。
非同期型の職場では、例えば指示を出すために同僚に電話をかけるだけではなく、メッセージに個性をもたせるために、スライドやインタラクティブな効果を盛り込んだ短いビデオを送ることがあります(ビデオやオーディオのメッセージは、テキストやEメールのメッセージに比べて、トーンを読み取るのがかなり簡単です)。 また、次から次へと入っているZoomのミーティングは、自身の業務さえ完了すれば、いつ仕事をしていようが、いつ泳いでいようが、誰も気にしません。
実際に会うこと、電話、ビデオ会議はほんの一握りの状況に限られます。非同期型の働き方によって、わたしたちはより自由に行動できるようになり、「忍耐は美徳」であるということについて、全員が改めて考え直すことになるのです。
PROS / CONS
長所と短所
➕長所
- 時間の節約:対面式のミーティングは時間調整が難しいうえに、その必要性がない場合も多いもの。非同期型の組織であれば、会社の仕組みに関する諸々が検索可能なかたちで記録されることになるので、情報を追う時間を短縮することにもつながります。
- 真の柔軟性:フレックスタイムは「インクルーシブ」、日中の仕事との両立を余儀なくされている親や介護者にとっては貴重な制度です。また、フレックスタイムはすべての従業員への「贈り物」でもあります。自分がいつもっともクリエイティブになれるか、いつが一番頭が冴えているかを知っているのは自分だけだからです。もうひとつの利点は、「週末や夜に無理をする必要がないこと」と、豊富なエフェクト機能がついたビデオメッセージやプレゼンテーションを作成するアプリ「ンーフー」(mmHmm)の創設者フィル・リービンは話します。
- 同じ土俵に立つ:遠隔地にいる社員を地域を超えて雇用することで、企業の人材基盤を強化することができます。明示的かつ意図的に非同期型の働き方を導入することで、遠隔地にいる社員も本社にいる社員と同じように価値を感じられるようになります。
- 大事なことに集中できる:スタンフォード大学のCenter for Work Technology and Organizationの研究者であるジェン・ライマー(Jen Rhymer)は、『BBC』に対して次のように語っています。「即答する必要がなくなると、人々は同僚に返信する時間帯を1日の中でスケジューリングしながら、長時間自分の仕事に集中することができます」
➖短所
- 人々が時間と空間を共有したときにのみ起こる、「自動的に発生する協業」の力を(疑わしいですが)信じる人もいます。
- ただでさえ家では孤独なのに、非同期型の働き方によって、さらに孤独感を感じる必要があるでしょうか。
- 仕事は他の人と一緒にいて、雑多な人間的なコミュニケーションをとっている方がやる気が出るものです。
- 非同期型におけるメッセージは、適切に計画し伝達されなければ、さらに混乱を招き、作業を遅らせることになります。
BY THE DIGITS
数字で見る
- 5時間:10人中9人の労働者がメッセンジャーアプリのチェックに費やした1日あたりの時間(Zapier調査)
- 20%:パンデミックが始まってから、平均的な会議の時間が短縮された割合
- 135kg:一般的なビジネスユーザーが1年間にメールを送信する際に発生するCO2の目安(ファミリーカーで200マイル=約322kmを走行した場合に相当)
- 90%:EYが実施したグローバル調査で、働く場所と時間に柔軟性を求めると答えた労働者の割合
- 4人に1人:パンデミック後、柔軟に働くために10%から20%の減給をすると答えた労働者の割合
- 3,170億ドル(約36.4兆円):2020年に企業がリモートワークのための情報技術に費やした推定金額
- 24時間:Doistの社員が、会社の新しい「非同期」の働き方の下で、同僚やCEOからの質問に回答するのに要する時間数
THE TECH MAKING IT HAPPEN
プラットフォーム
- Slack:広く利用されているチームコミュニケーションアプリ。「音声クリップ」「動画クリップ」の機能が追加
- Twist:Slackに似ているが、ライブチャットに重点を置かないように調整された
- Rock:ビデオ通話、メッセージ、ドキュメントストレージを兼ね備えたコミュニケーションハブ
- Notejoy:ウェブページ、画像、電子メール、その他のドキュメントを共有するプロセスを簡素化するノートプラットフォーム
- Loom:ビデオプレゼンテーションなどに自分の画像を重ねることができる、ビデオメッセージアプリ
- MmHmm:特殊効果を使って、インタラクティブかつたまに風変わりなビデオメッセージを素早くつくれるアプリ
PRO-TIPS
現場の声は?
ここでは、アーリーアダプターに聞いた、実際の非同期型の働き方の様子を紹介します。
Mmhmmの場合:MmhmmのCEOフィル・リービンは、「Mmhmmでは、経営陣が非同期型のミーティングを行っている」と語っています。彼のチームはその週扱うトピックについて、Mmhmmを用いてプレゼンテーションをまとめ、ポイントを強調するためにスライドやふざけた効果を取り入れています。「それをSlackや社内グループに公開して、みんなで共有して見たりしています」とLibinは言います。この「ミーティング」は、2倍の速さで視聴されることが多く、より魅力的なものになっています。また、この新しいフォーマットでは、特にオフラインのミーティングでは恥ずかしくて話せないような人からも、思慮深い質問が寄せられるといいます。
Doistの場合:DoistのCEOであるアミール・サリヘフェンディック(Amir Salihefendic)は、The SaaS revolutionのポッドキャストで、同社がかつて非同期型の会話に傾倒しすぎて失敗したことを説明し、「それは良い解決策ではなかった」と述べています。彼らは、非同期型の仕事の割合が、60%から70%程度がちょうどいいという結論に至りました。「ミーティングを重ねることも必要です。特に開発現場では、誰かが何かを誤って押して全てがダメになってしまった場合、電話番号が必要になりますから」
Nintexの場合:ワークフローの自動化を手がけるニンテックス(Nintex)のエンジニアであるテリー・シンプソン(Terry Simpson)は、Quartzに次のように語っています。「私が心がけているのは、本当に効果的で明確なコミュニケーションをとることです。私は自分のスタイルを変えました。人とコミュニケーションをとるときには、30秒のビデオを使って、非常に技術的なことを説明します。『プロセスを遅くする』ような質問のやりとりを避けるようにするのが目的です」
ONE 📩 THING
最後に…
今回ふれた「ビデオメッセージ」がどんなものなのか。『Quartz』でデータエディターとして活躍してくれていたDan Kopfの「loom」の実際の様子を、ぜひ見てみてください。
今日のニュースレターは、Quartz at Work シニアレポーターのLila MacLellan(カナダのトフィーノから非同期で働くことを夢見ている)がお届けしました。日本版の翻訳は福津くるみ、編集は年吉聡太が担当しています。みなさま、よい週末をお過ごしください!
🎧 『Off Topic』とのコラボレーションで実施してきたウェビナーシリーズ。いよいよ最終回となる第4弾は、11月25日(木)20:00〜21:30に開催する予定です。参加申込みはこちらからどうぞ!。
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