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米国では8万人のトラック運転手が不足している──。10月、米国の大手トラック輸送会社が加盟する業界団体、全米トラック協会(ATA)はこんな警告を出しています。
ATAは2005年から毎年、運転手不足を訴えてきましたが、世界的なサプライチェーン危機のなかで、この議論は再び盛り上がりを見せています。たとえば、上場企業の経営陣が投資家向け決算説明会で「運転手不足」に言及した回数は、過去30日間で少なくとも61回に上りました。
しかし、米国が16年間にわたってトラック運転手不足に悩まされてきたという主張は、誤解を招く恐れがあります。米国では約200万人がトラック運転手として働いており、各州では毎年45万件以上の商用運転免許証が発行されています。実際、29の州では、最も多い職業となっています。
本当に不足しているのは、競争の激しい労働市場で労働者を惹きつけ職場に定着させられるような「優良なトラック輸送業の仕事」です。ATAの統計によると、大手トラック輸送会社の運転手の年間離職率は、1995年から2017年までで平均94%に達しています。運転手の3分の1は、就職後3カ月以内に辞めていますが、これは、ライセンスをもつ運転手の多くが工場や建設現場、倉庫といった他の職場でよりよい労働条件や給与の仕事を見つけているためです。
経済理論では、何かが不足すると(この場合は「トラックを運転することを厭わない労働者」)、価格(または賃金)が上昇し、それを提供しようとする人が増えます。そして、最終的に不足は解消されるはずです。それにもかかわらず、トラック業界では1980年代後半から「運転手不足」というレトリックが繰り返されてきました。市場経済において、このように明らかな人手不足の状態が30年間も続いてきたのは、なぜなのでしょうか?
2019年、米労働統計局の2人のエコノミストが、恒常的な運転手不足という「謎」の調査に乗り出しました。その結果、トラック運転手の労働市場は、あらゆるブルーカラーの労働市場とほぼ同じように機能していることが分かりました。つまり、他の職業との給与の差によって、トラック運転手がこの業界に入ることもあれば、よりよい機会を求めて業界を去ることもあるのです。「したがって、十分な時間があり、標準的なやり方をすれば、運転手の供給量が価格シグナルに反応しないはずはない」と、報告者は記しています。
それは言い換えれば、「賃金を上げれば、労働者はやってくる」ということなのです。
The backstory
変化のウラ側で
- トラック運転手の賃金では太刀打ちできない。彼らの賃金上昇は、米国全体の賃金とほぼ同じペースでしかありません。トラック輸送業は、製造業や建設業、物流業といった、賃金アップをしている他のブルーカラー労働の雇用主たちと競争することが難しくなっているのです。
- 賃金アップの効果はすでに出ている。トラック輸送業の賃金は4月から6.7%上昇しており、それに伴い、トラック運転手の数も7%増加しました。2020年のホリデー商戦に向けてトラック輸送会社が賃金を上げると、運転手の数も増えました。しかし、その直後に賃金を下げると、数は減りました。
- 運転手の給与は問題の一側面にすぎない。米国は、インフラの改善も必要としています。港湾施設は、いま殺到しているような大量の貨物を処理できるような設計ではなく、運転手たちは港で列を成しているのが現状です。また、夜間駐車場を探すのにも時間がかかり、たまたま駐車場を見つけられれば、すぐに仕事を切り上げてしまいます。こうした課題が、トラック輸送業の状況を悪化させ、効率を低下させています。
KEEP ON TRUCKING?
その仕事、続けられる?
長距離トラック運転手の生活は、楽ではありません。一日中、高速道路を運転する退屈さとは別に、トラック運転手は、放浪生活に伴うさまざまな煩わしさに対処しています。
😴 長距離トラック運転手の多くは、運転席の後ろにある小さなベッドルーム「スリーパーキャブ」で夜を過ごし、「トラックストップ(トラック運転手向けのサービスエリア)」で15ドル(約1,700円)を支払ってシャワーを浴びています。
⏲️ 米国の法律では、トラック運転手の運転時間は1日当たり11時間、1週間当たり60時間に制限されています。時間切れになると、近くに食事場所や宿泊施設、トイレがあるかどうかにかかわらず、そこで停車しなければなりません。
💰 ほとんどのトラック運転手は、走行マイル数に応じて給与をもらっています。つまり、渋滞に巻き込まれたり、荷物の積み下ろしを待ったり、夜間の駐車場所を探したりしている時間は、すべて無給です。
💊 トラック輸送には健康上のリスクが伴います。運転手は一日中座りっぱなしで、食事の選択肢も限られています。また、輸送ルート上で医者に行ったり、薬を処方してもらったりするのも簡単なことではありません。
What to watch for next
これから注目すべきこと
- ホリデーシーズンがやってくる。トラック輸送会社はすでに、運転手に「最大25%」という派手な昇給をしたり、港で列にはまって動けなくなった運転手に1日当たり最大1,000ドル(約11.4万円)のボーナスを支給したり、また、最低給与を保証したりしています。しかし、運転してくれる労働者よりも求人数が多いのが現状です。
- 採用の幅を広げる。トラック運転手のうち女性は7%に満たず、労働力の確保に熱心な業界にとっては厳しい数字となっています。トラック輸送会社はこの状況を変えようと努力していますが、その努力は、時に称賛に値するもの(運転コースの受講料補助)であったり、時に笑いを誘うもの(女性はマニュアル車の運転ができないという前提でオートマのトラックを購入する)であったりします。現在、記録的な数の女性がこの業界に参入していますが、多くの仕組みは、女性向けに構築されていません。
- 10代のドライバーがデビュー。業界団体は長い間、トラック運転が可能な最低年齢を21歳から引き下げるよう、議会に働きかけてきました。そして本当に、最近可決された米国のインフラ投資法には、トラック輸送会社が長距離路線で18歳のドライバーを雇えるようになる「見習いプログラム」が盛り込まれました。
- 自動トラック輸送のパイロットプログラム。米国では、いくつかのスタートアップが自動運転トラックの試験走行を行っています(そのほとんどは、州の高速道路法が緩い南西部で行われています)。アマゾンが支援するオーロラ(Aurora)とアルファベット(Alphabet)傘下のウェイモ(Waymo)は、すでにテキサス州のヒューストンとダラスの間で貨物輸送を行っていますが、その際には人間の運転手が乗って状況を確認しています。一方、シリコンバレーのスタートアップであるプラス(Plus、智加科技)は8月、自動運転トラックが人間を乗せずに中国の高速道路を安全に走行したと発表しました。
- トラック以外の選択肢を増やす。港湾が渋滞し、鉄道が混乱し、トラックが人手不足に陥っているいま、長距離貨物用ドローンを使って荷物を運ぶというアイデアは、もはやそれほど突飛なものでもなさそうです。今年、乗客や荷物を運ぶ自律走行型ドローンを開発しているスタートアップは、51億ドル(約5,800億円)を調達しました。これは、2020年の11億ドル(約1,200億円)から増加しており、2009年から2019年までの10年間ではわずか4億3,800万ドル(約499億円)だったことと比較しても、その成長は明らかです。
ONE 🚢 THING
船上にも規制の影
世界のサプライチェーンを支えるもう一つの仕事、それは国境を越えて貨物船で仕事をする船員です。パンデミックの影響で船員の需要が高まる一方で、船員は、COVID時代の場当たり的な国境規制の影響を受けています。彼らは、出身国のワクチン規制に縛られているため、船に乗ることができない人もいれば、海上で足止めされている人もいます。
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