たばこ大手フィリップ モリス インターナショナル(Philip Morris International、PMI)は、すべての人が禁煙することを望んでいるようです。
PMIは2008年に、アルトリア・グループ(Altria Group、旧フィリップ モリス カンパニー)からスピンオフする形で設立されました。アルトリアは米国事業に注力する戦略を打ち出しており、法的な複雑さを避けるために国際部門を切り離すことを決めたのです。
PMIは現在、180カ国以上で事業展開しており、現時点では年間290億ドル(3兆3,066億円)近くに上る売上高の大半を紙巻きたばこの販売から得ています。ただ一方で、たばこを吸うことにうんざりした人たちと同じように、PMIも“禁煙”を誓っているのです。
PMIは今年8月、今後10年以内に英国で紙巻きたばこの販売を停止すると明らかにしたほか、2025年までには収入の大半を“煙の出ない” IQOS(アイコス)のような製品で稼ぐことを計画しています。IQOSはPMIの販売する加熱式たばこの名前で、その名の通り、燃焼ではなく加熱して使用する喫煙具です。
現在、数十カ国で販売されている加熱式たばこは、従来のたばこ製品に比べれば健康への悪影響は少ないとされ、PMIは自分たちはハームリダクション(harm reduction、害の低減)に取り組んでいると主張します。
ただ、PMIはマールボロ(Marlboro)の製造元であり、危害そのものを生み出してきた企業です。そもそも、たばこ会社は過去50年間にわたり喫煙の健康被害を隠し続け、その習慣を広めようとしてきました。そしていまになって、自らが創造した“危機”から利益をえようとしているのです。
PMIの米国の広報担当者は、「たばこの規制を訴える人たちはこれまでずっと、たばこ産業に対して、よりましな製品を開発するよう求めてきました。そして、わたしたちはそれを実行に移したのです」と言います。「PMIはたばこ会社としては唯一、この選択に踏み切った企業です。ほかにどうしろと言うのでしょう」
PMIが目指す方向転換が本当に可能かは時間が経たなければわかりませんが、これら次世代たばこ製品の市場は今後拡大していくことが見込まれます。大手たばこ会社の過去の“努力”のおかげもあって、世界の喫煙者人口は約10億人に上りますが(うち1億5,000万人はPMIの製品を吸っています)、このうち加熱式たばこを使用しているのは5,000万人に過ぎないからです。
BY THE digits
数字でみる
- 2,000万人:加熱式たばこIQOSの利用者数
- 180カ国超:PMIが紙巻きたばこを販売する国の数
- 70カ国:IQOSが購入できる国の数
- 287億ドル(3兆2,724億円):PMIの2020年通期の売上高
- 68億ドル(7,753億ドル):同期の被従来型たばこ製品の売上高
- 39〜79ユーロ(5,015〜1万1,051円):欧州でのIQOS本体キットの値段(国ごとに異なる)
- 2.8〜7.5ユーロ(360〜964円):紙巻きたばこ1箱(20本入り)の値段(国ごとに異なる)
- 3.4〜10.5ユーロ(437〜1,350円):マールボロ1箱(20本入り)の値段(国ごとに異なる)
DOWN IN SMOKE
減り続ける喫煙者
新型コロナウイルスのパンデミック中に起きた一時的な例外を除き、たばこの消費量は過去数十年にわたって縮小傾向が続いています。これは一部には、たばこ税の引き上げやたばこ製品の広告の禁止、公共の場所での喫煙制限といった各国政府の政策のためです。
市場アナリストは紙巻きたばこの販売量は2018〜23年の5年間で約7%減少するとの見通しを示していますが、世界保健機関(WHO)は次世代たばこ製品はたばこ消費の縮小を遅らせる可能性があると述べています。
WHAT’S “BEYOND NICOTINE”?
ニコチンの次
ニコチン依存症の患者から数十億ドルを稼いできた企業は、そこからどのようにして転換を図っていくのでしょうか。PMIは2段階の戦略を示しています。
- 非燃焼のたばこ製品:加熱式たばこは10億人に上る世界の喫煙者にとって魅力的な製品です。PMIの加熱式たばこには、加熱ブレードを使うものと、インダクションシステムと呼ばれる内部から加熱するものと2種類あります。
- 非たばこ製品:IQOSを使ってアスピリンや呼吸器疾患の治療薬を吸引することを想像してみてください。PMIはこれを「ニコチンを超えた」段階と呼び、既に複数の製品の開発に着手しています。そして、2025年までにはこの分野での売上高を10億ドル(1,140億円)に伸ばすことを目指しているのです。
CIGNIFICANT OTHERS
50:50
PMIは現在、売上高の30%を非従来型のたばこ製品によって稼いでいます。2025年までにはこの割合を50%に引き上げる計画ですが、一方で英国以外の地域では紙巻きたばこの販売から完全撤退する具体的な時期を示していません。
NEW ENTRIES
未来の担い手
PMIは喫煙者の減る未来に備えるために企業買収を進めてきました。最近の案件で注目に値する3社を紹介しておきましょう。
- OtiTopic:急性心筋梗塞の治療薬である吸引式アスピリン「Asprihale」(一般名:アセチルサリチル酸)を手掛ける米国企業。急性心筋梗塞は喫煙によりリスクが高まることがわかっており、潜在的な患者数は8,300万人に上る。PMIは今年8月に推定14億ドル(1,596億円)で同社を買収した
- Fertin Pharma:ニコチン置換療法(NRT)で知られるデンマーク企業。7月に8億2,000万ドル(935億円)で買収
- Vectura:大手製薬企業向けに喘息および慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療薬を開発する英企業で、ノバルティス(Novartis)やグラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)、バイエル(Bayer)などを顧客に抱える。7月に14億5,000万ドル(1,653億円)で買収
ONE UGLY THING
世界で最も汚い色
Pantoneの色見本の「448C」は、2012年にオーストラリアでたばこの統一パッケージの色に選ばれ、その後も各国でたばこの箱に採用されています。このくすんだ焦げ茶色はデザインの専門家からは”世界で最も汚い色”と見なされており、喫煙者たちがたばこを買うのを思いとどまらせることに貢献しています。
今日の「The Company」ニュースレターは、シニアレポーターのAnnalisa Merelli(小さいころ、マールボロは旅行会社だと思っていた)がお届けしました。日本版の翻訳は岡千尋、編集は年吉聡太が担当しています。
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