企業やスポーツ選手が台湾や新疆、香港、その他のトピックについて中国政府の意向に沿わない意見を述べる。ネット上で反発が起こる。中国の人びとの感情を傷つけたとして謝罪する──。
これは、もはやお馴染みの光景です。
最近もJPモルガン(JPMorgan)のCEO、ジェイミー・ダイモンが「JPモルガンが中国共産党よりも長く存続する方に賭ける」というジョークを言ったことを「後悔」していると表明しました。「中国を怒らせる可能性がある」というのは中国報道の常套句で、中国当局の「傷つきやすい」感情を歌ったポップソングまであるほどです。
しかし、今月、女子テニス協会(WTA)は北京に先手を打ちました。
女子テニスの組織団体は、いまや世界的な問題となっている疑問──#WhereIsPengShuai?(彭帥はどこにいる?)──に中国政府が満足に答えられなければ、中国市場からの撤退も辞さないとしています。ダブルスでグランドスラム2勝を飾った彭帥は、11月2日、中国共産党の元幹部である張高麗に性的関係を強要されたと主張しました。20分後には、中国で最も注目を集めた#MeTooの主張はインターネットから削除され、彭帥は公の場から姿を消しました。
その後、テニス界から声が上がり始めます。中国でいくつかの大会を開催する長期契約を結んでいるWTAは、彭帥への検閲をやめ、彼女の訴えを調査するよう中国に求めました。大坂なおみも、セリーナ・ウィリアムズと同様に、彭帥の失踪に「ショック」を表明しました。中国の国営メディアは、彭帥が元気であることを証明するために写真や動画を投稿しましたが、WTAのCEOであるスティーブ・サイモンは、彼女の安全が確信できていないと反論しました。
中国の国営新聞は、彭帥に集まる注目は、来るべき冬季北京オリンピックを台無しにしようとする政治的な試みの一環だとしており、また、WTAの姿勢が現実にどれだけ彭帥の助けになるのかは分かりません。ただ、WTAの中国に対する闘争的なアプローチは、これまで謝罪的なスタンスをとってきた他の団体にとって、転機となる可能性があります。
また、WTAが理想と実利の両方を追求している可能性もあります。香港を拠点とする市民社会研究者だったFrancesca Chiuは、中国の「ゼロコロナ」政策のために、今年開催予定だった少なくとも10の大会がキャンセルされ、WTAは他の地域に進出したり、決勝戦の開催地をメキシコに変更したりすることを余儀なくされた、と指摘しています。その結果、WTAは、これまで思っていたほど中国を必要としていないことに気づいたのかもしれません。
これは、中国の影響力がますます大きくなることが予想される世界において、貴重な教訓となるでしょう。ビジネスを多角化することは、ビジネスのためだけでなく、あなたの良心のためにもなるかもしれません。
The backstory
変化のウラ側で
- 沈黙させられたのは彭帥が初めてではない。他の著名な中国国民も、政府と衝突した後、時には数カ月間にわたって表舞台から姿を消しました。アリババ(Alibaba、阿里巴巴)創業者であるジャック・マーや女優のファン・ビンビンなどです。
- 中国を疑うことには結果が伴う。2019年には、ヒューストン・ロケッツのゼネラルマネジャーが香港のデモ参加者を支持するツイートをしたところ、中国国内で怒りの声が上がり、NBAの中国国内のパートナー企業のうち数社が放送契約やスポンサー契約を解除する事態となりました。また、ナイキやH&Mなどの企業も、中国の人権問題に異議を唱えて反発を受けています。
- 中国の#MeToo運動はまだまだ進化している。今年、注目を集めたセクハラ訴訟で原告の訴えが退けられましたが、女性たちの訴えはアイドルグループ「EXO」の元メンバー、クリス・ウーのようなトップスターを引きずり下ろし、アリババのようなテック企業の飲酒文化に疑問を投げかけています。彭帥のケースは、政府高官に対する最も重要な告発です。中国当局者を対象とした汚職調査では、政治的権力が性的関係の要求と関連していることが長い間示唆されてきました。
DON’T STICK TO SPORTS
いまこそ声を上げる時
「アスリートは、より安全で自由な世界に向けて潮流を変えるために、重要な役割を果たすことができる。その可能性は歴史が証明している。ビル・ラッセルは人種差別に反対して立ち上がった。モハメド・アリはベトナム戦争に抗議した。アーサー・アッシュは南アフリカのアパルトヘイトに反対した。欧米のアスリートたちは、世界的なプラットフォームを使って、沈黙している人びとに支援を届けることができるし、そうすべきだ」
──NBAボストン・セルティックスのセンター、エネス・カンター(11月20日付『Wall Street Journal』に寄稿)
What to watch for next
これから注目すべきこと
- 彭帥のさらなる「消息」は? 中国のプロパガンダ機関は微妙なニュアンスを出すことを得意としていません。不可解なEメールや、35歳の彼女が家でぬいぐるみに囲まれている「演出された」写真で、彭帥が元気であることを証明しようとする中国の試みに、多くの人びとが疑問を感じています。さらに言えば、この不可解な「証拠」には、中国国内からはアクセスできません。
- プロスポーツからの「次の一撃」は? 中国でのWTA大会開催を拒否することで、女子プロテニス界は、世界のテニスプレイヤーの約4分の1が住む中国からの何億ドルもの賞金と投資を反古にする可能性があります。しかし、それは他のスポーツリーグにとって、中国当局への反発を強めるきっかけになるかもしれません。また、スター選手は、時に対立姿勢をとる余裕があるため、彼らの言動が議論を盛り上げ、今度はスポンサーへの圧力となる可能性もあります。
- 冬季オリンピックのボイコットを求める声。彭帥による告発の対象だった張高麗は、北京オリンピック開催に向けて重要な役割を果たしていました。かたや国際オリンピック委員会(IOC)は先週、彭帥が「安全かつ元気である」と信じていると発表しています。この論争は、2月に開催される北京オリンピックのボイコットについての議論を再燃。米国のジョー・バイデン大統領は、選手の参加は認めるが他の政府関係者の参加は認めないという「外交的ボイコット」を検討しているとしています。一方で、反論としては、オリンピックで中国を軽視すれば、中国の協力が不可欠な他の分野で裏目に出る可能性がある、という意見もあります。
ONE 🔎 THING
飛び交う隠語
中国の人びとは、政府の検閲を逃れながら、張高麗(Zhang Gaoli)や彭帥(Peng Shuai)に似た有名人や歴史上の人物の名前など、暗号のような言葉を使って彭帥の告発を話題にしています。
有名な男性テレビスターの張国立(Zhang Guoli)と、中国の古典『三国志』に登場する人物、諸葛亮(Zhu Geliang)の名前が、一時、「Weibo」ユーザーが張高麗に言及する際に使われていました。
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