わたしが南アフリカに住む両親のもとを訪ねる旅の計画を立て始めたのは、数カ月前のことでした。とはいえ、COVID-19のパンデミックでは2年近く両親に会えずじまいだったので、期待はしないようにしていました。パンデミックで得た教訓のひとつは「あまりにも先のことを計画しても無駄であり、すべての行動に不確実性を盛り込むべきだ」ということでした。
とはいえ、いざ3週間前ともなると興奮を抑えられなくなりました。わたしの住む英国では渡航規制が緩和され、わたし自身、2度のワクチンを接種し終わり、南アフリカ人も制限なく国際線に搭乗できるようになりました。2歳の子どもに飛行機の旅について話し始め、母にはクリスマスプレゼントとしてフリースの裏地がついたスリッパを買いました。渡航の1週間前には、帰国後の自己隔離の準備も始めました。
そして、あのニュースが流れたのです。南アフリカやボツワナといったアフリカ南部の国々で、COVID-19の新たな変異株「B.1.1.529」(オミクロン株)が検出されたのです。これを受け、複数の国がすぐに国境を閉鎖する対応をとりました。いつになったら両親と再会できるのか、いまとなってはわかりません。
アフリカの経済と人びとは、このパンデミックによって壊滅的な打撃を受けています。しかも、その打撃がどれほどのものか自体、ようやくわかり始めたばかりです。このような事態を乗り越えるためには、人間性を重視した対応が必要となるでしょう。
南アフリカの感染症流行対策&イノベーションセンター(Centre for Epidemic Response & Innovation)の所長であるトゥーリオ・デオリベイラは、「わたしたちは科学的な情報をつまびらかに公開しました」と語っています。「変異種を特定し、データを公開し、感染が増加していることに警鐘を鳴らしました。大規模な差別を受ける可能性がありましたが、国や世界を守るためにそうしたのです」
各国の渡航禁止措置が正当化されるものなのかは、まだわかりません。しかし、いまアフリカ南部の国々に必要なのは孤立や差別の政策ではなく共感と支援であると、デオリベイラは主張しました。「アフリカを守り、支援することで、世界を守ることができるのです」と。
世界はこの声に耳を傾けてくれるでしょうか?
──Jackie Bischof, Talent Lab editor
Stories this week
今週のアフリカ
- エチオピア〜紛争の実態をめぐる争い。エチオピアのアビー・アハメド首相が、自ら戦場に立っている様子を撮影した動画を公開しました。彼はこの動画の中で自国の兵士を率いてティグライ人民解放戦線(TPLF)との戦いの最前線に向かうことを宣言し、世界を驚かせました。報道は規制されており、紛争に関する情報が政治的なメッセージとともに発信される状況が生まれています。
- ケニア〜行政はワクチン未接種者に厳しい。ケニアでは、COVID-19ワクチンをまだ受けていない国民に対して、行政サービスの提供を制限する準備が進んでいます。一方ワクチン不足も起きており、現状に矛盾する政府の方針に対しては反発の声も上がっています。
- ケニア〜アフリカの航空会社に必要なもの。アフリカの航空業界には何百もの独立した航空会社がありますが、その多くが不採算に陥り破綻の危機に瀕しています。ケニア航空の最高経営責任者(CEO)であるアラン・キラヴカは、アフリカ大陸の航空業界を持続可能なものにするためにはイノベーションと統合が重要だと主張しています。
- ガーナ〜巨大鉄道計画が頓挫。ガーナの鉄道開発担当大臣は、アクラ市内に194kmの鉄道を建設するという26億ドル(約2,968億円)規模のプロジェクト、「スカイトレイン計画」の中止を発表しました。すでに失業やインフレ、燃料の高騰に悩まされているガーナの人びとにとっては予想内の出来事でした。
- ナイジェリア〜暴力行為の責任を取らせる。アントニー・ブリンケン米国国務長官による初のアフリカ公式訪問は、さほど特筆すべきことがないものに終わりました。しかし、警察特殊部隊(SARS)の暴力に抗議する「#EndSars(SARSを終わらせろ)」運動が2020年に起こった際、治安当局者が抗議者たちを虐待したことについて、ブリンケンはナイジェリアが何をすべきかかなり率直に発言したといいます。
- ナイジェリア〜チャリティのはずが詐欺に。ナイジェリアのミュージシャンで富豪のDavidoが、ナイジェリアの慈善団体のために60万ドル(約6,849万円)を集めるチャリティーキャンペーンを行いました。しかし、Instagramの動画を使ったこのキャンペーンの期間中、Davidoの代理を語ったフィッシング詐欺が横行したといいます。
Dealmaker
今週のディールメーカー
- 南アフリカのフィンテック企業であるCrossfin Technology Holdingsは、同じく南アフリカに拠点を置くEthos Mid Market Fund Iが率いるプライベート・エクイティ投資家のコンソーシアムに15億ランド(9,400万ドル/約107億3,059万円)で売却されました。これにより、いずれも創業時からの投資家であるCapital Eye InvestmentsとMultiply Groupはイグジットを果たしました。
- モーリシャスの通信インフラ企業であるWest Indian Ocean Cable Company(WIOCC)が、株式発行による資金調達で2億ドル(約228億3,105万円)を調達しました。今回の資金調達には、プライベート・エクイティファームであるAfrica Capital Allianceなどが参加しています。WIOCCは計7万5,000km以上にもなる光ファイバーネットワークを運営しており、アフリカ30カ国でサービスを提供しています。
- 暗号取引所を運営するナイジェリアのBushaは、アメリカのベンチャーキャピタルであるJump Capitalが主導する投資ラウンドで420万ドル(約4億7,945万円)のシード資金を調達しました。このラウンドにはほかにもCadenza VenturesやBlockwall Capital、CMT Digital、Greenhouse Capital、Raba Capitalが参加しています。設立3年目のスタートアップであるBushaは現在20万人のユーザーを抱えているといいます。しかし、ナイジェリア政府が暗号資産に敵対的な姿勢をとっていることを考慮し、今後は西アフリカのほかの国々での事業展開を狙っています。
Other things we liked
その他の気になること
- コロナ後の世界をより良く。『The Guardian』のクワメ・アンソニー・アピア(Kwame Anthony Appiah)は富裕国と貧困国でパンデミックへの対応が異なっていることに触れ、将来の危機に備えてより公平な国際システムが求められていると語っています。
- 紅茶と人権問題。ユニリーバの紅茶事業の最終入札者3社のうち2社が、プランテーションでの労働条件に関する懸念から入札を下りたと『Financial Times』が報じています。
- eNairaの成功に必要なこと。アフリカ初の中央銀行デジタル通貨(CBDC)である「eNaira」は、運用初週にウォレットがGoogle Play ストアから削除されるなど散々なスタートを切りましたが、その後も良い成果を残せていません。『Stears Business』のアデソラ・アフォラビ(Adesola Afolabi)が、eNairaが成功できていない理由を説明しています。
- 感謝祭をリミックス。『NPR』のヴィッキー・ハレット(Vicky Hallett)が、リベリアの作家であり、女性の権利活動家であり、2児の母でもあるブレンダ・ブリューワー・ムーア(Brenda Brewer Moore)にリベリアの感謝祭について聞きました。かつての奴隷所有者たちの祝日を祝うことに疑問をもつ人もいるなか、リベリアの人々がアメリカの感謝祭をどのように取り入れているのかが語られています。
🎵 今週の「Weekly Africa」は、モロッコのOumによる「Lágrimas Negras」を聴きながらお届けしました。日本版の翻訳は川鍋明日香、編集は年吉聡太が担当しました。
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