「レジリエンス(回復力)」は、一般的に「タフネス(強靱さ)」とイコールだと考えられています。あるいは、冷静に困難を乗り越える能力、はたまた風に吹かれてしなやかにしなる(禅のような)能力と言い換えてもいいでしょう。
性急な渡航禁止措置、マーケットのボラティリティ、そして高まる不安…。COVID-19のパンデミックは、社会全体のタフネスの欠如を表面化させたようでした。しかし、オミクロン株への対応は正反対。買いだめに走る人はおらず、人と人の間に置かれたプレキシガラスの要塞は控えめなままです。この22カ月間で、わたしたちは自分たちの暮らしを変えうるニュースを比較的落ち着いて受け止められるようになったようです。そんな能力が、まるで日の光に包まれるようにいつの間にか身についていました。
否定的な見方をすれば、これまでに蓄積されたストレスで疲弊しきって、次に何が起ころうとも諦めてしまっているのかもしれません。しかし、ここでの真の学びは、わたしたちは不確実性に対処する能力を集団で高めているということです。カナダのダルハウジー大学レジリエンス研究センター所長のMichael Ungarは、「事態は解決へ向かう。わたしたちは街中のゾンビについて議論しているのではないのだから。いま、(経済活動の)一時停止ボタンを押しているだけで、ここにはある種の知恵が示されている」と指摘しています。
新型コロナウイルスの変異株について経験を重ねることは、悪いことばかりではありません。小学校の試験に失敗して涙を流した子どもが今後の試験への対処法を学ぶのと同じように、「実際に何ができるのか、わたしたちはある程度の見通しを立て始めている」とUngarは言います。人びとはそれぞれ、レジリエンスについての特徴的な動きである「自分でコントロールできる範囲内のことをする」ことを実践しています。つまり、ワクチンの予防接種を受け、マスクを着用し、活動的で社交的になり、よく眠り、喜びの瞬間を見つけようとしているのです。
しかし、個人のレジリエンスは、外部からのサポートやシステムに依存しています。危機は、個人のストレステストであると同時に、家族や人間関係、コミュニティ、企業、政府に対するストレステストでもあります。ここでもわたしたちは、制度が進歩のための素晴らしい力になり得ることを学んできました(ときに混乱を招くこともありますが)。
研究によると、レジリエンスは特性ではなくプロセスであり、基盤が必要であるとしても、実際にはほとんどの人が自然に身に付けているものです。しかし、新型コロナウイルスのような自然の産物やその持続力に対するレジリエンスが試された例は、近年類をみません。あなたは、自分が思っているよりもうまくやっているということを忘れてはいけません。
The backstory
変化のウラ側で
- 回復力の高い人はストレスを恐れない。彼らは「成長型マインドセット(growth mindset)」をもっています。これは、人生が困難に陥ったときでも、学び、変化し、成長することができるという自信を意味します。実際、神経科学者によると、脳はストレスを予防接種のように扱い、体が逆境に対する免疫力を高められるように訓練するのだそうです。
- 企業の回復力は従業員にかかっている。そのため、競争力のある企業は、従業員のメンタルヘルスを強化する方法を模索しています。これは、企業のDNAに社会的影響力を組み込み、従業員のメンタルヘルスを向上させる「燃料」を供給し、休暇手当やレジリエンスコーチングを提供することを意味します。
- わたしたちには、もうひとつの危機に対するレジリエンスも必要だ。気候変動は、将来の排出量を削減するための新しい方法を開発したり、機動的なエネルギー網を積極的に構築したりする代わりにすでにあるものを守ろうとしてきたがために、悪化しています。
REACHING FOR RESILIENCE
回復力を手に入れる
「30年間に及ぶ研究で明らかになったことは、ほとんどの人は、最悪の事態に陥っても、かなり元気な状態に戻れるということだ。その方法とは、柔軟性をもつこと。この状況が自分に何を要求しているのか、自分は何をすべきか、そして、自分に何ができるかを考えなければならない。わたしたちは新しいことに挑戦し、自分たちがどのように反応するかに注意を払い、間違いを犯す可能性があることを受け入れ、すべての答えをもっているわけではないことを受け入れなければならない」
──George Bonanno(コロンビア大学ティーチャーズカレッジの喪失・トラウマ・感情ラボ所長、『The End of Trauma』の著者)
What to watch for next
これから注目すべきこと
- 自分からのシグナル。最新の変異株に冷静に対応できているかどうかは、どうすればわかるのでしょうか。レジリエンスの高い人は、新しい出来事を破滅的なものと考える可能性が低いので、あなたの不安の度合いに注目してみましょう。感情的な回復力がないときは、ビクビクしたり、イライラしたり、社会的なシチュエーションに身を置くのを避けるようになったりする傾向があります。また、不眠、頭痛、吐き気などのストレスによる一過性の症状にも注意が必要です。
- 雇用主からのシグナル。もしあなたの会社が、有給休暇や介護者への手当、フレックスタイムについて議論していないなら、それは時代に適応していないということです。ゴールドマン・サックスのようなマッチョな金融機関でさえ、従業員の離職を防ぐために、燃え尽き症候群を監視しています。また、リーダーやマネジャーは、危機的な状況下でさらなるストレスにさらされる可能性のある有色人種の従業員には、特に注意を払う必要があります。
- ペットからのシグナル(…読むのをやめないで!)。自分では大丈夫だと思っていても、動物はあなたの心の状態を察知します。イヌの場合は、無気力、食欲不振、あくびが止まらない、唸る、噛み付くなど。ネコの場合は、見分けるのが難しいですが、過剰な毛づくろいがひとつのヒントになるかもしれません。こうしたストレスの兆候は、あなた自身の感情的な健康状態の低下を示している可能性があります。
ONE 🕒 THING
早いような遅いような
パンデミックにおける時間感覚というのは奇妙なもので、毎日が8年にも、わずか8秒にも感じられます。テキサス大学オースティン校の時間学の専門家であるDawna Ballardによると、いま、時間感覚が不安定になっているのは、マスクの着用など、以前は考える必要のなかった作業が加わったためです。こうした「インプット」はわたしたちの感じる時間のペースを速めますが、一方で、新しい要求の密度によって、時間の進みが遅いという感覚も生まれています。
パンデミックというのは、特有のペースの問題が生じるシチュエーションですが、Ballardは働き方の変化との類似性に注目しています。新しいワークフローや同僚への適応だけでなく、保育園の手配や通勤方法の変更、おいしいランチスポットの発見など、些細なことにも気を配る必要があります。したがって、Ballardのパンデミックに対するアドバイスは、新しい仕事に直面したときによくある「ゆっくりしてください」というもの。あなたが必要だと思っている以上に睡眠をとり、できる限り仕事を減らし、重要な社会的つながりを保ちましょう。そして、マルチタスクはやめましょう。
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今日のニュースレターは、Lila MacLellan(シニア・レポーター、まだ二重マスクを着用)とKira Bindrim(エグゼクティブエディター、2019年から計画を立てていない)がお届けしました。
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