いくつもの変異をもつオミクロン株が南アフリカで感染の第4波を引き起こすなか、世界中がこの変異株がもたらす経済や生活への影響を注視しています。そのためには、まず過去を振り返ることが大切です。
富裕国がワクチンを溜め込んでいる限り、世界は常に新しい変異型のリスクにさらされると科学者たちは警告しています。ゆえに、アフリカでのワクチン接種は優先されるべきなのです。
にもかかわらず、ワクチンの接種開始から約1年経ったいまもアフリカでは80%以上が1回目の接種すら終えていないと、世界保健機関(WHO)アフリカ支局で緊急担当ディレクターを務めるアブドゥ・サラム・グエ(Abdou Salam Gueye)博士は言います。「これまでワクチン接種を完了したのは、アフリカ大陸の総人口の7.5%にあたる約1億200万人のみです」
富裕国はCOVAXが確保した量の約2倍のワクチンを購入し、先手を打ちました。COVAXは新型コロナウイルスワクチンを複数国で共同購入し分配する国際的な枠組みで、アフリカを中心とした貧しい国々が取り残されないことを目指していました。
アフリカにおけるワクチン接種率の低さは、ワクチン接種を敬遠する風潮に起因するものではありません。もちろん世界のほかの地域と同様に、アフリカでもワクチンに対して不快感や抵抗感を示す人はおり、これに対しては創造的な解決策が求められています。しかし、7月に雑誌『Nature』に掲載された論文では、アフリカ人は概してワクチン接種に積極的であるという調査結果も示されています。この調査によると、低・中所得国では、米国(65%)やロシア(28%)に比べて、ワクチンの受容率がはるかに高いということです。調査対象国にはルワンダやブルキナファソ、モザンビークなどが含まれています。
幸いなことに、アフリカでのワクチン供給量はこの3カ月で増加したとグエ博士は言います。12月第2週には、アフリカ連合(AU)が現地でのワクチン生産を強化し、ワクチンの海外依存度を下げるための計画を発表する予定です。
「オミクロン株の出現は不可避でした」。AUの Africa Vaccine Delivery Allianceの共同議長を務めるアヨイド・オラトゥンボスン=アラキヤ(Ayoade Olatunbosun-Alakija)博士は、BBCのインタビューに対してそう答えました。次の変異株がそうならないことを祈るばかりです。
──Laura Lopez Gonzalez, Quartz Africa contributor
Stories this week
今週のアフリカ
- 財布の紐を締めた中国。セネガルのダカールで開催された中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)で、アフリカへの援助金を600億ドル(約6兆8,490億円)から400億ドル(約4兆5,660億円)に削減することを発表しました。中国がアフリカへの援助金を削減するのは異例のことです。その理由としては、中国の経済がパンデミック以前の水準に戻っていないことに加え、すでにアフリカが中国に多額の債務を抱えていることなどが挙げられます。
- マイク・タイソンを「大麻大使」に。タバコの産出国であるマラウイは、2020年に医療用および産業用大麻の栽培と加工を合法化しました。これにより、アフリカで71億ドル(約8,105億円)規模の産業になると見込まれる大麻産業に軸足を移そうとしています。こうしたなかマラウイの農業大臣は、ボクシング元世界ヘビー級王者で大麻ビジネスにも携わっているマイク・タイソンに「大麻大使」なってほしいと呼びかける書簡を公開しました。
- ジンバブエの斬新な課税方法。ジンバブエはこれまでもスマートフォンの輸入に税金を化していましたが、これに加えて携帯電話の輸入にも50ドル(約5,700円)の税金を導入する計画を新たに発表しました。この新たな税金の徴収にあたっては、携帯電話会社が携帯電話を登録する際に徴収するという新しい方式がとられています。
- 議会にはびこる女性への暴力。列国議会同盟(IPU)とアフリカ議会同盟(APU)が、アフリカの議会における女性への差別やハラスメントを調査した結果を公開しました。それによると、女性政治家が遭遇する身体的・心理的暴力の多くは、男性政治家によるものだといいます。
- 世界を揺るがすオミクロン株。8日現在すでに52カ国で検出されたオミクロン株について、Quartzの記者たちが調査しました。「アフリカでは大量のワクチンを提供するという場当たり的な対策が失敗に繋がっている」(by Carlos Mureithi)。「南アフリカはロックダウンの措置を敬遠している」(by Camille Squires)。Manavi Kapurが「国による入国制限措置の無意味さ」について言及した一方で、「ニューヨークの次期市長に就任するエリック・アダムスは祈祷を目的にガーナへの渡航を計画している」(by Alexander Onukwue)。ちなみに『The New York Times』によると、アダムスは実際に渡航した模様で、この計画が発表されたのちに、ガーナとナイジェリアでもオミクロン株が検出されました。また、Courtney Vinopalは新型コロナウイルスのワクチン接種のための出費がG20の危機対策費の0.5%になると伝え、Annalisa Merelliはウイルスを緊急事態のように扱うことの危険性を警告しています。
CHARTING JUMIA’S PROSPECTS
チャートでみる
アフリカのオンライン小売業者であるJumiaが2週間前に第3四半期の財務報告書を発表して以来、同社の株価は下落しています。
「The Motley Fool」によると、モルガン・スタンレーのエクイティ・リサーチ・アナリストであるルーク・ホルブルック(Luke Holbrook)は、Jumiaの株式への投資判断を3段階で真ん中の「ニュートラル」から最下位の「アンダーウェイト」に変更したとのことです。この新しい格付けは、「アフリカ版アマゾン」と称されるJumiaに対する投資意欲の減退を反映しています。
下のグラフは、モルガン・スタンレーによる格下げ後の下落を含む11月のJumiaの株価を示しています。
Dealmaker
今週のディールメーカー
- アフリカのフランス語圏でアプリを通じた物流・金融サービスを提供しているGozemが、Asia Africa Investment & Consulting(AAIC)などから500万ドル(約5億7,077万円)を調達しました。Gozemはさまざまな機能を統合した、いわゆる「スーパーアプリ」を開発しており、現在はトーゴやベナン、カメルーン、ガボンなどのユーザーを抱えています。今後も展開先やサービスを増やしていく予定だということです。
- スーパーアプリと言えば、アルジェリアのスタートアップであるYassirもシリーズAラウンドで3,000万ドル(約34億2,465万円)を調達しました。この投資ラウンドには、WndrCoやDN Capital、Endeavor Catalystを含む多数のベンチャーキャピタル企業のほか、UberやSpotify、Upworkといった企業のエンジェル投資家が参加しています。2017年に創業したYassirのアプリは、アルジェリアで配車や商品の配送に使われており、現在300万人以上のユーザーがいるということです。
- 南アフリカのテック系人材の採用プラットフォームを運営するOfferZenは、ヨーロッパでの事業拡大のために500万ドル(約5億7,077万円)を調達しました。創業6年目の同社に対する今回の投資ラウンドでは、南アフリカのBase Capitalがリードインベスターを務めています。すでにオランダに進出している同社は、これまでLunoやABSA、MMI Holdings、Takealot、WeTransfer、Adyen、Catawikiといった企業に開発者を紹介してきたといいます。
REMEMBERING VIRGIL ABLOH
追悼、ヴァージル
コラボレーションの達人に追悼の意を。ヴァージル・アブローはその41年という短い生涯で、注目のプロジェクトを人生数回分はこなしてきました。ガーナ系アメリカ人として生まれ11月28日にこの世を去ったアブローは、自身のファッションブランドであるOFF-WHITEを立ち上げ、ルイ・ヴィトンではメンズ アーティスティック・ディレクターを務めただけでなく、イケアやナイキ、リーバイス、ヴィトラ、メルセデス・ベンツといったさまざまなブランドとのコラボレーションを行なうなど、常にスポットライトを浴びていました。DJでもある彼はマッシュアップの才に長けており、伝統と最先端、東洋と西洋、白と黒、ポップカルチャーとファインアートなどさまざまなものをリミックスしています。
なぜアブローはこれほどコラボレーションを好んだのでしょう?「コラボレーションは、新しい世代を会話に招き入れるんだ」と彼は言いました。「自分の仕事は、そうした人たちのために扉を開けるためのものだ」
アブローがキャリアの中でコラボレーションしたブランドや人びとのリストはこちら。
Other things we liked
その他の気になること
- ようやく帰還。米国国土安全保障省の捜査官によって2009年に発見された900点もの美術品が、マリに返還されました。なぜ返還にこれほどの時間がかかったのか、そしてマリが増える略奪から文化遺産を守るうえで直面している問題について、『The New York Times』のザカリー・スモール(Zachary Small)が書いています。
- 石油開発を止めさせろ。南アフリカの活動家たちが、同国東部での石油探査計画を阻止しようとしていると『The Guardian』のジリアン・アンブローズ(Jillian Ambrose)が伝えています。この探査計画は石油大手シェルによるもので、候補地は鯨の繁殖地になっているということです。
- 汚職のリーク。『Bloomberg』のマイケル・J・カヴァナ(Michael J. Kavanagh)とウィリアム・クロウズ(William Clowes)が、コンゴ民主共和国のジョゼフ・カビラ前大統領の関係者と中国の企業の間で行なわれた疑わしい送金について調査しました。送金はコンゴ民主共和国の鉱業に関連したもので、数百万ドル(数億円)規模に上るということです。
- 危ういゲスト。アフロビーツの王・Wizkidが、ロンドンのO2アリーナでナイジェリアやイギリスの黒人アーティストたちと共にライブを開催しました。全席完売の輝かしいライブでしたが、スペシャルゲストとしてクリス・ブラウン(2009年に恋人だったリアーナに暴行、翌年イギリスへの入国を拒否されていた)を呼んだことが汚点になったと、『The Guardian』のジェイソン・オクンダイエ(Jason Okundaye)が語っています。
KEEP AN EYE ON
こちらもチェック
前大統領の影響が残るガンビア選挙。12月4日に行なわれたガンビアの選挙は、亡命中のヤヤ・ジャメ前大統領の影響が色濃く残るものでした。ジャメ前大統領が立候補していない選挙は実に27年ぶりで、今回は現職のアダマ・バロウ大統領がほか5人の候補者と対決する構図となりました。
2016年の大統領選挙でバロウに敗れたジャメは、自身の所属政党の応援に奔走してきました。11月に行われた野党候補者ママ・カンデの選挙前の集会で、ジャメは亡命先である赤道ギニア共和国から音声メッセージを流し、ガンビア人たちに野党候補への投票を促しています。バロウは、この音声を流したカンデに対し法的措置を取ると警告しました。
スーダンでデモ。スーダンでは10月に発生した軍によるクーデターと、その後にアブダラ・ハムドク首相と軍の間で結ばれた合意に対する抗議運動が起きています。この合意は、クーデターで失脚したハムドクの復権を約束するものでした。これを受け、首都ハルツームでは11月30日に数千人規模のデモが行われ、参加者たちが大統領官邸まで行進する事態となりました。参加者たちは軍と手を結んだハムドク首相の裏切りを糾弾し、合意は「ごまかし」だと非難しました。
🎵 今週の「Weekly Africa」は、南アフリカのFelo Le TeeとMyztroによる「66」を聴きながらお届けしました。日本版の翻訳は川鍋明日香、編集は年吉聡太が担当しました。
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