Guides:#83 クリプトの新世界

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A Guide to Guides

週刊だえん問答

世界がいま何に注目しどう論じているのか、米国版Quartzが取り上げている「世界の論点」を1つピックアップし、編集者・若林恵さんが「架空対談」形式で解題する週末ニュースレター(本連載恒例のプレイリストは今週はお休みです)。

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Image: Illustration by Nick Little

Crypto vs. the critics

クリプトの新世界

──前回は、NFTやメタバースといったいま話題のトピックを、「エンゲージメントプラットフォーム」という観点から、お話いただいたのですが、この辺のお話をもう少しお伺いしたいなと思っていたところ、Quartzの〈Field Guides〉のコーナーが再始動していまして、「クリプト vs. 批評家たち」というお題で「暗号資産」が取り上げられていました。今回は、いきなりですが、これを話題にするのはいかがでしょうか。

そうしましょうか。今年一年、いわゆる「NFT」のブームなどがあって、わたしもことば自体はちらちらとは耳にはしながらもさほど興味をもってこなかったのは、それが非常に投機的なものに見えていたからでして、そもそもブロックチェーンに興味をもつようになった当初──おそらく2016年頃だと思いますが──それを面白いと思ったのは、ブロックチェーンというものが、オンライン上にコピー不可能な「アセット=資産」をつくり出せるという点でして、音楽好きの自分がそこから想像したのは、それがあればアルバムや曲を数量限定で販売できるようになる、ということだったんですね。

──なるほど。

それってでも、数量限定のアナログ盤を販売することと原理的には同じことでして、その観点からいえば、デジタル空間には、アナログ空間でできていたことができない不自由さがあったということでして、ブロックチェーンの力がそれを可能にした点にあるのだとしますと、技術的には大イノベーションではあるにしても、それ自体がすごいことなのかというと、「まあ、すごいけど、そこまですごい?」という感覚はあったんですね。

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──ふむ。

ただ、ブロックチェーンがもたらす価値には「その先」もあって、それがあるアセットのトランザクションの履歴を追跡・記録することができるということから、アセットが値段をあげながら転売されていったとしても──そういう契約が作品に埋め込まれていればですが──転売されるたびに制作者に、一定の利率で収益がもたらされうる可能性が生まれます。

これは一次制作者のこれまでのビジネスモデルを決定的に変えることにはなりえますので、無限にコピーがつくれてしまうデジタル空間に参入することで無価値化していかざるを得なかったアセット──つまりテキストとか画像とか映像とか音源とか──をつくり出すことを生業としてきた人たちにとっては朗報でもあるな、とは思います。

──ですよね。

ただ、これもよくよく考えてみると、結構うさんくさい話で、マスプロダクトであるCDや本といったものの場合、新品で販売されたあとに中古市場に出回り、二次流通市場でビジネスを生み出していった際に、アーティストや著者、あるいは音楽レーベルや出版社といった一次生産者が、その市場にこれまで関与できなかったことは、ある程度は仕方ないことではあったとは思うのですが、そもそも「一点もの」を扱ってきたアート市場において、転売で儲かるのは転売した人を含めた中間業者だけだった、というのは、それ自体がかなり不当なものだったようには思うんですね。

というのも、やりとりされているのが、制作者が明確に判明していて、それが「誰それの唯一のオリジナルである」という鑑定書のようなものさえ存在している取引であるにもかかわらず、価格が高騰していった際に、そのシェアがアーティストに還元されない仕組みが当たり前になっていたのは、かなり意図的につくられた仕組みであるようにしか思えませんよね。つまり、現行システムが実際は相当に悪辣なものだった、という気がしなくもないので、それが解消するからといって、それが付加価値である、というには若干抵抗がある、ということだけなんですが。

──たしかに。あるアート作品の値段が高騰したことによって、アーティストが得ることのできる余録は、「次回作の最初の売値をあげられる」ことだけで、つまりアーティストとして名前が売れた、ということだけになっちゃうわけですね。

はい。最近、このことについてはときどき考えることがあるのですが、例えば、音楽家の作品の評価って、必ずしもリアルタイムで決定されるものではなかったりするわけですよね。

──と言いますと?

例えば、あるアーティストのファーストアルバムの価値って、その後続にどんな作品が出るかによって、のちのち当然変わってくるわけですよね。

──そりゃそうですね。「次」がないアーティストも、ごまんといるわけですしね。

はい。キャリアがちゃんと持続するアーティストにとっては、サードアルバムがひとつの分水嶺になるといったことは、かつてはよく言われていました。例えば、3枚目で「こいつはやっぱり本物だ」といった評価が決定し、そこから安定的にアルバムがリリースされていくことになったようなアーティストの場合ですと、その1枚目のアルバムはその輝かしいキャリアの第一歩を刻んだ作品として価値が高まることになりますが、それが3作目でコケたとすると、それ以前の作品は二束三文のものになってしまったりしますよね。

──ふむ。

これは、商品の市場流通量と中古市場における価格の話ではなく、アーティストへの期待値のようなものが、過去のバックカタログにどのような価値を付与するかという話をしているのですが、要は、実際のアーティストの作品の価値というのは、リアルタイムでの販売価値と、その次が出た後では変わってくるというわけですね。つまり、過去の作品の価値は、事後に遡及的に決定されていくというものであるにもかかわらず、制作者は、その価値の分のお題を請求することができないというわけです。

──例えば、若林さんが過去の無名時代に書いた文章や、過去に編集した書籍が、後から評価され、かりにそれに高値がついたとしても、なんのうまみもない、ということになる、と。

はい。そういうことです。ですから、個人としてレピュテーションを積み上げていったとしても、そのレピュテーションを有効活用できるのは、「次の作品」から、ということになってしまうわけで、それがさらに評判を呼んだとしても、その評判を有効活用できるのは、さらにその次の作品から、ということになってしまうわけです。

もちろん、のちに有名になったことで新たに第1作目が復刊され、それをマネタイズすることができた、というような事例はたくさんあるとは思いますが、結局のところコツコツと時間をかけて積み上げていったものが「資産」として包括的に取り扱われることは、これまでなかなか難しかったように思うんです。

──たしかにそうですね。

これは、自分なりの感覚で言いますと、「商品」というものの根源的な意味と、「資産」というものの根源的な意味の違いに起因するズレにあるような気がしていまして、NFTやソーシャルトークンといったものの面白さ、価値は、もしかすると、これまで商取引をしようと思った際に、プロダクト=商品というものとしてしか、市場に出せなかったようなものを、「資産」として扱うことを可能にするということなのかな、と思ったりするんですね。

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──なるほど。アートの例でいうと、アーティストが作品をつくって市場に出すとき、それは「商品」として扱われるのだけれども、それ以降のトランザクションにおいて、それは「資産」として扱われているということですよね。そして、自分の作品を「資産」として扱う空間から、アーティスト自身は、なぜか常に疎外されている、と。

はい。そんな感じです。ですから、例えばある作品をNFTやソーシャルトークンを用いて市場に出すということは、言ってみれば作品を、証券化するといいますか、あるいは、作品に対して株式のようなものを発行するというか、そういったことになるのかな、と思ったりします。

──なるほど。株券であれば、のちのキャリアやレピュテーションの積み上げによって、その価格が上がったり下がったりすることがありうるわけですね。

はい。もちろんそれが本当に素敵なことなのかどうかは、よくよく考えるべきことなのでしょうけれど、逆に言えば、それが株券のようなものであるなら、それを資金調達の手段として使うことができるということでもありますから、作品というものに対して新しい事業化のやり方を可能にするわけですね。

──アルバムを例えば、ファンと共同保有する、みたいなことが可能になったり、ということですよね。

はい。それは必ずしも、NFTの利用の仕方とは異なるのだとは思いますが、今回の〈Field Guides〉でも取り上げられている、シリコンバレーの有力VC「アンドリーセン・ホロウィッツ」が配信しているウェブメディア『Future』に、「NFTのすべて」(All about NFT)というポッドキャストの文字起こしが掲載されていまして、NFT、およびトークン経済について、こんなふうに整理していますので、見て見ましょう。ちょっと長いのですが。メディアの編集長であるSonal Choksiさんが聞き手で、答え手はCoinbaseのプロダクトマネージャーのLinda Xieさん、Variant FundのJEsse Waldenさんのふたりとなっています。

Linda:ソーシャルトークンとは、個人やコミュニティが発行するトークンを含む実に幅広いカテゴリーを指しています。パーソナルトークン、コミュニティトークン、クリエイタートークンといった言い方もされますが、ソーシャルトークンはそれらすべてを含む用語です。この分野では、さまざまな実験が行われていまして、例えば、自分の時間をトークン化して、1個のトークンが自分の1時間分の時間に相当し、それが自由に取引されていたりします。あるいは、R.A.C.(グラミー賞受賞のレコーディングアーティスト)の場合は、ソーシャルトークンを発行し、トークン保有者はプライベートなDiscordグループにアクセスできて、さまざまな特典を受けることができるようになっています。このように、クリエイターが初期の支援者と交流し、報酬を与える方法は、実に幅広いやり方がありまして、個人からコミュニティに関わるものまで何でもあります。

Sonal:ソーシャルトークンは、NFTとどのように似ていて、どのように隣接しているのでしょうか。また、NFTではないのはどのような場合でしょうか。何がNFTで、何がNFTでないのか。そこを理解するために、区別の手立てを教えてもらえます?

Linda:ソーシャルトークンは、クリエイターがユニークな作品をファンに直接提供した場合、それがNFTでありえたりもしますが、多くの場合、ソーシャルトークンは他の暗号資産と代替可能な流通性のあるトークンのことを指しています。R.A.C.が発行するトークンの場合、トークンはファンジブル(代替可能)なものなので、基本的にはそれを保有することができ、交換することが可能です。ソーシャルトークンとNFTが混同されることが多いのは、それらが、クリエイターがファンと直接関わることを可能にする、いわゆるクリエイターエコノミーに関わっているからだと思いますし、そうであるがゆえに、NFTとソーシャルトークンは深く絡まりあっているのです。

Sonal:基本的な理解としては、それが代替可能なものであればNFTではありませんし、代替できない唯一のものであれば──つまり語義通りノン・ファンジブルなものであれば──NFTというわけですね。

Linda: そうなります。

Jesse:代替可能なトークンとそうでないトークンの境界が曖昧なのは、この2つの間には相互作用が大きくあるからなんです。唯一無二のトークンを細かく切り分けて、ファンジブルなトークンに変えることができたりするんですね。オリジナルのNFTの一部をソーシャルトークンにすることができるわけです。

──わかったようなわからないような。

ここで言う「代替可能」とは、500円玉をほかの500円玉に替えたとしても500円は500円であるという意味においてでして、非代替というのは、逆にそのトークンがこの世にひとつしかないということを意味しています。

──なるほど。であればこそ、一個の唯一無二のNFTを、代替可能性をもつソーシャルトークンを通じて共同で保有することが可能になる、といったことを、Jesseさんは最後のところで言っているわけですね。

そうだろうと思います。NFTが、デジタル空間上に、そのものが「唯一のもの」であることを定義し、それを「資産」として、価値分配を行うところでソーシャルトークンが使われる、といった感じかなと思います。この辺は、どうもまだあやふやではありますが。で、そこから例えば、どんなことができるようになるのか、というところにいくのですが、司会のSonalさんは、突然「愛の不時着」についてこんなことを語り始めます。

──お。いいですね。

こんなやりとりです。

Sonal:ここまでは、主にすでに現実世界ですでに起きていることをデジタル空間において実行できるようにするという話でしたが、いまの現実世界ではできない、暗号資産だけが可能にすることを考えていく上で面白いのは、やっぱり分散所有権に関わるところかなと思います。いまは、アート作品を分割して所有したいと思っても、実際のアート作品を分割することはできませんよね。

わたしはいまだに「NBA Top Shot」(NBAプレイヤーの名プレーをテーマにしたデジタルトレーディングカード)が実現しようとしている、スポーツの試合のあるお気に入りの瞬間を共同で所有することができる、というアイデアに魅了されています。このことについてはLindaにメールしようと思っていたのですが、わたしはK-ドラマのCLOY(Crash Landing on You=愛の不時着)にハマっていて、Top Shotのアイデアのように、素晴らしいテレビドラマのお気に入りのシーンにビッドして所有できたりしたらなんて楽しいだろうって思っちゃったりしているんです。例え何百万人が見ていたとしても、その一部が自分のもの、自分のアイデンティティの一部として所有できたら最高じゃん、って。ちょっと頭おかしい話かもしれないけれど。

Linda:暗号資産の魅力はそこにあります。瞬間やメディア、人びとの人生を自分のものにするという、現実世界では考えられないようなコンセプトを、それは可能にするということです。例えば、YouTubeのクリエイターが自分の人生に起きていることをストリーミングで配信し、その中のとてもエキサイティングな瞬間を自分のものにすることができる、といったように。そこには、まだまだたくさんの可能性があります。NFTや「所有できるもの」について、いま人びとが非常にクリエイティブになっているのを見ることができるのは、とてもエキサイティングなことです。

──ああ、いいですね。「愛の不時着」は観ていませんが、例えば「ヴィンチェンツォ」のお気に入りのシーンが、売りに出されたら、ちょっと欲しいかもです(笑)。しかも、それが資産として、価値が上がる可能性もあったりするわけですよね。

何を所有できるのか、ということの概念が暗号資産によって、広く拡張していくというのは、そう言われると、たしかに面白いですよね。「人の時間を買う」といったアイデアは、かつて日本でもあって結構気持ち悪いものだなと思ったものですが、少なくとも「仕事」の領域で、価値を資産化して、それをやりとりできるようになるのは面白いですよね。それを、例えば、まず「組織」というものにあてはめてみると、いわゆる「DAO」(decentralized autonomous organizations=分散型自律組織)というものになります。

──ちらほらとことばは聞きますね。

Quartzの「クリプトとDAO:分散型自律組織とは何か」(Crypto and DAOs: What are decentralized autonomous organizations?, 日本語版)という記事は、それをこんなふうに説明しています。

DAOについて、テックジャーナリストのライアン・ブロデリックは、自身のニュースレター「Garbage Day」で、「カスタム化された暗号トークンを購入しないと参加できないインターネットコミュニティのことを、必要以上に難解に表現したもの」と説明している。

これが、現在金融の世界を中心に人気を博している「DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)」の中心をなす考え方だ。だが、このコンセプトの適応先は企業だけにとどまらない。DAOの台頭は、企業だけでなく、インターネット全体、ひいては社会全体のコミュニティ運営のあり方を変革すると言われている。

DAOは、ブロックチェーン技術に支えられたフラットな組織体だ。それは例えば、開発者のコミュニティ(Gitcoin)、ベンチャーファンド(The LAO)、ゲームギルド(Yield Guild Games)、ソーシャルコミュニティ(FWB)などにおいてすでに運用されている。いずれの組織においても共通しているのは、トップダウンのヒエラルキー構造は存在せず、メンバーが主体となって運営されていることだ。(中略)

これらの組織では、参加者は暗号通貨やお金をこれらのDAOに出資し、トークンと引き換えに、組織内の意思決定において議決権が与えられるようになっている。ブロックチェーンインフラ企業FigmentのCEOであるロリアン・ゲーブルは、先月ニューヨークで開催されたカンファレンス「Mainnet」で、「お互いに知らない人、好きではない人が、DiscordチャンネルやTelegramなどを介して、毎日ボードミーティングを行っているようなものです。見ている分にはちょっとした驚きがありますが、多くの時間と労力を必要とするので、なかなか大変ではあります」と語っている。

──ガバナンスの新しい民主的形態であることは間違いなさそうですが、結構めんどくさい、というわけですね(笑)

ですね。ただでさえめんどくさい民主主義的合議のプロセスを、直接全員参加でやろうというわけですから、まあ、大変ですよね。記事は、DAOの長所・短所をこう解説しています。

【長所】

中間業者を排除できる:DAOは、その役割が何であれ、基本的に構成メンバーによって運営される。スタートアップやさまざまな資産に投資する際に、銀行やパートナーといった中間機関を経由する必要がなくなる。

組織の透明性:ユーザーが、組織のプロセスや意思決定にフルアクセスでき、影響力を行使することができる。

【短所】

効率が悪い:代表者を選ぶこともできるが、基本すべての決定にはコミュニティによる投票が必要。

トークン価値が変動しやすい:人々が組織への信頼を失うとっトークンの価値が急落し、資本が無価値になってしまう可能性がある。また誤ったインセンティブを導入すると、投機目的の人ばかりが集まってしまい、コミュニティの価値を下げてしまう可能性がある。

中心化が起きる可能性:ガバナンストークンが初期の資金提供者に集中してしまい、コミュニティ運営プロジェクトの本来の目的が損なわれる可能性がある。

──ふむふむ。できるだけフラットで民主的な運営をしたくてDAOのような組織形態を導入したとしても、言ってみれば、株主が組織のミッションを妨げてしまうような、従来の株式会社におけるような問題が発生してしまう可能性はある、ということですね。

そうですね。記事はさらに続けて、今後の課題をこう列記しています。

DAO市場はまだ初期段階にある。エコシステムが拡大し、さらに主流化する前に、その推進者や関係者は、以下のことを考慮する必要がある。

コミュニティの成長:組織の存続を確保するためには、コミュニティの参加が不可欠だ。特に、公平で利用しやすい方法で、参加者をどのように募集し、維持するのか、どのように積極的な貢献と参加を促すのか、はたまた、プロジェクト間で人の移動があった場合、そこで蓄積された知識はどのように他メンバーで引き継がれるのか。

ガバナンス構造:コミュニティを運営する上で最も効果的な方法は何なのか。Redditを例にとると、モデレーターは、手に荒らしやヘイトスピーチといった多くの問題に直面しています。そこに金銭が絡んでくれば、騒乱はさらに亢進する。FigmentのCEOであるロリアン・ゲーブルは、「DAOのガバナンスは驚くほど混沌としています。この新しい世界におけるガバナンスがどのようなものになるのか、わたしたちはまだ本当に初期段階のことしか知りえていません。もしあなたがDAOのトークン保有者であるなら、参加しているだけで一日の大半の時間をそれに取られることになるでしょう」

規制による障壁:分散型プロジェクトは、既存の法的構造の範囲外で機能することはできない。OpenLawの創設者であるアーロン・ライトは、「法律は蒸発しない」と述べている。SEC(米国証券取引委員会)はすでに未登録の証券を販売したとして多くのブロックチェーンプロジェクトを取り締まっており、中国は暗号取引とマイニングを全面的に禁止している。一方で、ワイオミング州では最近、DAOをLLCとして認める画期的な法案が可決され、より多くの法的保護が与えられた。

──面白いですね。もう一度「民主主義」のようなものをスクラッチからつくるような作業ですね。

はい。ここまで見てきてわかるのは、基本NFTもソーシャルトークンもDAOも、その根底にあるのは、インターネットによって接続された個人のネットワークが、コミュニティとして作動することが、その運営・運用の根底にあるというところです。つまり、それはおそらく前提として「コミュニティドリブン」なもので、「コミュニティ主権」ということが念頭に置かれているものなんですね。

例えば、NFTやソーシャルトークン、DAOといったアイデアが集約されていくことになる、メタバース、あるいは「Web3」といった概念において重要なのは実際はこの部分でして、例えば、『Bloomberg Businessweek』は「Web3について知っておくべきこと:クリプトはいかにインターネットを再発明しうるか」(What You Need to Know About Web3, Crypto’s Attempt to Reinvent the Internet)という記事は、Web3をこう解説しています。

「Web 1.0」とは、1970年代から80年代にかけて、コンピュータネットワークが相互接続されるようになり、90年代以降、ブラウザやウェブサイトなどが登場するまでの期間を指している。次の段階である「Web 2.0」では、企業主体でソーシャルメディアや検索エンジン、Wikiなどのアプリケーションが構築され、そこで提供されるコンテンツの多くはユーザーが作成したものだった。その結果、ウェブの多くはある意味で分散化されはしたが、ほとんどのものが大企業が運営するプラットフォームを経由していた。「Web3」は、従来のプラットフォーム企業や広告といった、Web2.0のビジネスモデルに依存しないソフトウェアやプラットフォームをつくることを目指している。そこでは、ユーザーがトークンを使って直接サービスにお金を支払うことができるようになり、理想的な世界では、Web3のサービスは、ユーザーコミュニティによって運営され、所有され、改良されていくことを想定している。

──いいですね。

あるいは『Business Insider』は、こうも評しています

Web3は、独占禁止法の問題や独占を目指すビジネスに対する解毒剤にもなりうる。次世代ウェブにおいて、大手企業の独占的プラットフォームが唯一のものでなくなるため、彼らから権力(パワー)を奪い取り、少なくとも理論上は、それを市民(ピープル)へと戻すことを可能にする。

──そうかそうか。要は、Web3と呼ばれるものは、インターネットが巨大プラットフォームが専制統治する空間となり、それが広告モデルによって強力に後押しされてきたことで、ものごとの価値体系を狂わせていったWeb2.0以降の現在の状況に対する、かなり強力なアンチテーゼとなっているということですね。

はい。メタバースの世界を見てみますと、例えば仮想不動産プラットフォームとして急激に伸長している「Decentraland」は、ブロックチェーンベースの分散型プラットフォームで、コミュニティ主導の運用がキモとなっていたりしていまして、そこに現在寄せられている期待値は、まさにそれが、「ユーザーコミュニティによって運営され、所有され、改良されていくことを想定している」点にあるのだと思います。

──なるほど。そうなってくると、俄然ワクワクしてもきますね。

はい。NFTでもWeb3でもメタバースでも、なんでもいいんですが、こうした新しい技術用語が、目下次から次へと出てきているわけですが、ここで目を凝らしてみておかないといけないのは、その根底にある理念は「分散」「ユーザー主権」というところにある、という点と、それを大企業や広告モデルといった、20世紀の資本主義経済の亡霊が、その理念を歪ませにかかってくるであろうというところなのではないかと思うんです。というのも、Web2.0のなかで起きたことがまさにそれだったわけですので。

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──この連載でも過去に、企業主体の経済から、ユーザー/市民主体の経済に以降していくだろうといった見通しが語られ、それをダイナミックに実行しているのが、K-POPとゲーミングのコミュニティだといったことが語られましたが、メタバース=Web3的世界は、まさに、それらと重なり合わせるかたちで理解すべきだということにもなりそうですね。

おっしゃる通りでして、実際、メタバースにおいては、すでに、そのガバナンスモデルを、Minecraftに学ぶべきだ、という議論が出ていまして、これは、まさにコミュニティドリブンなプラットフォームのガバナンスということに関わっていまして、それはいうまでもなくWeb3、DAO、ソーシャルトークンの運用・ガバナンスをめぐる議論でもあるように思いますし、それこそオードリー・タンさんが語ってきたような参加型のデジタル民主主義の運用手法といった議論にまで援用されうるものなんですね。

──おお。壮大な話になってきた。

とはいえ、こうした「ユーザー主権」の夢と理想は、それこそPCの黎明期、インターネットの黎明期、あるいはソーシャルメディアの黎明期において、繰り返し語られ、その度に反故にされてきたものではあって、別に新しい夢でもなんでもないはずなんです。本来的には、その夢の反映がメタバースやWeb3というもののビジョンをかたちつくっているわけでして、そのことをきちんと理解しておくべきだと思うんですね。無限のバーチャル空間ができたら、またバンバン広告塔を建てられるじゃん、といった発想は、せめて、この空間では本当に駆逐されてほしいと思うのですが、まあ、相変わらず20世紀を生きている人は、いっぱいいますから、どうなるか、成り行きは心配といえば心配です。

──どうなりますかね。

とりあえず、今回はここまでにして、次回は引き続き、来るべき新しいウェブ世界におけるガバナンスモデルの雛形としてMinecraftのようなゲームを参照すべきだ、といった議論が、いったいどういう主旨において語られているのかを見ていきつつ、もう一度、今回の〈Field Guides〉のお題である「クリプト」についても触れられたら、と思います。

──にしても、急激にデジタル社会が新しい方向に向けて、ごろごろと転がり始めたという感じですね。

自分も遅まきながら、このムーブメントがどこに向かおうとしているのかがわかってきて、突然ワクワクしはじめたところなのですが、これまでK-POPやゲームコミュニティの新しさについて、この連載で学んできたおかげで、自分なりには、次に描かれようとしている未来の姿について、それなりに見通しが立てられてきたようには思うのですが、それが世間で言われている「メタバース」とやらをめぐるコンセンサスと合致しているかどうかは、定かではない。特に日本で語られている議論については、これまでの経緯から言っても、あまり信用する気にはなれません。というわけで、もしかしたらだいぶズレたことを言っている可能性はあるのですが、まあ、別にそれはそれでいいじゃないですか。

──そうすね。

というわけで次週は、予定通りにいけばMincraftのお話から、ということで。

──楽しみにしてます。

若林恵(わかばやし・けい) 1971年生まれ。『WIRED』日本版編集長(2012〜17年)を務めたのち、2018年、黒鳥社設立。本連載の書籍化第2弾『週刊だえん問答第2集 はりぼて王国年代記』のお求めは全国書店のほか、Amazonでも


꩜ 「だえん問答」は毎週日曜配信。次回は12月19日(日)配信予定です。

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