(last) Weekend:マイアミが「第二のシリコンバレー」になる日

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Delian Asparouhovは、サンフランシスコで働くほかの多くのテック人材と同じように、自分の街にうんざりしていました。税金が高く、家賃に至っては天文学的な値段。テック企業で働いている人たちとそうでない人たちの間の緊張は、沸点に達していました。

Asparouhovは28歳のファウンダーズ・ファンド(Founders Fund)のパートナー。2020年12月4日、彼はついに「限界」を迎えました。その日、全米でCOVID-19による入院や死亡が急増するなか、サンフランシスコ当局が、レストランの屋外席での食事も禁止すると発表したのです。失望と怒りがこみ上げ、彼はこうツイートしました。「みんな、聞いてくれ。うちの会社をシリコンバレーからマイアミに移すのはどうだろう?」

その日の夜、自宅にいたマイアミ市長のFrancis Suarezは、Asparouhovのツイートを目にしました。マイアミでテック産業を育てることは、Suarezが長年、政治家として力を入れてきたテーマのひとつであり、この夜、彼ならではの反応を投稿するチャンスが訪れたのです。「わたしは何をすればいいですか?」

これは、遡ることいまから1年前のこと。以来、テック系の記者やシリコンバレーからの移住者が続々と南フロリダに押し寄せました。マイアミへのベンチャーキャピタル投資は増加傾向にあります。地元の2つのスタートアップ、フィンテック企業のパイプPipeシニアケア企業のパパPapaは、数十億ドル規模のユニコーン企業となりました。ブラックストーンBlackstoneシタデルCitadelといった金融大手や、ファウンダーズ・ファンドパーム・ドライブ・キャピタルPalm Drive Capitalなどのベンチャーキャピタル(VC)が、いまトレンドとなっているマイアミ地域にオフィスを開設する計画を発表しました。

マイアミのテックシーンは、パンデミックの際にこの街を訪れたテック系の観光客が、どこからともなくスタートアップの拠点を呼び寄せてつくり上げたもの(そして、それはおそらく、現れたときと同じようにすぐ消える)──というのが、これまで一般的にもたれていたイメージでした。

しかし、事実はそうではありません。マイアミのテックシーンは、地元の起業家たちの長年にわたる努力の結晶であり、彼らは外部の投資家の目から見ても、マイアミがスタートアップの拠点として正当に評価されるよう、力を尽くしてきました。市長のSuarezのツイートがソーシャルメディア上で話題になると、マイアミのスタートアップ企業の創業者たちは飛びつきました。

「わたしたちはずっとこのテーマを話してきて、『わたしたちのことばを真剣に受け取ってほしい』と訴えてきた」。マイアミのスタートアップシーンの発展を目的とした組織、リフレッシュ・マイアミ(Refresh Miami)のエグゼクティブディレクター、Maria Derchiは、「人びとの新しい波によって変わったのは、ここに多くの資本が集まってきたということ。彼らのおかげで、マイアミに拠点を構える人は真面目に受け止めてもらえない、というスティグマ(烙印)が払拭された。こうした動きが人びとの心を開き、(南フロリダでスタートアップを立ち上げることを)認める流れを生んだ」。


The backstory

変化のウラ側で

  • マイアミのスタートアップは、投資家を見つけるのに苦労してきた。マイアミには地元に根ざしたVCがあまりなく、最近まで、マイアミ以外の投資家は、南フロリダのスタートアップに資金提供することに消極的でした。投資家はしばしば、マイアミの創業者たちに、資金を得るためにはサンフランシスコに移住するようアドバイスしていました。
  • マイアミの起業家たちが組織化し始めたのは、10年以上前から。彼らは専門的なグループを作り、イベントを開催し、マイアミのスタートアップシーンを「伝道」するための地元コミュニティを少しずつ作り上げてきました。昨年、シリコンバレーから新しい企業が続々とやって来たときも、彼らは新しい仲間を大歓迎したのです。
  • パンデミックは投資家の認識を一変させた。リモートワークを取り入れたベンチャーキャピタリストたちは、Zoomを使って取引できることに気付きました。突如として、スタートアップにとって、伝統的なテックハブではないエリアに拠点を置くことが、それほどの障害ではなくなったのです。

A WAVE OF CASH

マイアミの集金力

マイアミへの投資は、2020年末に急増し、その後も高い水準を維持しています。米調査会社のCBインサイツ(CB Insights)によると、2021年の第1~第3四半期で、マイアミのスタートアップは24億ドル(約2,700億円)を調達し、2020年の同時期に調達した8億1,100万ドル(約910億円)の3倍となりました。

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しかし、次の数字も視野に入れてください。シリコンバレーは昨年、350億ドル(約3.9兆円)の投資を集めており、これに比べれば、マイアミのテックシーンの規模はまだほんのわずかです。


What to watch for next

これから注目すべきこと

  1. マイアミの評判。最終的に、マイアミのテックシーンが成功するかどうかは、投資家の認識にかかっています。もし投資家が、マイアミを正当なスタートアップの拠点として評価し続ければ、地元のスタートアップにより積極的に資金を提供するようになるでしょう。
  2. テックブームの勝者と敗者。過小評価されてきたグループに属する起業家(特に女性や黒人)は、マイアミに流入する資本にアクセスするのに苦労しています。多様性があるとはいえ、マイアミはいまだに米国で最も人種差別的不平等な都市のひとつとされており、テック分野でのチャンスも、依然として人種によって大きく異なっているというのが現状です。
  3. 残るか?去るか? マイアミに移ってきたテック人材の多くは、短期のリース契約を結んでおり、まもなくそれを更新するかどうかを決めなければなりません。もし移住者がこの地を去れば、マイアミのテックシーンの勢いは失われる可能性があります。
  4. マイアミのユニコーンから派生するモノ。自立したスタートアップ拠点では、いくつかのテック大手が生まれました。こうした企業が優秀な人材を採用し、彼らが大企業を辞めて、その近くで自分のこだわりのスタートアップを始めるのです。マイアミに新たに誕生したユニコーンも、地元のテックブームを持続させるためには、同じような流れをつくり出す必要があります。
  5. 気候変動。マイアミの未来を予測する上で、最大の注意点です。海面上昇や頻発する洪水に適応できなければ意味がありません。気候変動への対応は、かつてマイアミ市長、Francis Suarezの主要課題でしたが、いまでは、彼の興味は暗号通貨の方にも向いているようです

ONE 🕒 THING

みんな同じ時期に…

「1日で十数人の知り合いに会ったと思う。サンフランシスコのサウスパークにいるような感覚で、『よし、ここには何かがある。これは実際に本物だ』と思った」

──2020年8月にニューヨークからマイアミに移住したアルパカ・ベンチャーキャピタル(Alpaca Venture Capital)のパートナー、David Goldberg

マイアミのテック系移住者の多くは、同じ時期にマイアミ訪問を計画し、同じ場所に集まる傾向がありました(ある地元の起業家は、彼らの突然かつ同じタイミングでの到着を「テック人材のフラッシュモブ」と表現しました)。 その結果、訪問者たちは、マイアミがすでにテック系の顔なじみで溢れている場所であると感じたのです。

移住者たちは、マイアミでの出会いを、サンフランシスコでの「セレンディピティ」の雰囲気になぞらえています。サンフランシスコでは、ソフトウエアエンジニアがコーヒーショップで偶然出会ったことがきっかけで、数十億ドル規模のスタートアップが立ち上がる、ということもあるのです。


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今日のニュースレターは、Nicolás Rivero(テック・レポーター、生まれも育ちもマイアミ・デイド郡)とKira Bindrim(エグゼクティブエディター、マイアミのバーでアリゲーターのフライを食べた経験あり)がお届けしました。


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