Obsessions:メタバースに必要な「チップ」の話

A metaverse-inspired art installation in Hong Kong.
Image for article titled Obsessions:メタバースに必要な「チップ」の話

シリコンバレーでいま最もホットなバズワードといえば、「メタバース」でしょう。(これまでにもここここなどで何度も紹介してきましたが)メタバースとは、ニール・スティーブンソンが1992年に発表した小説『スノウ・クラッシュ』の中で提唱したことばで、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を通じて体験する、次世代の没入型インターネットのことです。

メタバースの概念は、何十年にもわたりテック業界に影響を与えてきました。2000年代半ばに仮想世界「Second Life」が登場し、いまではEpic Games(『Fortnite』でおなじみ)やRobloxなどのゲーム関連企業が、自分たちのつくりあげる世界を「メタバースの初期バージョン」と表現するようになっています。最近も、フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグが自社の名前を「Meta」に変更し、あらたな没入型インターネットをその名が体現するイメージのもとデザインする意向を示しました

しかし、このゲームに参加しているチップ企業となると、ほとんどないのが現状です。メタバースを実現するには、チップが不可欠です。完全に没入できる仮想世界のための膨大なコンピューティング需要に対して、いまあるチップでは性能が不足しています。同時に、供給量も不足しています。半導体業界では、サプライチェーンの問題により、ゲーム機から自動車に至るまで、十分な数のチップを供給するのに何カ月もの遅延が起きています。

いまのところ、メタバースのためのプラットフォームを構築していると発表しているチップメーカーは、エヌビディアNVIDIA)のみ。「Omniverse」と呼ばれる同社のチップは、「3Dの世界を共有された仮想世界に接続する」ために設計されているといいます。

そして、いまこの話題にインテルが加わろうとしています。インテルは新たなグラフィックプロセッサを2022年第1四半期から発売する予定ですが(2021年8月に発表)、これこそがメタバースを動かすものになると言っています。

インテルのアクセラレーテッド・コンピューティングシステム/グラフィクス・グループを率いるラジャ・コドゥリはQuartzの独占インタビューの中で、メタバースに電力を供給するためには、現在のチップのコンピューティングパワーを1,000倍に向上させる必要があると述べています。

コドゥリは、13日に開催された「RealTime Conference」にも登壇しましたが、それに先立って語ったメタバースに至る道筋メタバースのこれからのビジョン、そしてインテルがどのようにメタバースの構築を支援するのかという展望を、今日のニュースレターでは皆さんにシェアします。

Image for article titled Obsessions:メタバースに必要な「チップ」の話

──メタバースについていま言えることって、なんでしょう?

すでにわたしたちが知っている大前提としてあるのは、『スノウ・クラッシュ』や『レディ・プレイヤー・ワン』で描かれていたことと、それらの体験を提供するためはいまあるものの1,000倍以上の計算インフラが必要だということです。

PCの性能は日々向上しています。最近のスマートフォンは素晴らしく、2テラフロップのGPU(グラフィックプロセッサ)が搭載されています……それに、クラウドも。大きく進歩してきましたが、しかし、それだけでは不十分なのです。

──あなたが執筆されたメタバースについての論文では、誰がそれを構築するのか、どのようなものになるのか、ということについてさまざまに論じられていますが、まずもってチップメーカーはインフラを構築する必要がありますよね。

ええ、まさに。……この5年間、わたしが追求してきたのは、メタバースに必要な計算機のフレームワークを用意することでした。ペタフロップス(1,000テラフロップス)のコンピューティングに、1ミリ秒以下、リアルタイムで使う場合は10ミリ秒以下でアクセスする必要があるという世界です。

わたしたちは、この文明が実現するという前提のもと、それに必要な道路や高速道路、鉄道路線の整備を水面下で進めてきました。道路がつくられている最中って、先のことを考えてワクワクしますが、いざできてしまえば誰も気にしませんよね。わたしたちが目指すのはまさにそれで、すべてが構築されれば、誰もがメタバースで楽しむことができるわけです。

──いま、ようやくインテルが初めてメタバースについて公に語ることになるわけですが、なぜこのタイミングだったのでしょうか?

いまより以前であれば、まだ推測の域を出ない状態でした。それに、1年以上先のことを話そうとすると、「パワーポイント資料が多すぎる!」なんてことにもなりますから。2022年には投入し始める予定ですが、これは今後4〜5年をかけて歩んでいく、あらゆる人がよりよい、より速いコンピュータにアクセスできるようにするための旅ともいえます。来年は、例えて言うならば「最初の道路を整備すること」。2022年の初頭には、実際に発売していく予定です。

──インテルは、メタバースについてどんなビジョンをもっていますか? それは1つのまとまった空間なのでしょうか? あるいは異なるメタバースの連なりになるのでしょうか?

わたしたちがイメージしているのは、何かしらのアカウントで互いに接続された複数の宇宙です。個人的に「こうなって欲しい」と思うメタバースは、いまこうしてあなたとわたしが交わしているビデオインタビューを、完全な没入型環境で行うことができるというもので、お互いのビデオが写真以上にリアルになればと思っていますが……より3D化されたリアリティのなかで、世界中の人びとと交流しコラボレートできるようになったらと思っていて。「Zoom」の超強力版のようなものを期待しています。

それとは別に期待するのは、楽しみながらポイントを貯めたり、クエストをこなしたりするゲーム体験です。そこでは、ミーティングも単なる会議を超えたソーシャルなものになるでしょう。アバターもクリエイターもともにいる、途切れることのないソーシャルスペースと言ってもいいでしょう。みんなで協力してする作業がすべてがリモートで行われ、物語や映画や、あるいはフィジカルな物まで、物理的にその場にいなくてもモノづくりができる……豊かな可能性を秘めています。

ゲームでの営みもコラボレーションもソーシャルも、すべてが異なるメタヴァースをもちうるでしょう。それらがお互いにつながることもあるかもしれません。しかし、基盤となるテクノロジーのフレームワークは共通であると考えています。

The path to the metaverse

メタバースへの道

──ここまで語っていただいたメタバースのビジョンは、どのくらい実現しているのでしょうか。

すでにさまざまな事例として現れていますよね。ただ、ブロードバンドや5Gなどといった現存するインフラは、部分的にはかなり充実しているものの、ご存じの通り「一貫性」がありません。わたしはサンフランシスコのベイエリアに住んでいますが、サウスベイからサンフランシスコに行くと、シグナルの質や帯域幅があちこちで異なります。シリコンバレーの中心部でさえ、一貫性がありません。わたしにとってのメタバースとは「継続的な体験である」ということです。わたしが「その世界にいる」とは、「その世界にいる」ことでなくちゃいけない。ヘッドセットを装着するのもいいですが、ずり落ちたりすると目もあてられませんからね。

先に挙げたような「写真以上にリアル」を実現するために必要な演算も同様です。そうした「美しいメタバース」のためには、PCからスマホ、エッジネットワーク、携帯電話基地局、クラウドコンピューティングに至るまでがオーケストラのように連携する必要があります。それには時間がかかるし、フェイスブックもマイクロソフトもグーグルも、われわれインテルやエヌビディアもこうしたインフラを遍在させようとしていますが、それには時間と努力が必要です。

──「Web3」(分散型の「未来のインターネット」)とメタバースはどこで交わるのでしょうか?このようなものを構築する上で、分散化は実際に重要なのでしょうか?

これもバズってる話題ですね。わたしは、分散型コンピューティングも、取引をより簡易化するメカニズムも、メタバースの普及に役立つと強く思います。Web3の基本要素である「分散化」、そしてマイクロトランザクション決済システムを活用するのは、素晴らしいことだと思います。

the environment and…

環境、サプライチェーン

──メタバースを構築するにあたり、環境に配慮したかたちで実現するには、どうすればよいのでしょうか?

これは最大の技術的課題であると同時に、わたしたちエンジニアにとってもエキサイティングなことですね。というのも、冒頭で述べた「1,000倍」というコンピューティング能力は、いまあるものと同じか、あるいはより低いエネルギー消費レベルで実現されなければならないからです。わたしたちは、標準的な「ムーアの法則」曲線(指数関数的なコンピューティングの成長を示すもの)のままでは、今後5年間で8〜10倍程度の成長しか見込めないと考えています。

ゆえに、アルゴリズム、アーキテクチャ、ニューラルネットアルゴリズムなどが、その効率性を高める役割を担うことになります。実際にわたしたちも取り組んでいますが、この「1,000倍」を実現するには、アルゴリズムが大きな役割を果たすことになるでしょう。ブルートフォース(総当たり)も有効で、ビットコインファームのように、より多くの計算機を投入するのでもいいでしょう。ただし、それではエネルギー効率がよくありません。だからこそ、エネルギー効率の高いハードウェア、より優れたアルゴリズム、より優れたアーキテクチャのバランスをとる必要があるのです。それが「1,000倍」に至る道なのです。

──いま世界はチップ不足やサプライチェーンの問題に直面しています。インテルのビジョンやタイムラインに、どんな影響を与えますか?

影響はあります。半導体業界の人間からすると、需要が爆発的に増加しているのも、メタバースのニーズがさらに高まっているのもポジティブな側面ではあります。わたしたちに課せられているのは、生産能力をより効率的に活用しなければならないということ。より多くの生産コストが必要なチップを必要とすることなく、メタバース体験を得られるようにしなければなりません。

わたしたちは、もっともっと効率的にならなければなりません。水を無駄にしない、電気を無駄にしない、熱を無駄にしない……そういった環境意識は、半導体も例外ではないのです。


💎 毎週火曜の夜のニュースレターではQuartzが注目するホットな話題にフォーカスしてお届けしています。

🎧 Quartz JapanオリジナルPodcastでは「お悩み相談 グローバルだけど」の最新話を公開中。お悩み・お便りはこちらから。AppleSpotify

🎧 あたらしいPodcastシリーズはもうお聴きになりましたか? 毎朝お届けしている「Daily Brief」から、最新ニュースを声でもお楽しみいただけます。

👀 TwitterFacebookでも最新ニュースをお届け。

👇 のボタンから、このニュースレターをTwitter、Facebookでシェアできます。ニュースレターの転送もご自由に(転送された方へ! 登録はこちらからどうぞ)。