11月29日、ジャック・ドーシー(Jack Dorsey)はツイッターの最高経営責任者(CEO)を退任しました。古参社員のひとりで現在は最高技術責任者(CTO)を務めるパラグ・アグラワル(Parag Agrawal)が後継者に指名されており、ドーシーは、アグラワルはツイッターとその中核を成す製品をよく理解していると述べています。
ドーシーは2007年に仲間たちとツイッターを立ち上げましたが、そのときはプログラマーとして働いており、同じくプログラマーであるアグラワルに自分に近いものを感じていると言われています(アグラワルは髭は生やしていませんが)。ただ、CEOの交代劇はそれ以上に、ツイッターの優先順位の変化を反映したものです。
ツイッターは昨年、「Twitter」のインターフェイス変更や新機能の導入、ユーザーエクスペリエンスの改良などを行いました。具体的には、Twitterに音声チャット「スペース(Spaces)」を追加したほか、ニュースレター配信プラットフォームのレビュー(Revue)を買収しています。また、ユーザーがお金を払っているフォロワーだけにツイートできる「スーパーフォロー(Super Follows)」機能や、月額3ドル(340円)で特別な機能を使える有料オプション「Twitterブルー(Blue)」の提供も始めました。
ただ、ツイッターが長年にわたって最も重視してきたのは製品そのものではなく、“信頼と安全性”でした。それは、この業界ではプラットフォームから害となるものを排除することを意味します。昨年には、前大統領ドナルド・トランプが連邦議会議事堂への乱入を煽るツイートをしたためにアカウントを凍結されましたが、ツイッターはそのかなり前に利用規約を更新していました。政治家など指導的立場にあるユーザーの発言や虚偽の拡散によって現実世界にさまざまな影響が生じますが、そうした事態を懸念したためです。
この結果、トランプ前大統領のツイートの多くには警告ラベルが付くようになりました。トランプは各地でブラック・ライブズ・マター(BLM)の抗議運動が盛んだった昨年5月、「略奪が始まれば銃撃も始まる(When the looting starts, the shooting starts)」というツイートで物議を醸しましたが、こうした投稿は「表示」をクリックしない限り見られないようにするという措置も取っています。
トランプが主要なSNSプラットフォームから締め出されてほぼ1年が経ったいま(前大統領はFacebookでもアカウントが停止されており、少なくとも2024年まではこの状態が続く見通しです)、Twitterのコンテンツモデレーションは十分で、ツイッターは製品の改良に注力するだけの余裕があるのだと信じたくなります。しかし、トランプが政治的復活を遂げたり、もしくはトランプのような誰かが再び登場した場合、どのようなことが起こるか想像してみてください。ツイッターの最高法務責任者(CLO)で安全性管理の責任者でもあるヴィジャヤ・ガッデ(Vijaya Gadde)は、その仕事をこなしていけるのでしょうか。
アグラワルは今後、Twitterのエコシステムの変革とユーザーベースの拡大、新たな収益源の確保といったことだけでなく、プラットフォームを悪用しようとする者たちと戦う能力についても試されることになります。特に、権力を握る人たちが問題行動を起こしたときには難しいことになるでしょう。
BY THE DIGITS
数字でみる
- 12億ドル(1,362億円):2021年第3四半期の売上高。前年同期比37%の増収を達成
- 2億1,100万人:Twitterのデイリーアクティブユーザー数
- 2.99ドル(340円):Twitterブルーの月額利用料
- 97%:全ツイートに占めるパワーユーザー25%のツイートの割合
- 38万6,000人:Quartzのフォロワー数(ぜひフォローを! Quartz JapanのTwitterアカウントも…!)
- 40404:ショートメッセージ(SMS)でツイートを受け取るのに使われていた番号。このサービスは2020年に終了
HAS TWITTER PEAKED?
ブームは過ぎ去った?
イーマーケター(eMarketer)とインサイダー・インテリジェンス(Insider Intelligence)の最新のリポートによれば、Twitterはピークを過ぎた観があります。月間ユーザー数は非公開ですが、イーマーケターの試算によれば米国のユーザー数は新型コロナウイルスのパンデミックも手伝って、今年は5,460万人に達する見通しです。しかしここがピークで、2025年末までには110万人減少することが予想されています。
もちろん、だからと言ってSNSとしては終わりということではありません。イーマケターのシニアアナリストのジャスミン・エンバーグは、「Twitterのバリュープロポジションがユーザー数だったことはありません。そうではなく、パワーユーザーやプラットフォームを日常的に使っている人たちの熱心さこそが、Twitterの価値なのです」と説明します。
ただ、アグラワルは投資家を喜ばせるために、新規ユーザーを増やすか、既存ユーザーのエンゲージメントを高める方法を見つける必要が出てくるでしょう。ここでは新たなサブスクサービスのTwitterブルーが非常に重要になると、エンバーグは言います。それはまた、クリエイターがフォロワーとコミュニケーションを取る上で新たなツールになっていくでしょう。
A BRIEF HISTORY
ツイッターの歴史
2006年:ジャック・ドーシー、エヴァン・ウィリアムズ(Evan Williams)、ノア・グラス(Noah Glass)、ビズ・ストーン(Biz Stone)の4人によって創業。立ち上げ当初はオデオ(Odeo)というポッドキャストのスタートアップの一部だった
2007年:ドーシーがCEOとなり、オデオからスピンオフ。テックと音楽の祭典「サウス・バイ・サウスウエスト(South by Southwest)」で人気を博す
2008年:ドーシーに代わってウィリアムズがCEOに就任
2009年:評価額が10億ドル(1,135億円)を超える
2010年:グーグルでプロダクトマネジャーだったディック・コストロ(Dick Costolo)がCEOに就任
2012年:6秒の動画共有プラットフォーム「Vine」を3,000万ドル(34億円)で取得
2013年:ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場。公開価格は26ドル(2,950円)だった(現在の株価は45ドル〈5,107円〉前後)
2015年:動画配信サーヴィス「Periscope」を買収。ドーシーが再びCEOに就任
2016年:タイムラインの表示にアルゴリズムを導入。問題のあるツイートを連発することで知られるドナルド・トランプが大統領選挙に勝利。
2017年:Vineのサービス提供を終了。3年後には同様のショート動画プラットフォーム「TikTok」が米国で大ブームとなる
2021年1月:暴力を先導したとして、トランプ前大統領のアカウントを凍結
2021年11月:ドーシーが退任し、アグラワルがCEOに就任
ONE 😁 THING
退任メッセージ
ドーシーが退任を明らかにしたメッセージには、フェイスブック(ではなかった、いまの社名はMetaですね)CEOのマーク・ザッカーバーグに対する批判が込められているのかもしれません。ドーシーはここで、シリコンバレーにはスタートアップが「創業者主導か」にこだわる文化があり、これは企業の可能性を「ひどく制限」してしまうものだと考えていると述べています。
スクエア(ではなかった、Blockという社名になったんですよね)のCEOを兼任していたことを思えば、ドーシーがツイッターの運営にどこまで関わっていたかはわかりません。ただ、彼は自分のエゴより会社を優先させなければならないと述べており、退任メッセージには「これが正しい選択だったことが証明されるはずだ」と書かれていました。
ドーシーの”別れの言葉”はザッカーバーグを意識したものなのでしょうか? そんな気もしますよね。
今日の「The Company」ニュースレターは、Scott Nover(QuartzイチのTwitterユーザー)がお届けしました。日本版の翻訳は岡千尋、編集は年吉聡太が担当しています。
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